白居易一字至七字詩　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩白楽天BaiJuyi

                    　　　
      一字至七字詩 　

      　　　　　　　　　　　白居易

詩。
綺美，
瓌奇。
明月夜，
落花時。
能助歡笑，
亦傷別離。
調清金石怨，
吟苦鬼神悲。
天下只應我愛，
世間唯有君知。
自從都尉別蘇句，
便到司空送白辭。

******

一字より七字に至る詩

詩。
綺美にして，
瓌奇なり。
明月の夜，
落花の時。
能く　歡笑を　助け，
亦た　別離を　傷む。
調　清くして　　金石　怨み，
吟　苦くして　　鬼神　悲しむ。
天下　　只　應に我を愛すべきも，
世間　　唯　君のみ知る　有り。
都尉の　蘇に別るる句より，
便ち　司空の　白を送るの辭に　到る。

*****************

◎　私感註釈

※白居易：中唐の詩人。７７２年（大暦七年）～８４６年（會昌六年）。字は楽天。号は香山居士。官は武宗の時、刑部尚書に至る。平易通俗の詩風といわれるが、詩歌史上、積極的な活動を展開する。晩年仏教に帰依する。

※一字至七字詩：「一字至七字詩」が詩題とされるが、『唐詩紀事』のことばにもあるとおり「一字至七字詩」は形式名であって、詩題は『詩』である。詩題（この作品の場合は『詩』）で押韻する一字ずつ増える対句の「賦得詩，樂天分司東洛，朝賢悉會興化池亭送別。酒酣，各請一字至七字詩，以題爲韻。」（賦すに『詩』を得たり（数人が共通のテーマの下に、それぞれ分得して作ること），樂天　東洛に分司たるとき，朝賢　悉く興化の池亭に會して送別す。酒　酣なるとき，各ゝ一字より七字に至る詩を請ひ，題を以て韻と爲す。）。填詞として数えられ『一七令』という。

※詩：詩は。　*この第一句が詩題でもある。また、この字の属する韻部（この作品でいえば、平水韻上平四支。詞韻第三部平声）で押韻する。

※綺美：巧みで飾りが美しく。　・綺：〔き；qi3●〕美しい。巧みで飾りがあること。

※瓌奇：〔くゎいき；gui1qi2○○〕すぐれてめずらしい。すぐれてりっぱ。　・瓌：〔くゎい；gui1○〕めずらしい。すぐれている。大きい。玉の名。

※明月夜：（秋の）清んだ明るい月夜に。　・明月：（秋の）清んだ明るい（満）月。

※落花時：（春の）花が散る時。　・落花：（春の）花が散る。

※能助歡笑：よく打ち解けて楽しみ笑うのを助けてくれて。　・能：よく。…ができる。　・助：たすける。　・歡笑：（楽しくて口を大きく開けて）よろこび笑う。打ち解けて楽しみ笑う。

※亦傷別離：（よく打ち解けて楽しみ笑うのを助けてくれて）そのうえまた、別離を悲しみいたんでくれた。　・亦：…もまた。…も。「『能助歡笑』の時も『傷別離』の時も」。「うれしいときも悲しいときも」の意。　・傷：いたむ。きずつく。　・別離：わかれ。

※調清金石怨：音楽の調べは清らかで、金属器の鐘や石で作った磬の楽器のきよらかなもののあわれを醸し出しているようで。　・調：〔てう；diao4●〕音楽の調べ。　・清：きよらか。　・金石：楽器のこと。金属器の鐘や石で作った磬などの楽器。同義の用例に、晩唐・張喬の『宴邊將』「一曲涼州金石淸，邊風蕭颯動江城。坐中有老沙場客，橫笛休吹塞上聲。」がある。　・怨：うらむ。（他者を）うらめしく思う。「清怨」の意で、きよらかなもののあわれ。

※吟苦鬼神悲：詩を作ることの苦しみは、鬼神の悲しみのようである。　・吟苦：詩を作ることの苦しみ。　・鬼神：天地万物の霊魂や超人間的な威力や能力をもった恐ろしい神。

※天下只應我愛：天下の（人々は）ただわたしの詩を大切にしてくれるが。　・天下：世の中。　・只應：ただ…だけに…すべきである。ただまさに…べし。後世、辛棄疾の『鷓鴣天』「送人」「唱徹陽關涙未乾，功名餘事且加餐。浮天水送無窮樹，帶雨雲埋一半山。　　　今古恨，幾千般，只應離合是悲歡？江頭未是風波惡，別有人間行路難。」と使う。　・只應我愛：この句分かりにくい。「只應我愛」の句は「唯有君知」と対になっており、それに基づいて考える。＝唯我。　・應：〔おう；ying1○〕あたる。うける。まさに…べし。なお、應：〔おう；ying4●〕こたえる、の意もあるが仄声。ここの句の平仄は、「○●●○●●」で、基本的には「●●○○●●」型のところ。対の「世間唯有君知」は「●○○●○○」で、基本的には「○○●●○○」型のところ。それ故、ここの「應」は〔おう；ying1○〕うける。あたる。まさに…べしの意でないと、平仄が崩れる。語法上、動詞の「うける。あたる」が相応しく、副詞の「まさに…べし」では苦しい。（読み下しでは後者を使ったが、どう読むべきか大いに悩んでいる。）　・愛：めでる。大切にする。

※世間唯有君知：世の中では、ただあなただけが分かってくれるのみである。　・世間：世の中。　・唯有：ただ…だけがある。＝惟有。曹操の『短歌行』に「對酒當歌，人生幾何。譬如朝露，去日苦多。慨當以慷，憂思難忘。何以解憂，唯有杜康。」や、唐の劉希夷『白頭吟（代悲白頭翁）』に「洛陽城東桃李花，飛來飛去落誰家。洛陽女兒惜顏色，行逢落花長歎息。今年花落顏色改，明年花開復誰在。已見松柏摧爲薪，更聞桑田變成海。古人無復洛城東，今人還對落花風。年年歳歳花相似，歳歳年年人不同。寄言全盛紅顏子，應憐半死白頭翁。此翁白頭眞可憐，伊昔紅顏美少年。公子王孫芳樹下，淸歌妙舞落花前。光祿池臺開錦繍，將軍樓閣畫神仙。一朝臥病無人識，三春行樂在誰邊。宛轉蛾眉能幾時，須臾鶴髮亂如絲。但看古來歌舞地，惟有黄昏鳥雀悲。」とあり、李白の『將進酒』に「君不見黄河之水天上來，奔流到海不復回。君不見高堂明鏡悲白髮，朝如青絲暮成雪。人生得意須盡歡，莫使金尊空對月。天生我材必有用，千金散盡還復來。烹羊宰牛且爲樂，會須一飮三百杯。岑夫子，丹丘生。將進酒，杯莫停。與君歌一曲，請君爲我傾耳聽。鐘鼓饌玉不足貴，但願長醉不用醒。古來聖賢皆寂寞，惟有飮者留其名。陳王昔時宴平樂，斗酒十千恣歡謔。主人何爲言少錢，徑須沽取對君酌。五花馬，千金裘。呼兒將出換美酒，與爾同銷萬古愁。」とあり、劉長卿は『尋盛禪師蘭若』で「秋草黄花覆古阡，隔林何處起人煙。山僧獨在山中老，唯有寒松見少年。」や、後世、北宋・蘇軾の『江城子』乙卯正月二十日夜記夢には「十年生死兩茫茫，不思量。自難忘。千里孤墳，無處話淒涼。縱使相逢應不識，塵滿面，鬢如霜。　　　夜來幽夢忽還鄕。小軒窗，正梳妝。相顧無言，惟有涙千行。料得年年腸斷處，明月夜，短松岡。」と使い、司馬光『居洛初夏作』「四月清和雨乍晴，南山當戸轉分明。更無柳絮因風起，惟有葵花向日傾。」と使う。

※自從都尉別蘇句：（史上名作といわれる詩は）漢・李陵が蘇武に贈った『與蘇武詩』や『與蘇武詩』の詩から。　・自從：…より。　・都尉：李陵の官職。　・別蘇句：（匈奴の地に留まった李陵が、漢の地に戻っていく）蘇武に別れを告げた『與蘇武詩』のこと。『與蘇武詩』「良時不再至，離別在須臾。屏營衢路側，執手野踟。仰視浮雲馳，奄忽互相踰。」や、同・『與蘇武詩』其二「嘉會難再遇，三載爲千秋。臨河濯長纓，念子悵悠悠。遠望悲風至，對酒不能酬。行人懷往路，何以慰我愁。獨有盈觴酒，與子結綢繆。」がある。　・別：わかれる。　・蘇：蘇武のこと。蘇武に『詩四首』其三「結髮爲夫妻，恩愛兩不疑。歡娯在今夕，婉及良時。征夫懷往路，起視夜何其。參辰皆已沒，去去從此辭。」などが遺されている。　・句：詩句。

※便到司空送白辭：すなわち、司空が白居易を見送る辞に到るまでであろう。　・便：するとすぐに。たやすく。そのままで。つまり。すなわち。　・到-：…まで。　・司空：官名。　・送：見送る。　・白：白居易のこと。　・辭：詩。ことば。　・司空送白辭：実際には何という詩作を指しているのか不明。

　　　　　　　　　　　　　　　***********

◎　構成について

韻式は「AAAAAAA」。韻脚は「詩奇時離悲知辭」で、平水韻上平四支。次の平仄はこの作品のもの。填詞としても数えられて、『一七令』という。単調五十五字。

○。（韻）
●●，
○○。（韻）
○●●，
●○○。（韻）
○●○●，
●○●○。（韻）
◎○○●●，
○●●○○。（韻）
○●●○●●，
●○○●○○。（韻）
●○○●●○●，
●●○○●●○。（韻）