遊長寧公主流杯池二十五首之十 | |
上官婉兒 |
霽曉氣清和,
披襟賞薜蘿。
玳瑁凝春色,
琉璃漾水波。
跂石聊長嘯,
攀松乍短歌。
除非物外者,
誰就此經過。
******
長寧公主の流杯池に遊ぶ 二十五首之十
霽曉 氣 清和にして,
襟を披き 薜蘿を賞す。
玳瑁 春色を凝らし,
琉璃 水波に漾はす。
石に跂ちて 聊か長嘯し,
松に攀りて 乍く短歌す。
物外者を 除くに非ざれば,
誰か此に就きて 經過せん。
****************
◎ 私感註釈
※上官婉兒:〔じゃうくゎん・ゑんじ;ShàngguānWǎn'ér〕「上官」は複姓の一。664年(麟徳元年)〜710年(景龍四年/唐隆元年/景雲元年)。唐代の女官。唐・中宗の時、昭容の職位に就く。陝州陝県(現・河南省)の人。上官儀の孫で才媛。後に、政変のため殺された。『中国大百科全書 中国文学U』693ページには「Shangguan Wan'er」と載っている。(蛇足になるが、中国映画『武則天』では、則天武后は上官婉兒を「ShàngguānWǎr」と呼んでいた。)
※遊長寧公主流杯池二十五首:長寧公主の流杯池で(曲水流觴の宴で)遊ぶ。 *これはその際の二十五首の十で、二十五首全て、仙境を詠う。 ・長寧公主:中宗(李顕)の娘。中宗と韋后との間に生まれる。 ・流杯池:杯を流す池。曲がりくねった小川状の細長い池。ここで杯を水面に浮かべ、杯が自分の前を流れ過ぎてしまわないうちに詩を作る風雅な遊びをする。もと、陰暦三月三日の風習なので、この二十五首も上巳節の宴の即席の作になろうか。
※霽曉氣清和:雨上がりの朝は、空気が澄んでのどかであり。 ・霽曉:雨上がりの朝。 ・霽:〔せい;ji4●〕晴れる。雨が上がる。雲や霧が消える。動詞。 ・清和:晴れて暖かい。空気が澄んでのどか。また、世の中が治まっておだやかなこと。ここは、前者の意。
※披襟賞薜蘿:心の中を打ち開いて、カズラ(の布で作った隠者の服や住居)をめでている。 ・披襟:〔ひきん;pi1jin1◎○〕着物の襟(えり)を開く。心の中を打ち明ける。 ・賞:めでる。 ・薜蘿:〔へいら;bi4luo2●○〕マサキノカズラ。カズラで織った布で、隠者の服や住居を指す。『楚辭』「九歌」の「山鬼」のトップに「若有人兮山之阿,被薜茘兮帶女蘿。……山中人兮芳杜若,飮石泉兮蔭松柏。」に基づく。
※玳瑁凝春色:タイマイから作ったべっこうは、春景色をこり固まらせた(かのようで)。べっこうをこり固まらせた(かのような)春景色。 ・玳瑁:〔たいまい;dai4mao4●●〕タイマイ。ウミガメの一。甲羅からは鼈甲(べっこう)がとれる。高貴さを印象づける語である。 ・凝:かためる。こり固まる。 ・春色:春景色。春の気配。
※琉璃漾水波:青い宝玉の琉璃(るり)は、波が揺れ動く(かのようだ)。青い琉璃(るり)の波が揺れ動いている。 ・琉璃:〔るり;liu2li2○○?〕紺青色の宝玉。 ・漾:〔やう;yang4●〕ただよう。波が揺れ動く。
※跂石聊長嘯:岩の上につま先立って、しばらく長く声をひいて詩歌をうたい。 ・跂石:岩の上につま立つ。 ・跂:〔き;qi4●〕つま立てる。動詞。両韻・多音語。 ・聊:しばらく。かりそめに。いささか。後出の陶淵明『歸去來兮辭』の紫字「聊乘化以歸盡」参照。 ・長嘯:長く声をひいて詩歌をうたう。東晋・陶淵明の『歸去來兮辭』に「歸去來兮,田園將蕪胡不歸。既自以心爲形役,奚惆悵而獨悲。悟已往之不諫,知來者之可追。實迷途其未遠,覺今是而昨非。舟遙遙以輕颺,風飄飄而吹衣。問征夫以前路,恨晨光之熹微。乃瞻衡宇,載欣載奔。僮僕歡迎,稚子候門。三逕就荒,松菊猶存。攜幼入室,有酒盈樽。引壺觴以自酌,眄庭柯以怡顏。倚南窗以寄傲,審容膝之易安。園日渉以成趣,門雖設而常關。策扶老以流憩,時矯首而游觀。雲無心以出岫,鳥倦飛而知還。景翳翳以將入,撫孤松而盤桓。歸去來兮,請息交以絶遊。世與我以相遺,復駕言兮焉求。ス親戚之情話,樂琴書以消憂。農人告余以春及,將有事於西疇。或命巾車,或棹孤舟。既窈窕以尋壑,亦崎嶇而經丘。木欣欣以向榮,泉涓涓而始流。羨萬物之得時,感吾生之行休。已矣乎,寓形宇内復幾時。曷不委心任去留,胡爲遑遑欲何之。富貴非吾願,帝ク不可期。懷良辰以孤往,或植杖而耘耔。登東皋以舒嘯,臨C流而賦詩。聊乘化以歸盡,樂夫天命復奚疑。」とあり、後世、唐・王維は『竹里』で「獨坐幽篁裏,彈琴復長嘯。深林人不知,明月來相照。」と使い、宋の岳飛は『滿江紅』「怒髮衝冠,憑闌處、瀟瀟雨歇。抬望眼、仰天長嘯,」とうたいあげている。
※攀松乍短歌:松に寄りかかりながら、人生の短いのを歎いた歌を歌う。 ・攀松:松に寄りかかる。前出の陶淵明『歸去來兮辭』の朱色字「撫孤松而盤桓」参照。 ・乍:…したり、…したりする。しばらく。たちまち。 ・短歌:短い詩歌。また、楽府題で人生の短いのを歎き、楽しめるときに楽しむべきだという内容を詠ったもの。魏武帝・曹操の『短歌行』「對酒當歌,人生幾何。譬如朝露,去日苦多。慨當以慷,憂思難忘。何以解憂,唯有杜康。青青子衿,悠悠我心。但爲君故,沈吟至今。鹿鳴呦呦,食野之苹。我有嘉賓,鼓瑟吹笙。明明如月,何時可輟。憂從中來,不可斷絶。越陌度阡,枉用相存。契闊談讌,心念舊恩。月明星稀,烏鵲南飛。繞樹三匝,何枝可依。山不厭高,水不厭深。周公吐哺,天下歸心。」などがある。
※除非物外者:世俗を離れた者以外では。 ・除非-:…以外には。…を除いては。…より外には。 ・物外:俗世間の外。世外。世俗を離れた。
※誰就此經過:いったい誰が、この地に赴(おもむ)き、通り過ぎたことだろうか。(誰も来なかった)。 ・誰:いったい誰が。だれ。どこの人か。反語・疑問の辞。 ・就:おもむく。つく。 ・此:ここの地。 ・經過:通り過ぎる。
***********
◎ 構成について
韻式は、「AAAAA」。韻脚は「和蘿波歌過」で、平水韻下平五歌。この作品の平仄は、次の通り。
●●●○○,(韻)
○○●●○。(韻)
●●○○●,
○○●●○。(韻)
●●○○●,
○○●●○。(韻)
○○●●●,
○●●○◎。(韻)
2008.12.28 12.29 |
次の詩へ 前の詩へ 抒情詩選メニューへ ************ 詩詞概説 唐詩格律 之一 宋詞格律 詞牌・詞譜 詞韻 唐詩格律 之一 詩韻 詩詞用語解説 詩詞引用原文解説 詩詞民族呼称集 天安門革命詩抄 秋瑾詩詞 碧血の詩編 李U詞 辛棄疾詞 李C照詞 陶淵明集 花間集 婉約詞:香残詞 毛澤東詩詞 碇豐長自作詩詞 漢訳和歌 参考文献(詩詞格律) 参考文献(宋詞) 本ホームページの構成・他 |