司馬光居洛初夏作客中初夏初夏　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩 SimaGuang

                    　　　
      居洛初夏作　

      　　　　　　　　　　　司馬光

四月淸和雨乍晴，
南山當戸轉分明。
更無柳絮因風起，
惟有葵花向日傾。

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洛に居しての初夏の作

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
四月　清和　　雨　乍（たちま）ち晴れ，
南山　戸に當たりて　　轉（うた）た　分明。
更に　柳絮の　　風に因りて起こる　無く，
惟（ただ）　葵花の　　日に向かひて傾く　有り。

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◎　私感註釈

『聯珠詩格』卷四『歴代絶句類選』一

※司馬光：北宋の学者、政治家。字は君実。諡は文正。斉物子と号し、温国公、温公（写真右の『聯珠詩格』での名を参照）などと称された。王安石の新法による政治改革に反対した側の急先鋒であり、旧法党の代表。やがて宰相になると、王安石の新法を廃して旧法に復した。著に『資治通鑑』がある。天禧三年（１０１９年）～元祐元年（１０８６年）。この詩も、新法党と旧法党の争いが詠い込まれているといわれる。

※居洛初夏作：都に居て初夏（を迎える）。『客中初夏』『初夏』ともする。王安石の新法を廃して、旧法に復せしめた喜びと清々しさをも詠っていよう。

※四月清和雨乍晴：四月の初夏、おだやかですがすがしく、雨もたちまち晴れて。　・四月：初夏の時期。陰暦なので、現五月後半から六月後半。　・清和：世の中が治まっておだやか。空が晴れてあたたかい。のどか。なごやか。陰暦四月。陰暦四月一日。　・雨：王安石の新法時代ともとれる。　・乍晴：たちまち晴れる。哲宗の即位に因る旧法党の復権、司馬光の宰相就任のことともとれる。　・乍：〔さ；zha4●〕たちまち。にわかに。不意に。急に。　

※南山當戸轉分明：南の山は門の正面にあって、（雨雲が去ったので）たちまちくっきりとし出した。　・南山：南の方にある山。『聯珠詩格』（写真：右）の註に「此即悠然見南山意」とあるのは、陶淵明の『飮酒』二十首其五「結廬在人境，而無車馬喧。問君何能爾，心遠地自偏。采菊東籬下，悠然見南山。山氣日夕佳，飛鳥相與還。此中有眞意，欲辨已忘言。」を謂う。隠棲した陶淵明の感慨。　・當戸：門の正面にあるさまをいう。　・轉：たちまち。うたた。　・分明：〔ぶんめい、ぶんみゃう；fen1ming2○○〕あきらか。はっきりしている。明白である。　・轉分明：政治的に好転しだしたことを謂う。

※更無柳絮因風起：もはや柳の綿毛が風によって舞うということは、もう二度と起こらない。　・更無：もはや…全然ない。さらに二度とは…ということはない。杜甫の『石壕吏』に「室中更無人，惟有乳下孫。有孫母未去，出入無完裙。老嫗力雖衰，請從吏夜歸。急應河陽役，猶得備晨炊。夜久語聲絶，如聞泣幽咽。天明登前途，獨與老翁別。」とあり、白居易の『觀幻』に「有起皆因滅，無不暫同。從歡終作，轉苦又成空。次第花生眼，須臾燭過風。更無尋覓處，鳥跡印空中。」とあり、韋荘の『荷葉杯』に「記得那年花下。深夜。初識謝娘時。　　　水堂西面畫簾垂。攜手暗相期。惆悵曉鶯殘月。相別。從此隔音塵。如今倶是異鄕人。相見更無因。」とあり、『史記・孟嘗君列傳』「孟嘗君有一狐白裘，直千金，天下無雙，入秦獻之昭王，更無他裘。」とあり、張孝祥の『念奴嬌』過洞庭「洞庭青草，近中秋、更無一點風色。玉鑑瓊田三萬頃，著我扁舟一葉。素月分輝，明河共影，表裏倶澄澈。悠然心會，妙處難與君説。應念嶺海經年，孤光自照，肝肺皆冰雪。短髮蕭騷襟袖冷，穩泛滄浪空闊。盡吸西江，細斟北斗，萬象爲賓客。扣舷獨笑，不知今夕何夕。」とある。　・柳絮：〔りうじょ；liu3xu4●●〕柳の花が咲いた後の風に舞う綿毛のある種子。風に従って動くものの譬喩。流離（さすら）うもの。政治的な節操もなく情況に流されて揺れ動く者。朱淑眞の『蝶戀花』送春「樓外垂楊千萬縷，欲系青春，少住春還去。猶自風前飄柳絮，隨春且看歸何處。　　　綠滿山川聞杜宇，便做無情，莫也愁人苦。把酒送春春不語，黄昏卻下瀟瀟雨。」とある。　・因風：風のために。　・因風起：王安石の新法の復活する気配。

※惟有葵花向日傾：ただヒマワリの太陽に向かっている（「忠」）のがあるだけである。　・惟有：ただ…だけがある。唐の劉希夷『白頭吟（代悲白頭翁）』に「洛陽城東桃李花，飛來飛去落誰家。洛陽女兒惜顏色，行逢落花長歎息。今年花落顏色改，明年花開復誰在。已見松柏摧爲薪，更聞桑田變成海。古人無復洛城東，今人還對落花風。年年歳歳花相似，歳歳年年人不同。寄言全盛紅顏子，應憐半死白頭翁。此翁白頭眞可憐，伊昔紅顏美少年。公子王孫芳樹下，清歌妙舞落花前。光祿池臺開錦繍，將軍樓閣畫神仙。一朝臥病無人識，三春行樂在誰邊。宛轉蛾眉能幾時，須臾鶴髮亂如絲。但看古來歌舞地，惟有黄昏鳥雀悲。」とあり、李白の『將進酒』に「君不見黄河之水天上來，奔流到海不復回。君不見高堂明鏡悲白髮，朝如青絲暮成雪。人生得意須盡歡，莫使金尊空對月。天生我材必有用，千金散盡還復來。烹羊宰牛且爲樂，會須一飮三百杯。岑夫子，丹丘生。將進酒，杯莫停。與君歌一曲，請君爲我傾耳聽。鐘鼓饌玉不足貴，但願長醉不用醒。古來聖賢皆寂寞，惟有飮者留其名。陳王昔時宴平樂，斗酒十千恣歡謔。主人何爲言少錢，徑須沽取對君酌。五花馬，千金裘。呼兒將出換美酒，與爾同銷萬古愁。」や、曹操の『短歌行』「對酒當歌，人生幾何。譬如朝露，去日苦多。慨當以慷，憂思難忘。何以解憂，唯有杜康。」や、劉長卿の『尋盛禪師蘭若』「秋草黄花覆古阡，隔林何處起人煙。山僧獨在山中老，唯有寒松見少年。」がある。　・葵花：ヒマワリ。向日葵。なお、漢・古樂府『長歌行』にある「青青園中葵，朝露待日晞。陽春布德澤，萬物生光輝。常恐秋節至，焜黄華葉衰。百川東到海，何時復西歸。少壯不努力，老大徒傷悲。」の「葵」〔き；kui2○〕は、フユアオイのことで、古代、食用としたもの。冬寒菜。冬葵。　・向日傾：太陽に向かって傾く。君主に忠誠であることの譬喩。忠。哲宗が即位し、その宰相となって仕えたことをいう。杜甫でいえば『自京赴奉先縣詠懷五百字』「葵傾太陽，物性固莫奪。」で、最近でいえば、「到處都是燦爛陽光。」、「大海航行靠舵手，萬物生長靠太陽。雨露滋潤禾苗壯，幹革命靠的是毛澤東思想。」など、文革時期のイラストは、後方に紅い旗、真ん中に紅い太陽や紅い星、下の方から包み囲むようにヒマワリの花が咲いているあのような感じか。

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◎　構成について

韻式は、「AAAAAAA」。韻脚は「舟頭留鴎丘洲流」で、平水韻下平十一尤。次の平仄はこの作品のもの。

●○○●○○○，（韻）
●○○●●●○。（韻）
●●○○●○●，
●●○○●●○。（韻）
○○●●○○●，
●●○○○●○。（韻）
●○○●○●●，
●○○●◎○○。（韻）
○○●●○●●，
○○●●○○○。（韻）
○○●●●○●，
●●●○○●○。（韻）