寒食 | |
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唐・韓翃 |
春城無處不飛花,
寒食東風御柳斜。
日暮漢宮傳蠟燭,
輕煙散入五侯家。
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寒食
春城 處 として 花を飛ばさざるは 無く,
寒食 東風御柳 斜めなり。
日暮 漢宮より 蠟燭を傳へ,
輕煙 散じて五侯 の家に入 る。
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◎ 私感註釈
※韓翃:〔かんこう;Han2 Hong2〕中唐の詩人。生没年不詳。南陽(現・河南省南陽)の人。字は君平。天宝十三載(754年)の進士。宣武節度使となり、やがて、駕部郎中・知制誥に任ぜられ、中書舎人に至った。その詩は読んで面白く、語彙は豊かで、当時すこぶる名高かった。大暦十才子の一人。
※寒食:〔かんしょく/かんじき;han2shi2○●〕寒食節を謂う。清明節の前日。冬至から百五日目にあたる日の前後三日間(陽暦の四月三、四日頃)は、火をたくことが禁じられ、冷たいものを食べる。春秋時代・介之推が山で焼け死んだのを晋の文公が悲しみ、その日に火をたくことを禁じたことによる。この詩は後世、中唐・劉禹錫の『烏衣巷』「朱雀橋邊野草花,烏衣巷口夕陽斜。舊時王謝堂前燕,飛入尋常百姓家。」と表現や押韻が似ている。押韻は、次韻したとも謂える。関聯はあるのか。劉禹錫は、韓翃の詩がすきだったのか。(上下の劉禹錫(朱字の、)参照。盛唐・杜甫の『小寒食舟中作』に「佳辰強飯食猶寒,隱几蕭條帶鶡冠。春水船如天上坐,老年花似霧中看。娟娟戲蝶過陋,片片輕鴎下急湍。雲白山青萬餘里,愁看直北是長安。」とある。
※春城無処不飛花:春の街は、落花が飛び交(か)うことがないところはなく。(=いたるところで落花が飛び交い)。 ・春城:春の都市。 ・城:都市。城市。まち。(中国は城郭都市)。 ・無…不…:…しない…はない。全て…だ。【無+〔名詞A〕+不+〔動詞B〕:〔B行為を〕しない〔A名詞〕は、ない】。(結果として)二重否定。盛(?)唐・荊叔の『題慈恩塔』に「漢國山河在,秦陵草樹深。暮雲千里色,無處不傷心。」とあり、中唐・劉禹錫の『元和十一年自朗州召至京戲贈看花ゥ君子』に「紫陌紅塵拂面來,無人不道看花回。玄都觀裏桃千樹,盡是劉郎去後栽。」とある。 ・無処:「何処」ともする。同義。 ・飛花:(春風に乗って)飛び交う花。
※寒食東風御柳斜:(陽暦の四月三、四日頃の)寒食節の春風は、宮中のヤナギを斜めに揺り動かしている。 ・東風:春風。東から吹いてくる風。 ・御柳:宮中のヤナギ。 ・御:〔ぎょ;yu4●〕天子の行いや持ち物につける。また、おさえる。治める。統(す)べる。
※日暮漢宮伝蝋燭:日暮れになって、宮中から(新火の)ろうそく(の火)が下賜されて。 ・日暮:日暮れ(名詞)。日が暮れる(SV構文)。「一夜」ともする。ある夜。 ・漢宮:漢王朝の宮殿。漢代に借りて、同時代(=唐代)の宮中。 ・伝:伝えられる。火を断った寒食節が終わると、宮中から、新しい火が下賜され、どの家でも新火をおこし始めるが、新火は有力者から順に伝わっていく。詩はこのさまを謂う。
※軽煙散入五侯家:薄く立ち上る煙が(先ず、)権力者の家に入っていった。 ・軽煙:薄く立ち上る煙。うすけむり。「青煙」ともする(青いけむり)。 ・散入:散らばって(…に)乗って。 ・洛城:洛陽城。東都洛陽の都。洛陽の街。盛唐・李白の『春夜洛城聞笛』に「誰家玉笛暗飛聲,散入春風滿洛城。此夜曲中聞折柳,何人不起故園情。」とある。 ・五侯:時の権力者、諸侯を謂う。公・侯・伯・子・男の五等の臣を指す。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「花斜家」で、平水韻下平六麻。この作品の平仄は、次の通り。
○○○●●○○,(韻)
○●○○●●○。(韻)
●●●○○●●,
○○●●●○○。(韻)
2012. 6.22 6.23完 7. 1補 2019.12.31 |
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