![]() |
![]() |
|
![]() |
||
聞海軍占領南洋耶爾特島 | ||
大正天皇 |
||
艨艟破浪到南洋, 孤島受降天一方。 要使民人浴皇化, 仁風恩露洽桄榔。 |
艨艟 浪を破りて 南洋に到り,
孤島受降 す天 の一方 。
民人 をして皇化 に浴 せしむるを要 すれば,
仁風 恩露 桄榔 に洽 し。
*****************
◎ 私感註釈
※大正天皇:第百二十三代天皇。明治十二年(1879年)~大正十五年(1926年)。幼称は明宮(はるのみや)。諱は嘉仁(よしひと)。第百二十二代天皇・明治天皇の子で、第百二十四代天皇・昭和天皇の父。
大きな地図で見る
※聞海軍占領南洋耶爾特島:海軍が南洋のヤルート島を占領したことを聞いて。 *この詩は大正三年(1914年)の作で、この年の八月にドイツに対し宣戦、第一次世界大戦に参加し、十月にドイツ領の南洋群島を占領した時の感慨を詠った詩作の一。 ・占領:イギリスは日英同盟に基づいて日本に対して参戦を要請し、それに基き、大日本帝国海軍は、ドイツ帝国の植民地であった南洋諸島のマリアナ諸島、カロリン諸島、マーシャル諸島を占領したことを謂う。 ・南洋:ドイツ領南洋群島(後の日本統治時代の南洋諸島)。 ・耶爾特島:〔Ye1er3te4〕ヤルート島。(Jaluit ジャルート)。ドイツ領南洋群島(日本統治時代の南洋諸島)の中の環礁からなる島で、現・太平洋のマーシャル諸島共和国の主島)。
※艨艟破浪到南洋:軍艦が浪を蹴立てて南洋に到り。 ・艨艟:〔もうしょう;meng2chong1○○〕軍艦。いくさぶね。衝突して、相手の船を沈没させるいくさ船。この語、中国語では〔meng2chong1〕と言う。これをもしも、「もうどう」と読む(「もうどう」と読むのが主。)ならば(「艟」は多音字)がそれに該るものの、中国語では、前者の〔meng2chong1〕「艨艟」=「艨衝」と言う。後世、幕末の吉田松陰は『磯原客舍』で「海樓把酒對長風,顏紅耳熱醉眠濃。忽見雲濤萬里外,巨鼇蔽海來艨艟。我提吾軍來陣此,貔貅百萬髮上衝。夢斷酒解燈亦滅,濤聲撼枕夜鼕鼕。」とする。
※孤島受降天一方:孤島である大空の向こう側(のヤルート島)で降参を受諾している。 ・孤島:ここでは詩題中の耶爾特 島(ヤルート Jaluit ジャルート Ye1er3te4)のことを謂う。 ・受降:〔じゅかう;shou4xiang2●○〕降伏者を受け入れる。降参を受諾する。中唐・李益の『夜上受降城聞笛』に「囘樂峯前沙似雪, 受降城外月如霜。不知何處吹蘆管,一夜征人盡望鄕。」とある。 ・天一方:空の片一方。彼の地の果て。大空の反対側。前漢・烏孫公主(劉細君)の『悲愁歌』に「吾家嫁我兮天一方,遠託異國兮烏孫王。穹盧爲室兮氈爲牆,以肉爲食兮酪爲漿。居常土思兮心内傷,願爲黄鵠兮歸故鄕。」
とあり、前漢・蘇子卿(蘇武)の『詩四首 其四』に「燭燭晨明月,馥馥秋蘭芳。芳馨良夜發,隨風聞我堂。徴夫懷遠路,遊子戀故鄕。寒冬十二月,晨起踐嚴霜。俯觀江漢流,仰視浮雲翔。良友遠別離,各在天一方。山海隔中州,相去悠且長。嘉會難再遇,歡樂殊未央。願君崇令德,隨時愛景光。」
とあり、『古詩十九首之一・行行重行行』に「行行重行行,與君生別離。相去萬餘里,各在天一涯。」
とある。
※要使民人浴皇化:もしも人民に、天子の徳政の感化をこうむらせれば。 ・要使-:もし、…に…をさせたら。もしも…が…としたら。もし…をして…せしめば。…をして…せしむるを要せば。 ・民人:〔みんじん;min2ren2○○〕人民。庶民。した『論語・先進篇』に「子路曰:『有民人焉,有社稷焉。何必讀書,然後爲學?』」とある。 ・浴:こうむる。うける。また、あびる。ここは、前者の意。 ・皇化:〔くゎうくゎ;huang2hua4○●〕天子の徳化。天子の徳政の感化。
※仁風恩露洽桄榔:仁徳の教化のめぐみは、(南洋の)ツグノキ(まで)をうるおすことだろう。 ・仁風:〔じんぷうren2feng1○○〕仁徳の教化。仁の徳は風の如く遠く及ぶから謂う。 ・恩露:めぐみ。 ・洽:〔かふ;qia4(xia2)●〕広くゆきわたる。うるおす。あまねし。 ・桄榔:〔くゎうらう;guang1lang2○○〕ツグノキ、サトウヤシ。東南アジアの原産のヤシ科の常緑喬木。
***********
◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「陽方榔」で、平水韻下平七陽。この作品の平仄は、次の通り。
○○●●●○○,(韻)
○●●○○●○。(韻)
●●○○●○●,
○○○●●○○。(韻)
平成25.8.1 8.2 |
![]() トップ |