入朝洛堤歩月 | |
上官儀 |
脈脈廣川流,
驅馬歴長洲。
鵲飛山月曙,
蝉噪野風秋。
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朝に入らんとして 洛堤 月に歩む
脈脈として 廣川 流れ,
馬を驅りて 長洲を歴。
鵲かささぎは 飛ぶ 山月 曙,
蝉は 噪ぐ 野風の 秋に。
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◎ 私感註釈
※上官儀:上官・儀。上官は複姓の一。唐代の詩人。607(8)年〜664年。字は游韶。陝州陝県(現・河南省)の人。貞観の初めに進士となる。五言詩をよくした。詩風は華麗艶冶で、南朝・齊、梁の風がある。応制(皇帝の命に応じて作った)詩が多い。皇后であった則天武后を廃そうと高宗に建議したことに因り、則天武后(武則天)の怨みを買い、後に梁王・李忠の「謀反」事件に関聯させられ、獄死した。上官婉兒の祖父。
※入朝洛堤歩月:朝、朝廷に出勤する時に、洛水の堤(つつみ)を月かげを踏んで歩む。 ・入朝:朝、朝廷に出勤する。 ・洛堤:洛水の堤(つつみ)。毎朝、朝廷へ出勤する者は、この洛水の堤(つつみ)で天津橋が開くのを待っていた。洛水は、皇宮を守る濠の役目をもしている。 ・歩月:月かげを踏んで歩く。後世、杜甫の『恨別』で「洛城一別四千里,胡騎長驅五六年。草木變衰行劍外,兵戈阻絶老江邊。思家歩月清宵立,憶弟看雲白日眠。聞道河陽近乘勝,司徒急爲破幽燕。」と使う。
※脈脈廣川流:じっと大きな川(洛水)の流れを見つめていると。 ・脈脈:〔みゃくみゃく;mo4mo4 ●●〕じつとみつめるさま。情を含んで見つめるさま。男女間の感情の交流を表すことばで、ここで使うのは臣下である作者が、主君の皇帝を慕い信頼している心情を表す。晩唐・温庭『夢江南』其二「斜暉脈脈水悠悠。腸斷白蘋洲。」や、宋・辛棄疾の『摸魚兒』で「更能消、幾番風雨,怱怱春又歸去。惜春長恨花開早,何況落紅無數。春且住,見説道、天涯芳草無歸路。怨春不語,算只有殷勤,畫簷蛛網,盡日惹飛絮。 長門事,準擬佳期又誤。蛾眉曾有人妬。千金縱買相如賦,脈脈此情誰訴。君莫舞,君不見、玉環飛燕皆塵土。闖D最苦。休去倚危樓,斜陽正在,煙柳斷腸處。」と使う。 ・廣川流:ここでは、洛水の流れを指す。
※驅馬歴長洲:今までに皇帝のために国中を走り回って国土を平定させるよう尽力してきた(ことを思い出した)。 *今までに皇帝のために尽力してきたことを謂う。 ・驅馬:軍馬を駆(か)って、(国中を走り回って平定すること)。川面を見ていての回想であって、作詩時に馬に乗っているのではない。唐朝建国の功臣・魏徴の『述懷』に「中原初逐鹿,投筆事戎軒。縱計不就,慷慨志猶存。杖策謁天子,驅馬出關門。請纓繋南越,憑軾下東藩。鬱紆陟高岫,出沒望平原。古木鳴寒鳥,空山啼夜猿。既傷千里目,還驚九折魂。豈不憚艱險,深懷國士恩。季布無二諾,侯嬴重一言。人生感意氣,功名誰復論。」とあるのに同じ。 ・歴:歴(へ)る。ふ。国内をめぐってきたこと。前出・唐・魏徴の『述懷』で謂えば、青字部分。 ・長洲:ここでは、前出・「洛堤」(洛水の堤(つつみ))を指し、前出・唐・魏徴の『述懷』風にいえば、国中のこと。
※鵲飛山月曙:カササギが飛ぶ平和な世が出現して、(西の方の)山に月が沈みかける夜明けとなって。 ・鵲:カササギ。カササギが飛んで、「天下歸心」=天下が統一されて平和な世が出現したことを謂う。曹操の『短歌行』に「對酒當歌,人生幾何。譬如朝露,去日苦多。 慨當以慷,憂思難忘。何以解憂,唯有杜康。 青青子衿,悠悠我心。但爲君故,沈吟至今。 呦呦鹿鳴,食野之苹。我有嘉賓,鼓瑟吹笙。 明明如月,何時可輟。憂從中來,不可斷絶。 越陌度阡,枉用相存。契闊談讌,心念舊恩。 月明星稀,烏鵲南飛。繞樹三匝,何枝可依。 山不厭高,水不厭深。周公吐哺,天下歸心。」とある。 ・山月:(西の方の)山に月が沈みかける。 ・曙:あけぼの。
※蝉噪野風秋:名残(なごり)のセミがやかましく鳴くが、野原を吹き抜ける風にも秋を感じさせられる。或いは、「朝政に対して不満がある者の声は、秋口の蝉のようにやがて亡んでいく運命にある」の意を含む。 ・蝉噪:蝉がやかましく鳴く。噪蝉(さうせん)のこと。或いは、武則天が高宗の皇后となっているときなので、「朝政と武則天に対して不満のある者の声」の意。 ・噪:〔さう;zao4●〕さわぐ。さわがしい。 ・野風:原野を吹き抜ける風。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「流洲秋」で、平水韻下平十一尤。この作品の平仄は、次の通り。
●●●○○,(韻)
○●●○○。(韻)
●○○●●,
○●●○○。(韻)
2008.12.13完 12.16補 |
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