山寒江冷丹楓落, 爭渡行人簇晩沙。 菰葉蘋花飛白鳥, 一張紅錦夕陽斜。 |
李才甫 先輩の『快閣』に和す
山 寒く江 冷たくして丹 楓 落ち,
爭 ひ渡る行人 晩沙 に簇 る。
菰 葉 蘋 花 に 白鳥 飛び,
一張 の紅錦 夕陽 斜めなり。
◎ 私感訳註:
※黄庭堅:北宋の詩人。慶暦五年(1045年)〜崇寧四年(1105年)。字は魯直、号は涪翁。山谷道人。洪州の分寧(現・江西省修水県)の人。
※和李才甫先輩快閣:李才甫先輩が作った『快閣』という詩に和して(詩を作って応える)。 ・和:詩を和す。他者が作った詩作に対して、同じ形式で同様の韻字を使って詩を作って応えること。 ・李才甫:福建省莆田の人。 ・快閣:吉州太和県(現・江西省泰和)の東贛江の畔にある閣。作者・黄庭堅の任地にある。
※山寒江冷丹楓落:山は寒々として、川が冷々として、赤いフウ(楓)が散り。 ・山寒:山が寒々としている。 ・江冷:(南方の)川が冷々としている。「山寒江冷」という互文表現。「山が寒々として、江が冷々とした」状態の形容。「山寒江冷」≒「山江寒冷」。なお、「山寒江冷」という「S1+V1,S2+V2」の互文のいいまわしに対して、「山江寒冷」は、事実を述べている。方向詞、対義語、反義語から構成された主語+述語構造のとき、その形容する表現として、この互文表現が見受けられる。現代・毛澤東の『人民解放軍占領南京』に「鍾山風雨起蒼黄,百萬雄師過大江。虎踞龍盤今勝昔,天翻地覆慨而慷。宜將剩勇追窮寇,不可沽名學覇王。天若有情天亦老,人間正道是滄桑。」とある「虎踞龍盤」は地勢の険峻なさまの形容で、竜虎が蟠踞する(とぐろを巻き、うずくまっている)ような状態の形容。この表現は、辛棄疾の『念奴嬌』「我來弔古」にも見られる。 ・丹楓:赤いカエデ。「楓」:マンサク科のフウ(楓)。カエデ科カエデ属のカエデ。
※争渡行人簇晩沙:(川を)競って渡ろうとする旅人が、夕方の砂州に群がっている。 ・争渡:競って渡る。両宋・李清照の『如夢令』に「嘗記溪亭日暮,沈醉不知歸路。興盡晩回舟,誤入藕花深處。爭渡,爭渡,驚起一灘鴎鷺。」とある。 ・行人:〔かうじん;xing2ren2○○〕旅人。行客。また、道を行く人。出征兵士。盛唐・王昌齡の『出塞行』に「白草原頭望京師,黄河水流無盡時。秋天曠野行人絶,馬首東來知是誰。」とあり、明末清初・江陰女子の『題城牆詩』に「雪胔白骨滿疆場,萬死孤忠未肯降。寄語行人休掩鼻,活人不及死人香。」とあり、清・王士モフ『眞州絶句六首』之二に「白沙江頭春日時,江花江草望參差。行人記得曾游地,長板橋南舊酒旗。」とある。 ・簇:〔そう(ぞく);cu4●〕群がる。あつまる。 ・晩沙:夕方の砂州、の意。
※菰葉蘋花飛白鳥:マコモの葉やカタバミモの花に、白い鳥が飛来して。 ・菰:〔こ;gu1○〕マコモ。コモ。イネ科の多年生水草。沼沢に自生し、実は食用になる。=磨B ・蘋〔ひん;pin2(ping2)○〕デンジソウ。カタバミモ。ウキクサの一種。 ・菰葉蘋花:マコモの葉やカタバミモの花…。互文的な表現。水草の茂っているさまの形容。
※一張紅錦夕陽斜:(それらの光景は、)夕日が(西の空へ)傾いて(沈みかけて)、一枚の赤い錦織(のような夕焼けの情景である)。 ・一張:一枚。量詞。 ・紅錦:赤い錦織。 ・夕陽:夕日。晩唐・李商隱の『登樂遊原』に「向晩意不適,驅車登古原。夕陽無限好,只是近黄昏。」とある。 ・斜:(西の空へ)傾く。(日や月が)沈みかける。
◎ 構成について
2015.8.14 8.15 8.18 8.19 9.20完 2020.6.13補 |