辭世 | ||
明智光秀 | ||
順逆無二門, 大道徹心源。 五十五年夢, 覺來歸一元。 |
順逆 二門 無く,
大道 心源に徹す。
五十五年の夢,
覺來りて 一元に歸す。
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◎ 私感註釈:
※明智光秀:享禄元年(1528年)〜天正十年(1582年)。
※辞世:死にぎわによみ遺す詩歌、偈頌など。 *この辞世は、明智光秀のものと云われ、『明智軍記』にあるとのことだが、原典未確認。
※順逆無二門:恭順(も可、)反逆(も可)という、二通りの入り口は無く。 ・順逆:道理に従うことと逆らうこと。恭順と反逆。順序が正しいことと逆であること。正しいこととよこしまなこと。正と邪。幕末〜明治初期・大槻磐溪の『楠公湊川戰死圖』に「王事寧將成敗論,唯知順逆是忠臣。斯公一死兒孫在,護得南朝五十春。」とある。 ・無二門:「二門が無い」意ととるか、「無二の門」ととるかで、意味が大きく異なる。漢語語法や構成上、どちらに解釈しても可。そのため、多くの解釈が生まれよう。ここでは、一応「二門が無い」意としておく。 ・無二:二つとない。比べるものがない(≒無双)。ふたごころがない。ただひとつで他のものがない(≒唯一)。仏の道。ただひとすじに物事をなす(≒一心)。 ・門:出入り口。いえ。いえがら。
※大道徹心源:人のふみおこなうべきりっぱな道理(の存在すること)が、心の底まで深く突き通して(分かった)。 ・大道:〔たいだう;da4dao4●●〕人のふみおこなうべきりっぱな道理。大法。大儀。 ・徹:〔てつ;che4●〕(つきぬけて)とおる。とおす。つきとおす。とどく。 ・心源:こころのみなもと。心底。
※五十五年夢:(わたしの)五十五年間の夢(=五十五年間の人生)(から)。 ・五十五年:明智光秀の最期の年齢。明智光秀は享禄元年(1528年)から天正十年(1582年)までの人で、1582−1528=54 満五十四歳、数え五十五歳を謂う。 ・夢:人生、今生を謂う。盛唐・李白の『春日醉起言志』に「處世若大夢,胡爲勞其生。所以終日醉,頽然臥前楹。覺來盼庭前,一鳥花間鳴。借問此何時,春風語流鶯。感之欲歎息,對酒還自傾。浩歌待明月,曲盡已忘情。」とあり、『信長公記』の敦盛の舞「人間(にんげん)五十年、下天(げてん)の内をくらぶれば、夢幻(ゆめまぼろし)の如くなり。一度(ひとたび)生を得て、滅せぬ者のあるべきか。」を聯想することばである。後世、昭和・西田税は『絶命詞』で「天有愁兮地有難,涙潸潸兮地紛紛。醒一笑兮夢一痕,人間三十六春秋。」とする。
※覚来帰一元:(五十五年間の夢)から目覚めて、(今、)根元へ戻っていく(ところだ)(=黄泉に赴こうとしている)。 ・覚来:目覚めてくる。前出・西田税は『絶命詞』で「醒一笑兮夢一痕,人間三十六春秋。」とある。 ・帰:(自宅、故郷、墓所等、自分の本来の居場所へ)かえっていく。 ・一元:おおもと。根元(こんげん)。物事の根元がただ一つであること。同一の根元。暦法では、四千五百六十年。易では、六十年。邵雍の主張では、世界の変化が一循環する十二万九千六百年。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「門源元」で、平水韻上平十三元。この作品の平仄は、次の通り。
●●○●○,(韻)
●●●○○。(韻)
●●●○●,
●○○●○。(韻)
平成22.11.15 11.16 11.17 |
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