秋愁 | |
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唐・魚玄機 |
自歎多情是足愁,
況當風月滿庭秋。
洞房偏與更聲近,
夜夜燈前欲白頭。
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秋愁
自 ら歎 ず 多情は 是れ足愁 なりと,
況 んや風月 滿庭 の秋に當 るをや。
洞房 偏 へに更聲 と近し,
夜夜 燈前 に白頭 ならんとす。
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◎ 私感註釈
※魚玄機:中唐の女流詩人。(八四三〜八六八) 字は幼微。またの字は尢磨B長安の娼家に生まれるが、聡明で学問を好んだ。補闕の李億の妾となるが、やがて愛情が衰え、ついに咸宜観の女道士となった。後に、小婢の緑翹を殺したために死罪に処せられた。魚玄機をとりあげた森鴎外の作品に、『魚玄機』がある。 *なお、「玄機」とは、道教でいう「深遠な哲理」の意。
※秋愁:秋のさびしい思い。
※自歎多情是足愁:多情は、十分に切ないことである、とみずからなげいている。 ・自歎:みずからなげく。 ・多情:感情に富むこと。心の感受性が多いこと。また、移り気。 ・是:…は…である。これ。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B:AはBである〕。 ・足愁:十分な愁い。
※況当風月満庭秋:ましてや、秋の美しい景色が庭一面の時に当たっていれば、なおさらのことである。/ましてや、恋愛ごとが一ぱいにある時に当たっていれば、なおさらのことである。 ・況:まして(…は、なおさらだ)。いはんや(…をや)。 ・当:〔たう;dang1○〕…の時に。…に当たって。 ・風月:清風と明月。自然の美しい景色。自然の美しい景色をたのしむ喩え。また、恋愛ごと。色事。ここでは、両者の意で使われている。 ・満庭:庭一面。
※洞房偏与更声近:婦人の部屋(=作者・魚玄機の部屋)は、あいにくと時を告げる音に近く。(あなたを想って、時間は空しく過ぎて行く)。 ・洞房:婦人の部屋。新婚の部屋。奥深いところにある部屋。ここでは、作者・魚玄機の部屋のことになる。 ・偏:意外にも。あいにく。都合悪く。(良くも悪くも)ちょうど。ひとえに。 ・与:…と。 ・更声:時刻を知らせる(ために打つ太鼓の)音。 ・更:〔かう;geng1○〕一夜を五つに分けた時間の単位。初更〜五更まである。漢末の『古詩爲焦仲卿妻作』(孔雀東南飛)「兩家求合葬,合葬華山傍。東西植松柏,左右種梧桐。枝枝相覆蓋,葉葉相交通。中有雙飛鳥,自名爲鴛鴦。仰頭相向鳴,夜夜達五更。」とあり、盛唐・杜甫『閣夜』に「歳暮陰陽催短景,天涯霜雪霽寒宵。五更鼓角聲悲壯,三峽星河影動搖。野哭千家聞戰伐,夷歌幾處起漁樵。臥龍躍馬終黄土,人事音書漫寂寥。」とあり、後世、南唐後主・李Uの『浪淘沙』に「簾外雨潺潺,春意闌珊。羅衾不耐五更寒。夢裏不知身是客,一餉貪歡。 獨自莫憑欄,無限江山。別時容易見時難。流水落花春去也,天上人間。」とある。
※夜夜灯前欲白頭:夜ごと、ともし火の前で、(あなたを思い焦がれて、)白髪が(増え)ようとしている。 ・夜夜:〔やや;ye4ye4●●〕毎夜。やや(よよ)。 ・欲:…しそうだ。…になろうとする。…んとす。また、ほっする。ほっす。ここは、前者の意。 ・白頭:しらが頭。盛唐・李白の『秋浦歌』に「白髮三千丈,縁愁似箇長。不知明鏡裏,何處得秋霜。」とある。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「愁秋頭」で、平水韻下平十一尤。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●○,(韻)
○○○●●○○。(韻)
●○○●○○●,
●●○○●●○。(韻)
2013.2.13 2.14 |
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