君王城上竪降旗, 妾在深宮那得知。 十四萬人齊解甲, 更無一箇是男兒! |
國の亡ぶを述べたるの詩
君王 城上に降旗 を竪 て,
妾 は 深宮に在りて那 ぞ知るを得ん。
十四萬人齊 しく甲 を解き,
更に一箇の是 男兒 無し!
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◎ 私感訳註:
※花蕊夫人:(五代十国の)十国・後蜀の国主の孟昶の貴妃。〜976年。姓は徐氏。青城(現・四川省成都市の都江堰市の南東)の人。国主・孟昶の寵を得ていた。後蜀・廣政三十年(965年)、後蜀は宋の太祖・趙匡胤に降伏し、後蜀は滅んだ。この詩はその時のもの。やがて、宋の太祖・趙匡胤の妃となる。
※述国亡詩:国が亡(ほろ)びる時のさまをのべた詩。 ・述:のべる。 ・国亡:国が亡(ほろ)びる。ここでは、後蜀が亡(ほろ)びた時のことを謂う。なお、「亡国」は「国を亡ぼす」。
※君王城上竪降旗:君主が城壁の上に降伏の旗を立てた(が)。 ・君王:〔くんわう(くんのう);jun1wang2○○〕君主。国君。 ・竪/豎:〔じゅ;shu4●〕立つ。しっかり立てる。竪(たて)にする。直立させる。また、縦(たて)。 ・降旗:〔xiang2qi2○○〕降伏の印に掲げる旗。古代では旗をひっくり返して掲げたり倒したりした(『漢語大詞典』巻11−971ページ)。現代での白旗。=降幟、降幡。蛇足になるが、「降旗」を〔jiang4qi2●○〕と読めば、旗をおろす意。
※妾在深宮那得知:わたくしめは、後宮の奥深くにいたので、(そのことを)どうして知ったのか(というと)。 ・妾:〔せふ;qie4●〕わたくし。わらわ。女性の謙譲を表す一人称。後出・「男児」と意味上の対をなす語。 ・深宮:後宮のこと。后妃や女官の住む宮殿で、天子の住む宮殿の後にある。 ・那:〔な(だ);na3●〕なんぞ。いづくんぞ。反語の辞。副詞。どうして(…だ)ろうか。蛇足になるが、「那」は「あの、かの、あれ」といった遠称で「彼」字と似た働きをする語でもあるが、その場合は〔な;na4●〕。なお、現代語の表記では両者を区別するため、疑問・反語の辞〔な;na3●〕は「哪」と書き表して、遠称〔な;na4●〕と区別する。初唐・王勃の『蜀中九日』に「九月九日望ク臺,他席他ク送客杯。人情已厭南中苦,鴻雁那從北地來。」とある。 ・得知:知る。知ることを得る。
※十四万人斉解甲:十四万人の(後蜀の全軍人)が、一斉に武装解除をし。 ・十四万人:後蜀の全軍人。後出・「更無一個」と意味上の対をなす語。 ・斉:いっしょに。一斉に。いちどきに。そろって。ひとしく。 ・解甲:(軍人が)武装を解く。また、除隊する。ここは、前者の意。 ・甲:〔かふ;jia3●〕よろい。蛇足だが、「かぶと」ではない。
※更無一箇是男児:もはや一人前の男は、一人すら、いない(と分かってからだ)。 ・更無:もはや…全然ない。さらに二度とは…ということはない。ここを「寧無」ともする。「寧無」は「なんぞ無からん(や)」「いづくんぞ無からん(や)」「いかんぞ無からん」と読み、「どうして…がなかろうか」の意。ここでは、「どうして一人前の男は、一人もなかろうか(必ずいる)」意になる。盛唐・杜甫の『石壕吏』に「室中更無人,惟有乳下孫。有孫母未去,出入無完裙。老嫗力雖衰,請從吏夜歸。急應河陽役,猶得備晨炊。夜久語聲絶,如聞泣幽咽。天明登前途,獨與老翁別。」とあり、中唐・白居易の『觀幻』に「有起皆因滅,無不暫同。從歡終作,轉苦又成空。次第花生眼,須臾燭過風。更無尋覓處,鳥跡印空中。」とあり、晩唐・韋荘の『荷葉杯』に「記得那年花下。深夜。初識謝娘時。 水堂西面畫簾垂。攜手暗相期。惆悵曉鶯殘月。相別。從此隔音塵。如今倶是異ク人。相見更無因。」とあり、後世、北宋・司馬光の『居洛初夏作』に「四月C和雨乍晴,南山當戸轉分明。更無柳絮因風起,惟有葵花向日傾。」とある。『史記・孟嘗君列傳』「孟嘗君有一狐白裘,直千金,天下無雙,入秦獻之昭王,更無他裘。」とあり、張孝祥の『念奴嬌』過洞庭「洞庭青草,近中秋、更無一點風色。玉鑑瓊田三萬頃,著我扁舟一葉。素月分輝,明河共影,表裏倶澄K。悠然心會,妙處難與君説。應念嶺海經年,孤光自照,肝肺皆冰雪。短髮蕭騷襟袖冷,穩泛滄浪空闊。盡吸西江,細斟北斗,萬象爲賓客。扣舷獨笑,不知今夕何夕。」とある。 ・更無一箇:もはや一人すら、いない。 ・是:この。また、正しい。 ・男児:一人前の男。
◎ 構成について
2013.9.30 10. 1 10. 2 10. 3 10. 4 |