都所静世辞世　日本漢詩選詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 Ribengushi


辭世
	都所靜世
二十一歳當爲有，享生皇土今報秋。回天偉業人知否，必死肉彈又必中。

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辭世

二十一歳　　當まさに爲ために有るべし，
生を皇土に享うけて　　今　報むくゆるの秋とき。
回天くゎいてんの偉業　　人　知るや否いなや，
必死の肉彈　　又また必中せん。

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◎　私感註釈

※都所靜世：海軍の回天特別攻撃隊隊員。戦死当時の階級：海軍中尉。二十一歳　群馬県出身。出身別：海軍機関学校（海機）５３期。隊名：金剛隊イ３６潜。使用兵器：回天。戦死の日付：昭和二十年一月十二日。戦死場所：ウルシー泊地。

※辞世：特攻隊員の遺詠（６８２番）。『特攻隊遺詠集』（特攻隊戦没者慰霊平和祈念協会・編 PHP研究所 1999年）より。なお、作者の和歌に「君がため死すべき秋ときに生まれける己が命をなど惜しむべき」（６８０番）、「生もなく死もなき境地今の吾念おもふは一つ國の事のみ」（６８１番）がある。

※二十一歳當爲有：わたしの二十一歳の生命は、この時のためにこそ、あるべきであった。　*「二十一歳」の語が最初に出てくる心情は、察するに余りある。「人生有意」を乗り越えてここに至ったのだろう…。　・當：当然…すべきである。まさに…べし。　・爲：ために。

※享生皇土今報秋：（それは）この皇国に生を享（う）けた（者にとって）、今こそ（国家の）恩に報いる時である。　・享生：命を授かる。生を享（う）ける。　・皇土：天皇の統治する国土。皇国。　・報：むくいる。こたえる。　・秋：とき。諸葛亮の『前出師表』のものが有名。『昭明文選』『古文觀止』『文章軌範』に、諸葛武侯として「臣亮言。先帝創業未半而中道崩殂。今天下三分，益州疲弊，此誠危急存亡之秋也。…」から始まり、「…臣不勝受恩感激，今當遠離，臨表涕泣，不知所云。」で、終わる心のこもった名文である。『文章軌範』の外、『三國志卷三十五・蜀書五・諸葛亮傳第五』等に見える。なお、上掲の原文は『文章軌範』のものであり、僅かに異同がある。幕末・高杉晉作の『題焦心録後』に「内憂外患迫吾州，正是危急存亡秋。唯爲邦君爲邦國，降彈名姓又何愁。」とある。

※回天偉業人知否：（人間魚雷）回天の戦局を逆転させる偉業を、人は知っているかどうかは（不明だが）。　・回天：（天を回転させる意で、天下の形勢を変える。衰えた勢いを再び盛んにする。衰えた戦局を挽回する意で名づけられた海軍の特殊潜航艇。人間魚雷。敵艦に体当たりして自爆した。　・否：〔ひ；fou3●〕…かどうか。…するや否や。疑問の助詞。　・人知否：軍事機密で事情は封鎖されていること。

※必死肉彈又必中：死を以ての肉弾攻撃は、また必ずや当たることだろう。　・肉彈：人間魚雷。肉体を弾丸の代わりにして敵地に突入していくこと。　・必中：かならずあたる。「中」〔ちゅう；zhong4●〕は動詞。「あたる」意。

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◎　構成について

韻式は、「AAA」。韻脚は「有秋中」で、日本語音の「－う」韻（いう・しう・ちゅう）。この作品の平仄は、次の通り。

●●●●◎◎●，（韻）
●○○●○●○。（韻）
○○●●○○●，
●●●●●●●。（韻）