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胡渭州 | |
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唐・張祜 |
亭亭孤月照行舟,
寂寂長江萬里流。
鄕國不知何處是,
雲山漫漫使人愁。
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胡渭州
亭亭 たる孤月 行舟 を照らし,
寂寂 たる 長江萬里 に流る。
鄕國 知らず何 れの處 か是 なる,
雲山 漫漫 人をして愁 へしむ。
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◎ 私感註釈
※張祜:〔ちゃうこ;Zhang1 Hu4〕字は承吉。清河の人。
※胡渭州:楽府題。渭州は現・甘粛省隴西の東南にある地名。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)61-62ページ「唐 隴右道東部」にある。『涼州詞』の涼州の南200キロメートルのところ。胡人が雑居しており、そこの楽曲故の名称。「異国情緒の楽曲」の謂いで、その曲調を借りてうたった詩であり、西域の入口である渭州を詠ったものではない。この詩、唐。崔顥の『黄鶴樓』「昔人已乘白雲去,此地空餘黄鶴樓。黄鶴一去不復返,白雲千載空悠悠。晴川歴歴漢陽樹,芳草萋萋鸚鵡洲。日暮鄕關何處是,煙波江上使人愁。」の趣を言いたい。
※亭亭孤月照行舟:高々とものさびしく見える月が、通る舟を照らしてして。 ・亭亭:〔ていてい;ting2ting2○○〕(樹木などの)高く聳(そび)えたつさま。直立したさま。遠く隔たっているさま。よるべないさま。美しいさま。 ・孤月:ものさびしく見える月。一片の月。後出・張若虚の『 春江花月夜』に「江天一色無纖塵,皎皎空中孤月輪。」とある。 ・行舟:通る舟。また、舟をやる。舟を進める。ここは、前者の意。
※寂寂長江万里流:静かなでひっそりとした長江は、遥かに流れていく。 ・寂寂:〔せきせき;ji4ji4●●〕ものさびしいさま。静かなさま。ひっそりとしたさま。無心のさま。何も考えないさま。東晉・陶潛の『飮酒』其十五に「貧居乏人工,灌木荒余宅。班班有翔鳥,寂寂無行迹。宇宙一何悠,人生少至百。歳月相催逼,鬢邊早已白。若不委窮達,素抱深可惜。」とあり、晩唐~・貫休の『春晩書山家屋壁』に「柴門寂寂黍飯馨,山家煙火春雨晴。庭花濛濛水,小兒啼索樹上鶯。」
とあり、盛唐・皇甫冉の『山中五詠 山館』に「山館長寂寂,閒雲朝夕來。空庭復何有,落日照靑苔。」
とあり、晩唐~・韋莊の『晏起』「爾來中酒起常遲,臥看南山改舊詩。開戸日高春寂寂,數聲啼鳥上花枝。」
とある。
※郷国不知何処是:故郷は、どちらの方がそうなのか分からないが。 ・郷国:故郷。ふるさと。 ・不知:わからない。…かどうか(分からない)。知らなかったのか(反問)。 ・何処是:盛唐・李白の『菩薩蠻』に「平林漠漠煙如織,寒山一帶傷心碧。暝色入高樓,有人樓上愁。 玉階空佇立,宿鳥歸飛急,何處是歸程,長亭更短亭。」とあり、南宋・辛棄疾の『念奴嬌』「登建康賞心亭,呈史留守致道」「我來弔古,上危樓、贏得閒愁千斛。虎踞龍蟠何處是?只有興亡滿目。柳外斜陽,水邊歸鳥,隴上吹喬木。片帆西去,一聲誰噴霜竹? 却憶安石風流,東山歳晩,涙落哀箏曲。兒輩功名都付與,長日惟消棋局。寶鏡難尋,碧雲將暮,誰勸杯中綠?江頭風怒,朝來波浪翻屋。」
とある。 ・何処:どこ。いづこ。初唐・張若虚の『 春江花月夜』「春江潮水連海平,海上明月共潮生。灩灩隨波千萬里,何處春江無月明。江流宛轉遶芳甸,月照花林皆似霰。空裏流霜不覺飛,汀上白沙看不見。江天一色無纖塵,皎皎空中孤月輪。江畔何人初見月,江月何年初照人。人生代代無窮已,江月年年祗相似。不知江月待何人,但見長江送流水。白雲一片去悠悠,青楓浦上不勝愁。誰家今夜扁舟子,何處相思明月樓。可憐樓上月裴回,應照離人妝鏡臺。玉戸簾中卷不去,擣衣砧上拂還來。此時相望不相聞,願逐月華流照君。鴻雁長飛光不度,魚龍潛躍水成文。昨夜閒潭夢落花,可憐春半不還家。江水流春去欲盡,江潭落月復西斜。斜月沈沈藏海霧,碣石瀟湘無限路。不知乘月幾人歸,落月搖情滿江樹。」
とある。 ・是:そうである。また、「…は…である」の意。これ。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B:AはBである〕。ここは、前者の意。
※雲山漫漫使人愁:雲のかかった山が果てしなく続き、(わたしを)切ない思いにさせる。 ・雲山:雲のかかった山。 ・漫漫:〔まんまん;man4man4●●〕ひろい。水の果てしなく広いこと。みちる≒滿。南宋・陸游の『小園』其三「村南村北鵓鴣聲,水刺新秧漫漫平。行遍天涯千萬里, 却從鄰父學春耕」とあるのは、仄韻としての用例。(「●●○○●●○」とすべき句の●●のところで使われている)。この「漫」:〔まん;man2○〕(ひろい。水の果てしなく広いこと。みなぎる。ひろがる。みだれる。ほしいまま≒慢)は両韻で〔まんまん;man2man2○○〕時間や空間の限りないさま。路が長々と続いているさまであり、時間が長々と経ったことも謂う。後漢/魏・蔡琰(蔡文姫)の『胡笳十八拍』の十七拍の「拍兮心鼻酸,關山阻修兮行路難。去時懷土兮心無緒,來時別兒兮思漫漫。塞上黄蒿兮枝枯葉干,沙場白骨兮刀痕箭瘢。風霜凜凜兮春夏寒,人馬飢豗兮筋力單。豈知重得兮入長安,歎息欲絶兮涙闌干。」
や、唐・岑參の『逢入京使』に「故園東望路漫漫,雙袖龍鐘涙不乾。馬上相逢無紙筆,憑君傳語報平安。」
とある。南宋・陳與義の『牡丹』「一自胡塵入漢關,十年伊洛路漫漫。靑墩溪畔龍鐘客,獨立東風看牡丹。」
の例は平声での「漫漫」の用例。(『胡笳十八拍』は韻脚の韻の用い方から平韻と分かり、『逢入京使』は韻脚であることと、近体詩としての平仄の配列から分かる)。蛇足になるが、現代語では「漫」は〔まん;man4●〕のみ。 ・使人愁: ・使人:人(=わたし)に…させる。人をして…しむ。使役表現。 ・使:(に…)させる。(…をして)…しむ。使役表現。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「舟流愁」で、平水韻下平十一尤。この作品の平仄は、次の通り。
○○○●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
○●●○○●●,
○○●●●○○。(韻)
2011.7.7 7.8完 2012.2.6補 |
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