李益夜上受降城聞笛詩詞世界碇豊長の詩詞：漢詩 LiYi

                     　       　　
      夜上受降城聞笛
　　　　　　　　　　　　　　
      　　　　　　　　　　　　李益　

囘樂峯（/烽）前沙似雪，
受降城外月如霜。
不知何處吹蘆管，
一夜征人盡望鄕。

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　夜受降城に上りて　笛を聞く　　　

囘樂峯（/烽）（くゎいらくほう）前　　沙（すな）　雪に似たり，
受降城（じゅかうじゃう）外　　月　霜の如し。
知らず　何（いづ）れの處にか　　蘆管（ろくゎん）を吹く，
一夜　征人　　盡（ことごと）く郷（きゃう）を望む。

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◎　私感註釈

※李益：中唐の詩人。７４９年？（天寶八年？）～８２７年（太和元年）。大暦年間の進士。燕趙の間（現・河北山東の間）の軍幕にいた。辺塞詩の七絶をよくする。字は君虞。隴西姑臧の人。

※夜上受降城聞笛：夜に（塞外の）受降城に上れば、笛（胡笳）の（悲しげな）音（ね）が聞こえてくる。辺塞の情景を詠っている詩。王翰の『涼州詞』「秦中花鳥已應闌，塞外風沙猶自寒。夜聽胡笳折楊柳，敎人意氣憶長安。」、李白に『春夜洛城聞笛』「誰家玉笛暗飛聲，散入春風滿洛城。此夜曲中聞折柳，何人不起故園情。」とある。　・夜上：夜に…に上る。　・受降城：漢・武帝の時、匈奴の降服を受け入れるために塞外に築いた城塞。その後、唐代になって、張仁愿が唐の時代に突厥の攻撃を防ぐため黄河河北に三つの受降城を築いたことを謂う。ここでは後者の造った中の西城を指す。『中国歴史地図集』第五冊　隋・唐・五代十国時期（中国地図出版社）４０－４１ページ「唐　京畿道　関内道」に中受降城がある。現・内モンゴル自治区包頭西北の黄河沿岸（北岸）になる。杜甫の『諸將五首』其二に「韓公本意築三城，擬絶天驕拔漢旌。豈謂盡煩回馬，翻然遠救朔方兵。胡來不覺潼關隘，龍起猶聞晉水淸。獨使至尊憂社稷，諸君何以答升平。」とある。　・聞笛：笛の音が伝わってくる。

※回楽峰（/烽）前沙似雪：（辺塞の地である）回楽峰の前の沙漠地帯は（月光が降りそそいで、真っ白に見えて、まるで）雪のようである。　・回楽峰：〔くゎいらくほう；Hui2le4feng1○●○〕（現・寧夏回族自治区）の黄河近くの霊武の西南現・呉忠市辺りにある。『中国歴史地図集』第五冊　隋・唐・五代十国時期（中国地図出版社）の『隴右道東部』６１－６２ページ（現・寧夏回族自治区）霊武の西南、現・呉忠市辺り。回楽峰のある辺りは黄土高原の中の黄河沿いにあり、黄河が黄土高原に当たって大きく北流するところにある。黄河の両岸部（東西）には、砂漠が広がっている。漢民族の持っているイメージからすれば、最果ての地とも謂えるところ。また「回落烽」ともする。その場合は、靈州のほぼ西南の属県の回落県一帯ののろし台。　・沙：沙漠。沙灘。砂漠地や、水分が少ないために乾燥した荒地。　・似：…に似ている。…のごとし。後出「如」との違いは、「似」は●で、「如」は○。「回楽峰前沙似（●）雪（●）」「受降城外月如（○）霜（○）」と、美しく整えて作られている。　・雪：月光が当たった白さを表現する。

※受降城外月如霜：受降城の城外は、月光に（照らされ、）霜が降りたかのようである。　・月如霜：月光が降りそそいでいる所は明るくなって、そこは霜が降りたように白くなっている。李白に『靜夜思』「床前明月光，疑是地上霜。舉頭望明月，低頭思故鄕。」とある。　・受降城：〔じゅかうじゃう；shou4xiang2cheng2●○○〕西北方の異民族（突厥等）の攻撃を防ぐための三つの城。前述。　・如：…のようである。蛇足になるが、「降」は、両韻（多音字）。負けて敵に従う意の「くだる」では〔かう；xiang2○〕。高い所から下りる、ふる、は〔かう；jiang4●〕になる。

※不知何處吹蘆管：（胡人が）どこで葦笛を吹いているのか、分からないが。　・不知＋何…：【「不知」＋「何處」】で、「…かしら」（どこに…しよう（/したの）かしら）の意で、推量の趣を持った弱い疑問表現。【「不知」＋「何處」】【「不知」＋「諸」】【「不知」＋「乎」】【「不知」＋「與」】或いは【「不識」＋「何處」】【「不識」＋「諸」】【「不識」＋「乎」】【「不識」＋「與」】「…かしら」（どこに…しよう（/したの）かしら）の意で、推量の趣を持った弱い疑問表現。盛唐・李白の『客中行』に「蘭陵美酒鬱金香，玉碗盛來琥珀光。但使主人能醉客，不知何處是他鄕」とあり、北宋・蘇軾の『水調歌頭』に丙辰中秋，歡飮達旦，大醉，作此篇，兼懷子由。「明月幾時有？把酒問靑天。不知天上宮闕，今夕是何年。我欲乘風歸去，又恐瓊樓玉宇，高處不勝寒。起舞弄淸影，何似在人間！　　　轉朱閣，低綺戸，照無眠。不應有恨，何事長向別時圓？人有悲歡離合，月有陰晴圓缺，此事古難全。但願人長久，千里共嬋娟。」とあり、唐・張汯の『怨詩』に「去年離別雁初歸，今歳裁縫螢已飛。狂客未來音信斷，不知何處寄寒衣。」とあり、唐・崔護の『題都城南莊』に「去年今日此門中，人面桃花相暎紅。人面不知何處在，桃花依舊笑春風。」とあり、唐・岑參の『碩中作』に「走馬西來欲到天，辭家見月兩囘圓。今夜不知何處宿，平沙萬里絶人烟。」とあり、南宋・陸游の『夜遊宮』記夢寄師伯渾に「雪曉淸笳亂起。夢遊處、不知何地。鐵騎無聲望似水。想關河、雁門西，靑海際。」とあり、南宋・張孝祥の『念奴嬌』「過洞庭「洞庭青草，近中秋、更無一點風色。玉鑑瓊田三萬頃，著我扁舟一葉。素月分輝，明河共影，表裏倶澄澈。悠然心會，妙處難與君説。　　　應念嶺海經年，孤光自照，肝肺皆冰雪。短髮蕭騷襟袖冷，穩泛滄浪空闊。盡吸西江，細斟北斗，萬象爲賓客。扣舷獨笑，不知今夕何夕。」とある。　・不知：分からない。　・何處：どこ。　・蘆管：〔ろくゎん；lu2guan3○●〕アシ笛。胡笳。胡人が吹き鳴らす蘆（あし）の葉を巻いて穴を開けた笛で、その調べは哀調を帯びたものという。前出王翰『涼州詞』「胡笳」、李白『春夜洛城聞笛』「玉笛」の部分。漢魏・蔡文姫に『胡笳十八拍』がある。南宋・陸游の『夜遊宮』「記夢寄師伯渾」「雪曉淸笳亂起。夢遊處、不知何地。鐵騎無聲望似水。想關河，雁門西，靑海際。」など、辺塞詩、豪放詞に多用される。　・蘆：〔ろ；lu2○〕アシ。なお、それが生長すれば「葦」〔ゐ；wei3●〕。生えたてのもの、まだ穂を出さないものは「葭」〔か；jia1○〕という。

※一夜征人盡望郷：（胡人の吹く、もの悲しげな胡笳の音（ね）を聞いて）一晩中、出征兵士は、ことごとく望郷の念に駆られてしまった。　・一夜：ひと晩。ある夜。ここでは､この夜の謂い。　・征人：出征軍人。旅人。ここは、前者の意。宋・陸游は『關山月』で「和戎詔下十五年，將軍不戰空臨邊。朱門沈沈按歌舞，厩馬肥死弓斷弦。戍樓斗催落月，三十從軍今白髮。笛裏誰知壯士心，沙頭空照征人骨。中原干戈古亦聞，豈有逆胡傳子孫！遺民忍死望恢復，幾處今宵垂涙痕。」と使う。なお、後者の例は婉約詞に多い。　・盡：ことごとく。　・望郷：故郷を慕い、思いを馳せること。懐郷の念にとらわれる。懐郷の念を抱いて故郷の方を眺める。懐郷。

◎　構成について

　韻式は「AA」。韻脚は「霜鄕」で、平水韻下平七陽。次の平仄はこの作品のもの。

○●○○○●●，
●○○●●○○。（韻）
●○○●○○●，
●●○○●●○。（韻）