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塞下曲 

                        高啓
日落五原塞,
蕭條亭堠空。
漢家討狂虜,
籍役滿山東。
去年出飛狐,
今年出雲中。
得地不足耕,
殺人以爲功。
登高望衰草,
感歎意何窮。



    **********************


          塞下の曲

日は 落つ  五原の塞,
蕭條
(せうでう)たり  亭堠(ていこう)の空。
漢家  狂虜
(きゃうりょ)を 討ち,
籍役
(せきえき)  山東に 滿つ。
去年  飛狐
(ひこ)を 出(い)で,
今年  雲中
(うんちゅう)を 出(い)づ。
地を得
(う)るも  耕すに 足(た)らず,
人を殺し  以て 功と爲す。
高きに登り  衰草
(すゐさう)を望まば,
感歎  意 何ぞ窮
(きは)まらん。


             ******************


◎ 私感訳註:

※高啓:明初(1336年〜1374年)の詩人。明代最高の詩人とされる。字は季迪。江蘇省長州(現・蘇州)の人。元末に呉淞の青丘に隠棲する。唐宋の格調高い詩風を保っている。『元史』の編纂に従事する。戸部右侍郎に任ぜられたが、固辞して郷里の青丘に隠棲する。しかし、洪武七年(1374年)、魏観の謀叛の罪に連座して腰斬の刑に処せられた。時に三十九歳。

※塞下曲:辺疆の地での戦役の歌。万里の長城の外での戦役の歌。この作品は、国土拡張のための戦争に疑義を呈する反戦歌。唐・李白の『戰城南』「去年戰桑乾源,今年戰葱河道。洗兵條支海上波,放馬天山雪中草。萬里長征戰,三軍盡衰老。匈奴以殺戮爲耕作,古來唯見白骨黄沙田。秦家築城備胡處,漢家還有烽火然。烽火然不息,征戰無已時。野戰格鬪死,敗馬號鳴向天悲。烏鳶啄人腸,銜飛上挂枯樹枝。士卒塗草莽,將軍空爾爲。乃知兵者是凶器,聖人不得已而用之。」や、杜甫の『兵車行』「君不見青海頭,古來白骨無人收。新鬼煩冤舊鬼哭,天陰雨濕聲啾啾。」、白居易『新豐折臂翁』「君不聞開元宰相宋開府,不賞邊功防黷武。又不聞天寶宰相楊國忠,欲求恩幸立邊功。邊功未立生人怨,請問新豐折臂翁。」などと、その主張は同じ。同題に、李白の『塞下曲』「五月天山雪,無花祗有寒。笛中聞折柳,春色未曾看。曉戰隨金鼓,宵眠抱玉鞍。願將腰下劍,直爲斬樓蘭。」や、王昌齡の『塞下曲』「飮馬渡秋水,水寒風似刀。平沙日未沒,黯黯見臨。昔日長城戰, 咸言意氣高。 黄塵足今古,白骨亂蓬蒿。」や、常建の『塞下曲』「北海陰風動地來,明君祠上望龍堆。髑髏皆是長城卒,日暮沙場飛作灰。」や、張仲素『塞下曲「朔雪飄飄開雁門,平沙歴亂捲蓬根。功名恥計擒生數,直斬樓蘭報國恩。」 などがある。

※日落五原塞:夕日が五原の塞(とりで)に沈もうとしており。 ・日落:日が沈む。 ・五原塞:漢代、五原に要塞を置いた。『中国歴史地図集』第二冊 秦・西漢・東漢時期「西漢 并州、朔方刺史部」17−18ページ、「東漢 并州史部」59−60ページ(中国地図出版社)にある。現・内蒙古自治区包頭市西30キロメートルの地。

※蕭條亭堠空:ものさびしげな物見台の空である。 ・蕭條:〔せうでう;xiao1tiao2○○〕ものさびしいさま。 ・亭堠:〔ていこう;ting2hou4○●〕ものみ。のろし台。

※漢家討狂虜:漢の朝廷は、狂暴な異民族(匈奴)を討つ(ために)。 ・漢家:漢の朝廷。 *漢代の匈奴の地に対する出兵を詠っているが、明朝初期、朱元璋(洪武帝)の征戦をいう。借古諷今の手法である。 ・狂虜:狂暴な匈奴。狂暴な異民族。

※籍役滿山東:函谷関以東(の地の人民)に納税と賦役を課した。 ・籍役:納税と賦役。 ・山東:函谷関以東。

※去年出飛狐:去年は(現・河北省の)飛狐より出兵し。 ・出:関外へ出兵する。 ・飛狐:地名。要衝。『中国歴史地図集』第二冊 秦・西漢・東漢時期「西漢 并州、朔方刺史部」には無いが、同・『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期の「唐 河東道」46−47ページ、「唐 河北道南部」48−49ページにはある。現・河北省源。天津の西200キロメートルのところ。

※今年出雲中:今年は雲中(現・内蒙古自治区呼和浩特市近辺)より出兵した。 ・雲中:地名。『中国歴史地図集』第二冊 秦・西漢・東漢時期「西漢 并州、朔方刺史部」17−18ページ、「東漢 并州史部」59−60ページ(中国地図出版社)にある。現・内蒙古自治区呼和浩特市西南50キロメートルの地。

※得地不足耕:土地を手に入れたものの、農耕地とするのは不十分であり。 ・得地:土地を手に入れる。 ・不足:不十分である。 ・耕:農耕地とする。

※殺人以爲功:人を殺す(人数・量で)もって、功績とした。 ・以爲:…とする。 ・功:功績。てがら。

※登高望衰草:高い所に登って、(寒気が訪れて抜けて)疎らになった草原を望めば。 ・登高:高い所に登る。 ・衰草:寒気が訪れて抜けて疎らになった草原。

※感歎意何窮:嘆き悲しむ気持ちは、どうして窮まろうか。 ・感歎:嘆き悲しむこと。また、感心してほめたたえること。ここは、前者の意。 ・意:思い。 ・何窮:どうしてきわまろうか。いつまでも窮まることがない。





◎ 構成について

韻式は「AAAAA」。韻脚は「空東中功窮」で、平水韻上平一東。次の平仄はこの作品のもの。

●●●○●,
○○○●○。(韻)
●○●○●,
●●●○○。(韻)
●○●○●,
○○●○○。(韻)
●●●●○,
●○●○○。(韻)
○○◎○●,
●◎●○○。(韻)

2007.10.1
     10.3完
2017. 7.2補
                               
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