遊長寧公主流杯池二十五首之十二 | |
上官婉兒 |
放曠出煙雲,
蕭條自不羣。
漱流清意府,
隱儿避囂氛。
石畫妝苔色,
風梭織水文。
山室何爲貴,
唯餘蘭桂熏。
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長寧公主の流杯池に遊ぶ 二十五首之十二
放曠すれば 煙雲を出だし,
蕭條として 自ら羣れず。
流れに漱ぐ 清意府,
儿に隱れて 囂氛を避く。
石畫 苔色を妝ひ,
風梭 水文を織る。
山室 何爲ぞ貴き,
唯だ 蘭桂の熏りの餘すあるのみ。
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◎ 私感註釈
※上官婉兒:〔じゃうくゎん・ゑんじ;ShàngguānWǎn'ér〕「上官」は複姓の一。664年(麟徳元年)〜710年(景龍四年/唐隆元年/景雲元年)。唐代の女官。唐・中宗の時、昭容の職位に就く。陝州陝県(現・河南省)の人。上官儀の孫で才媛。後に、政変のため殺された。『中国大百科全書 中国文学U』693ページには「Shangguan Wan'er」と載っている。(蛇足になるが、中国映画『武則天』では、則天武后は上官婉兒を「ShàngguānWǎr」と呼んでいた。)
※遊長寧公主流杯池二十五首:長寧公主の流杯池で(曲水流觴の宴で)遊ぶ。 *これはその際の二十五首の十二で、二十五首全て、仙境を詠う。 ・長寧公主:中宗(李顕)の娘。中宗と韋后との間に生まれる。 ・流杯池:杯を流す池。曲がりくねった小川状の細長い池。ここで杯を水面に浮かべ、杯が自分の前を流れ過ぎてしまわないうちに詩を作る風雅な遊びをする。もと、陰暦三月三日の風習なので、この二十五首も上巳節の宴の即席の作になろうか。
※放曠出煙雲:心の趨(おもむ)くままに霞(かすみ)が立ち籠める(ところで)。 ・放曠:〔はうくゎう;fang4kuang4●●〕心が自由で物事にこだわらない。心の趨(おもむ)くままに振る舞う。放達。 ・煙雲:かすみ、もやの類。雲煙。ここでは、「雲」が韻脚でもあるため、「雲煙」を「煙雲」としたとも謂える。
※蕭條自不羣:ひつそりと、自然に孤高でありたい。 ・蕭條:〔せうでう;xiao1tiao2○○〕ものさびしいさま。ひつそりとしたさま。漢魏・蔡文姫の『胡笳十八拍』第七拍〜第十二拍に「日暮風悲兮邊聲四起,不知愁心兮説向誰是。原野蕭條兮烽戍萬里,俗賤老弱兮少壯爲美。逐有水草兮安家葺壘,牛羊滿野兮聚如蜂蟻。草盡水竭兮羊馬皆徙,七拍流恨兮惡居於此。」や、高適の『燕歌行』に「漢家煙塵在東北,漢將辭家破殘賊。男兒本自重行,天子非常賜顏色。摐金伐鼓下楡關,旌旆逶迤碣石間。校尉衷藻瀚海,單于獵火照狼山。山川蕭條極邊土,胡騎憑陵雜風雨。戰士軍前半死生,美人帳下猶歌舞。大漠窮秋塞草腓,孤城落日鬥兵稀。身當恩遇恆輕敵,力盡關山未解圍。鐵衣遠戍辛勤久,玉箸應啼別離後。少婦城南欲斷腸,征人薊北空回首。邊庭飄飄那可度,絶域蒼茫更何有。殺氣三時作陣雲,寒聲一夜傳刁斗。相看白刃血紛紛,死節從來豈顧勳。君不見沙場征戰苦,至今猶憶李將軍。」とある。 ・自:自然と。おのずから。 ・不羣:孤高で、俗流にとらわれない。流されない。群れない。
※漱流清意府:流れにくちすすぐ(と謂われる)仙境で、隠棲生活をし。 ・漱流:〔;shu4liu2●○〕流れにくちすすぐ。隠棲生活をすることを謂う。「枕石漱流」。蛇足になるが、このことばに基づいて、「孫楚漱石」のことわざが出来た。孫楚(字は子荊)は、諺の言い間違いをしたが、自らの間違いを認めず、言い訳のためのこじつけを押し通した。『晉書・孫楚列傳』に云う「楚相少時欲隱居,謂濟曰:『當欲枕石漱流。』誤云『漱石枕流』。」 ・清意:きよらかな心。利のために濫に動かない心。 ・清意府:仙境。紫府。
※隱儿避囂氛:仁の心がある人(皇帝?)から離れて、わずらわしい(悪い)気を避けて(いたい)。 ・隱:〔いん;yin3●〕隠す。 ・儿:〔じん;ren2○〕人。また、〔かい;居拜切●〕仁人。いつくしみのある人。(皇帝か)。後者の方が詩になじむ。なお「儿」字を「几」字と見るのは微妙なところだが、不可だろう(写真:右『全唐詩』康煕揚州詩局本縮印 上海古籍出版社)。 ・几:〔き;ji1○〕ひじかけ。小机。小卓。 ・避:避ける。 ・囂:〔がう;ao2○〕かまびすしい。やかましい。わずらわしい。 ・氛:〔ふん;fen1○〕(悪い)気。凶気。わざわい。
※石畫妝苔色:石の表面のいろどりは、苔(こけ)の色で装(よそお)われ。 ・石畫:石の表面のいろどり。 ・妝:〔さう;zhuang1○〕よそおう。見づくろう。飾る。
※風梭織水文:風は機織りの「梭(ひ)」のように(左右に動いて)、水面に波紋を織(お)る(かの如くである)。 ・梭:〔さ;suo1○〕ひ。機織りの道具で横糸を通す管のついているもの。 ・水文:水面に起こる波紋。水紋。張若虚の『春江花月夜』に「春江潮水連海平,海上明月共潮生。灩灩隨波千萬里,何處春江無月明。江流宛轉遶芳甸,月照花林皆似霰。空裏流霜不覺飛,汀上白沙看不見。江天一色無纖塵,皎皎空中孤月輪。江畔何人初見月,江月何年初照人。人生代代無窮已,江月年年祗相似。不知江月待何人,但見長江送流水。白雲一片去悠悠,青楓浦上不勝愁。誰家今夜扁舟子,何處相思明月樓。可憐樓上月裴回,應照離人妝鏡臺。玉戸簾中卷不去,擣衣砧上拂還來。此時相望不相聞,願逐月華流照君。鴻雁長飛光不度,魚龍潛躍水成文。昨夜鞨K夢落花,可憐春半不還家。江水流春去欲盡,江潭落月復西斜。斜月沈沈藏海霧,碣石瀟湘無限路。不知乘月幾人歸,落月搖情滿江樹。」とある。
※山室何爲貴:山荘(山の空)が、どうして貴(とうと)いのかというと。 ・山室:山荘。ここを「山空」ともする。 ・何爲:〔かゐ;he2wei2○○〕何ゆえ。どうして。なぜ。なんすれぞ。西晉・左思の『詠史詩』八首之五に「皓天舒白日,靈景耀神州。列宅紫宮裏,飛宇若雲浮。峨峨高門内,靄靄皆王侯。自非攀龍客,何爲欻來游。被褐出閶闔,高歩追許由。振衣千仞岡,濯足萬里流。」とあり、李白は『將進酒』で「君不見黄河之水天上來,奔流到海不復回。君不見高堂明鏡悲白髮,朝如青絲暮成雪。人生得意須盡歡,莫使金尊空對月。天生我材必有用,千金散盡還復來。烹羊宰牛且爲樂,會須一飮三百杯。岑夫子,丹丘生。將進酒,杯莫停。與君歌一曲,請君爲我傾耳聽。鐘鼓饌玉不足貴,但願長醉不用醒。古來聖賢皆寂寞,惟有飮者留其名。陳王昔時宴平樂,斗酒十千恣歡謔。主人何爲言少錢,徑須沽取對君酌。五花馬,千金裘。呼兒將出換美酒,與爾同銷萬古愁。」と使う。
※唯餘蘭桂熏:ただランとカツラの木のよいにおい(のする気品有る風格)が余って(漂っているいるからだ)。 ・唯餘:ただ…が余っているだけだ。 ・蘭桂:ランとカツラの木(のよいにおい)。立派な人格、人物を謂う。 ・熏:かおり。かおる。いいにおいがする。
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◎ 構成について
韻式は、「AAAAA」。韻脚は「雲羣氛文熏」で、平水韻上平十二文。この作品の平仄は、次の通り。
●●●○○,(韻)
○○●●○。(韻)
●○○●●,
●●●○○。(韻)
●●○○●,
○○●●○。(韻)
○●○○●,
○○○●○。(韻)
2009. 1. 2 1. 3 |
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