山夜 | ||
嵯峨天皇 |
||
移居今夜薜蘿眠, 夢裏山雞報曉天。 不覺雲來衣暗濕, 卽知家近深溪邊。 |
居 を移して 今夜薜蘿 に眠り,
夢裏 に山雞 曉天 を報 ず。
覺 えず雲 來 って衣 暗 に濕 ふ,
卽 ち知る家 は深溪 の邊 に近きを。
*****************
◎ 私感註釈
※嵯峨天皇:第五十二代天皇。平安時代初期の唐風文化の中心となり、その名は禹域にも聞こえた。延暦五年(786)〜承和九年(842)。在位期間は809〜823年。桓武天皇第二皇子。
※山夜:山の夜。
※移居今夜薜蘿眠:今夜は、隠者の住居に移り住んで眠り。 ・移居:引っ越す。転居する。移住する。 ・薜蘿:〔へいら;bi4luo2●○〕マサキノカズラ。カズラで織った布で、隠者の服や住居を指す。『楚辭』「九歌」の「山鬼」のトップに「若有人兮山之阿,被薜茘兮帶女蘿。……山中人兮芳杜若,飮石泉兮蔭松柏。」に基づく。中唐・釈靈一の『題僧院』に「虎溪闌肢相過,帶雪松枝掛薜蘿。無限山行欲盡,白雲深處老僧多。」とある。
※夢裏山雞報暁天:夢の中で、キジが、早暁に時を告げた。 ・夢裏:夢の中(で)。 ・山雞:雉。キジ。蛇足になるが、「雞」の発音は「妓」に近い。 ・報暁天:(鳥が)早暁に時を告げること。 ・暁天:あかつき。
※不覚雲来衣暗湿:いつの間にか雲が来て、衣(ころも)をひそかに湿らせたが。 ・不覚:いつの間にか。 ・雲来:雲が来る、の意だが、「巫山雲雨」の故事を聯想させるところがある。「巫山雲雨」は、故事に基づく男女の交情をいう。楚の襄王が巫山で夢に神女と契ったことをいう。神女は朝は巫山の雲となり夕べには雨になるという故事からきている。宋玉『高唐賦』によると、楚の襄王と宋玉が雲夢の台に遊び、高唐の観を望んだところ、雲気(雲というよりも濃い水蒸気のガスに近いもの(か))があったので、宋玉は「朝雲」と言った。襄王がそのわけを尋ねると、宋玉は「昔者先王嘗游高唐,怠而晝寢,夢見一婦人…去而辭曰:妾在巫山之陽,高丘之阻,旦爲朝雲,暮爲行雨,朝朝暮暮,陽臺之下。」と答えた。「巫山之夢」。婉約の詩詞 によく使われるが、千載不磨の契りといった感じのものではなく、一夜の夢といった淡い契りをいう。 ・暗:ひそかに。
※即知家近深渓辺:分かったことは、外でもなく、家は深い谷の近くにあるということだ。 ・即:ほかでもなく…である。すなわち…である。判断を示す。 ・深渓:深い谷。=深谷。
***********
◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「眠天邊」で、平水韻下平一先。この作品の平仄は、次の通り。
○○○●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
●●○○○●●,
●○○●○○○。(韻)
平成28.1.16 1.17 |
トップ |