![]() ![]() |
![]() |
村舍 | |
清・趙執信 |
亂峯重疊水橫斜,
村舍依稀在若耶。
垂老漸能分菽麥,
全家合得住烟霞。
催風筍作低頭竹,
傾日葵開衞足花。
雨玩山姿晴對月,
莫辭閒澹送生涯。
******
村舎
亂峯 重疊 として 水橫斜 ,
村舍依稀 として若耶 に在 るがごとし。
老 いに垂 んとして漸 く能 く菽麥 を分かち,
全家 合 に烟霞 に住まふを得 べし。
風に催 されて筍 は 低頭の竹と作 り,
日に傾く葵 は衞足 の花を開く。
雨ふれば山姿 を玩 でて 晴るれば 月に對す,
辭す莫 れ閒澹 に 生涯を送るを。
****************
◎ 私感註釈
※趙執信:清代の詩人、詩論家、書法家。1662年(康煕元年)~1744年(乾隆九年)字は伸符。号して秋谷、晩号は飴山老人。山東省益都(現・淄博市博山)の人。康煕十四年に秀才となり、康煕十八年に進士となる。官は右春坊右賛善、翰林院検討に任じられる。康煕二十八年の時、佟皇后の喪葬の期間にもかかわらず、洪升の『長生殿伝奇』を観劇して酒盛りをしたため、弾劾されて官職を辞した。その後五十年間、終身に亘って仕えることなく、詩作に耽って過ごした。
※村舎:いなかの家。ここでは、作者の隠居所を指し、いなか暮らしを謂う。
※乱峰重畳水横斜:不ぞろいに聳え立つ峰々が重(かさ)なって、川は横たわり斜めに流れている。 *句中の対で「乱峰・重畳+水・横斜」という構成。 ・乱峰:不ぞろいに聳え立つ峰々。 ・重畳:〔ちょうでふ;chong2die2○●〕重複する。重(かさ)なる。 ・水:川(や湖)の流れ。 ・横斜:横たわり斜めになっている。北宋・林逋の『山園小梅』に「 衆芳搖落獨暄妍,占盡風情向小園。疎影橫斜水淸淺,暗香浮動月黄昏。霜禽欲下先偸眼,粉蝶如知合斷魂。幸有微吟可相狎,不須檀板共金尊。」とある。
※村舎依稀在若耶:(作者の)いなか暮らしの家は、髣髴として若耶渓にあるかの如くである。 ・依稀:〔いき;yi1xi1○○〕髣髴として。よく似ているさま。また、ぼんやりと。かすかに。ここは、前二者の意。晩唐の趙『江樓書感』では「獨上江樓思渺然,月光如水水連天。同來翫月人何處,風景依稀似去年。」
とあり、唐末~五代・張泌『寄人』に「別夢依依到謝家,小廊迴合曲闌斜。多情只有春庭月,猶爲離人照落花。」
があり、後世、毛沢東は(後者の例で)『到韶山』で「別夢依稀咒逝川,故園三十二年前。紅旗捲起農奴戟,黑手高懸覇主鞭。爲有犧牲多壯志,敢敎日月換新天。喜看稻菽千重浪,遍地英雄下夕煙。」
と使う。 ・若耶:〔じゃくや;Ruo4ye1(2)●○〕若耶渓のこと。現・浙江省紹興の南の平水江のことで、神話や伝説で彩られたところで、古来幾多の文人文人墨客が遊び、数多くの詩歌に風雅なところとして詠われた渓流。『中国歴史地図集』第六冊 宋・遼・金時期(中国地図出版社)59-60ページ「南宋 両浙西路 両浙東路 江南東路」では、紹興府、山陰を若耶渓が流れて鏡湖に注ぐ。北宋・柳永の『夜半樂』に「凍雲黯淡天氣,扁舟一葉,乘興離江渚。渡萬壑千巖,越溪(若耶溪)深處。怒濤漸息,樵風乍起,更聞商旅相呼,片帆高舉。泛畫鷁、翩翩過南浦。 望中酒旆閃閃,一簇煙村,數行霜樹。殘日下,漁人鳴榔歸去。敗荷零落,衰楊掩映,岸邊兩兩三三,浣沙遊女。避行客、含羞笑相語。 到此因念,繍閣輕抛,浪萍難駐。歎後約丁寧竟何據。慘離懷,空恨歳晩歸期阻。凝涙眼、杳杳神京路。斷鴻聲遠長天暮。」
とある。
※垂老漸能分菽麦:老境に近くなってから、(農業の知識も増えて)ようやく豆類と麦類との識別が出来るようになり。 ・垂老:老境に近い。老人になりかかっている。老いになんなんとす。 ・漸:〔ぜん;jian4●〕ようやく。だんだんと。次第に。 ・能:…ことができる。可能表現。 ・分:分かる。辨別する。 ・菽麦:〔しゅくばく;shu1mai4●●〕マメとムギ。「分菽麦」で、豆類と麦類との識別が出来る意。なお、「不能辨菽麥」(『左傳』「成公十八年」)の意は、豆類と麦類との辨別も出来ないほどの愚かしさ、といった喩え。『左傳』「成公十八年」「周子有兄而無慧,不能辨菽麥,故不可立。」(左丘明著 李維琦注 岳麓書社出版(2001年長沙)339ページ)にある。 ・菽:〔しゅく;shu1●〕豆類の総称。
※全家合得住烟霞:全家族が揃って、山水のよい景色の所に住むことが出来た。 ・全家:〔ぜんか;quan2jia1○○〕全家族。一家全部。 ・合:当然…すべきである。まさに…すべし。≒應。唐~蜀・韋莊の『菩薩蠻』其二に「人人盡説江南好,遊人只合江南老。春水碧於天,畫船聽雨眠。 爐邊人似月,皓腕凝雙雪。未老莫還鄕,還鄕須斷腸。」とある。 ・烟霞:山水のよい景色。本来の意は、かすみ。もや。ここは、前者の意で使われる。
※催風筍作低頭竹:風に促されて、筍(たけのこ)は、頭を垂れた竹となり。 ・筍:〔じゅん;sun3●〕たけのこ。 ・作:…となる。
※傾日葵開衛足花:太陽(≒君主)の方向に傾く葵(=ヒマワリ)の根元を衛(まも)る花は、咲いている。 ・傾日:太陽の方向に傾く。「傾日葵…」で君主の徳を慕う臣下を謂う。作者の心情を暗示する語句。蛇足になるが、文化大革命の時期にヒマワリの群叢のある絵画・図案が多かったが、あれは「我們心中最紅最紅的紅太陽毛主席」であり、「共産黨像太陽」と位置づけられていたからである。 ・葵:〔き;kui2○〕ヒマワリ(向日葵)。=葵花(ヒマワリ)。 ・衛足:〔wei4zu2〕ヒマワリを謂う。『左傳』「成公十七年」「仲尼曰:『鮑莊子之知不如葵,葵猶能衛其足。』」(左丘明著 李維琦注 岳麓書社出版(2001年長沙)336ページ
)にある。
※雨玩山姿晴対月:雨が降る時は(屋内から)山の姿を愛(め)でて、晴れれば月に向かっている。 *「雨玩山姿晴対月」は句中の対になっており、「雨・玩・山姿+晴・対・月」で「雨:晴」「玩:対」「山姿:月」が対。「雨」「晴」の読みは、どちらもレバ則の訓みを援用し、已然形を使った。 ・玩:見て楽しむ。めでる。深く味わう。観賞する。賞翫(賞玩)する。また、もてあそぶ。ここは、前者の意。
※莫辞閑澹送生涯:(このように)閑静に生涯が送ることを辞退なされるな。 ・莫辞:辞退しなさるな。辞退するなかれ。盛唐・崔敏童の『宴城東莊』に「一年始有一年春,百歳曾無百歳人。能向花前幾回醉,十千沽酒莫辭貧。」とあり、 中唐・白居易の『琵琶行』に「今夜聞君琵琶語,如聽仙樂耳暫明。莫辭更坐彈一曲,爲君翻作琵琶行。感我此言良久立,卻坐促絃絃轉急。淒淒不似向前聲,滿座重聞皆掩泣。座中泣下誰最多,江州司馬青衫濕。」
とある。 ・閑澹:〔xian2dan4○●〕静かでやすらかに。
***********
◎ 構成について
韻式は、韻式は、「AAAAA」。韻脚は「斜耶霞花涯」で、平水韻下平六麻。この作品の平仄は、次の通り。
●○○●●○○,(韻)
○●○○●●○。(韻)
○●●○○●●,
●●●●●○○。(韻)
○○●●○○●,
○●○○●●○。(韻)
●●○○○●●,
●○○●●○○。(韻)
2012.2.12 2.13 2.14 2.15完 5.16補 |
![]() ![]() ![]() ************ ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ![]() |
![]() |