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白髮三千丈,
縁愁似箇長。
不知明鏡裏,
何處得秋霜。
秋浦の歌
白髮 三千丈,
愁ひに縁(よ)りて 箇(か)くの 似(ごと)く 長し。
知らず 明鏡の裏,
何(いづ)れの處にか 秋霜を 得たる。
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◎ 私感註釈
※李白:盛唐の詩人。字は太白。自ら青蓮居士と号する。世に詩仙と称される。701年(嗣聖十八年)〜762年(寶應元年)。西域・隴西の成紀の人で、四川で育つ。若くして諸国を漫遊し、後に出仕して、翰林供奉となるが高力士の讒言に遭い、退けられる安史の乱では苦労をし、後、永王が謀亂を起こしたとされることに際し、幕僚となっていたため、罪を得て夜郎にながされたが、やがて赦された。
※秋浦歌:連作十七首の中の其十五になる。 ・秋浦:地名。現・安徽省の長江南岸の貴池市の西側すぐ。秋浦河が北流して長江に注ぐところ。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)54ページ「唐 淮南道」にある。現・銅陵市と安慶市(100キロメートルを隔てる位置関係)の中間点。
※白髪三千丈:白髮が三千丈(にもなった)。この句は、平仄の疑似体験ができる(?)とも謂える。本来は平仄は、音の高低律(日本語で、似た例を挙げると同じ「はし」音でも、「橋」「箸」「端」と異なるこれに似たもの。王力先生は英語語法の影響もあってか長短律と見るが)なので、日本人には味わうことができないが、ここでは疑似体験ができる。それは、「白髮三千丈」を「白髮三千丈」と、を「白髮」と「三千」に分けて見るやりかたである。「白髮」は、「はく はつ」と●●(仄:入声)(仄:入声)であり、「三千」は「さん ぜん」○○と韻を重視しているのがよくわかる。正確に言うとこれは、畳韻の美しさになるのだが、平仄の美しさも似たものとも言える(??)ため述べた。ただし、「三千」のところは○○となるべきところで、○○に該る数字は「三」と「千」しかない(「一」「二」「四」「五」…「百」などは●)ので、自ずと「三千」という表現になっただけで、数値に特段の意味はない。「三千」は〔さん ぜん〕〔san1 qian1〕と畳韻に近い語調の美しさがあり、多用される。盛唐・李白の『望廬山瀑布』に「日照香爐生紫煙,遙看瀑布挂前川。飛流直下三千尺,疑是銀河落九天。」とあり、中唐・白居易の『夢亡友劉太白同遊彰敬寺』に「三千里外臥江州,十五年前哭老劉。昨夜夢中彰敬寺,死生魂魄暫同遊。」とある。。
※縁愁似箇長:愁いのためにこのように長くなった。 ・縁愁:愁いのために。 ・似:如く。 ・箇:これ。この。かく。物事を指し示す。 ・長:ながい【形容詞】(平声)。なお、仄(上声)の場合は、のびる【動詞】(上声)。ここを韻脚と見るか見ないかで、意味が大きく変わる。下記・「構成について」参照。
※不知明鏡裏:澄んだ鏡を見ていても、気づかなかった。 ・不知:分からない。ここでは、…かしら。分からなかった。ここの「不知明鏡裏,何處得秋霜」の聯は、「不知…何處…」で、【不知+何…】:「…かしら」(どこに…しよう(/したの)かしら)の意で、推量の趣を持った弱い疑問表現。【「不知」+「何處」】【「不知」+「諸」】【「不知」+「乎」】【「不知」+「與」】 或いは【「不識」+「何處」】【「不識」+「諸」】【「不識」+「乎」】【「不識」+「與」】 「…かしら」(どこに…しよう(/したの)かしら)の意で、推量の趣を持った弱い疑問表現。唐・李白の『客中行』に「蘭陵美酒鬱金香,玉碗盛來琥珀光。但使主人能醉客,不知何處是他ク。」とあり、中唐・李益の『夜上受降城聞笛』に「囘樂峯前沙似雪,受降城外月如霜。不知何處吹蘆管,一夜征人盡望ク。」とあり、北宋・蘇軾の『水調歌頭』に丙辰中秋,歡飮達旦,大醉,作此篇,兼懷子由。「明月幾時有? 把酒問天。不知天上宮闕,今夕是何年。我欲乘風歸去,又恐瓊樓玉宇,高處不勝寒。起舞弄C影,何似在人間! 轉朱閣,低綺戸,照無眠。不應有恨,何事長向別時圓?人有悲歡離合,月有陰晴圓缺,此事古難全。但願人長久,千里共嬋娟。」とあり、唐・張汯の『怨詩』に「去年離別雁初歸,今歳裁縫螢已飛。狂客未來音信斷,不知何處寄寒衣。」とあり、唐・崔護の『題キ城南莊』に「去年今日此門中,人面桃花相暎紅。人面不知何處在,桃花依舊笑春風。」とあり、唐・岑參の『碩中作』に「走馬西來欲到天,辭家見月兩囘圓。今夜不知何處宿,平沙萬里絶人烟。」とあり、 南宋・陸游の『夜遊宮』記夢寄師伯渾に「雪曉C笳亂起。夢遊處、不知何地。鐵騎無聲望似水。想關河、雁門西,海際。」とあり、南宋・張孝祥の『念奴嬌』「過洞庭「洞庭青草,近中秋、更無一點風色。玉鑑瓊田三萬頃,著我扁舟一葉。素月分輝,明河共影,表裏倶澄K。悠然心會,妙處難與君説。 應念嶺海經年,孤光自照,肝肺皆冰雪。短髮蕭騷襟袖冷,穩泛滄浪空闊。盡吸西江,細斟北斗,萬象爲賓客。扣舷獨笑,不知今夕何夕。」とある。 ・明鏡:澄んだ鏡。 ・裏:…の中で。
※何處得秋霜:一体どこで白髪を得たのかしら。 ・何處:どこで(…かしら)。前出・「(不知)…何處」と続く構文。 ・得:える。ここでは(白髪に)なることをいう。 ・秋霜:秋の霜。ここでは白髪をいう。
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◎ 構成について
韻式について問題があるが、下記の連作を見る限り、『其一』と『其二』を除いて、他の十余首は全て「AA」であり、この作品も恐らく、「AA」となる。その場合の韻脚は「長霜」で、平水韻下平七陽。ただし韻脚は「長(両韻)、霜(両韻:去声で仄)」。なお、「丈」は去声で仄。そのため、仄韻で韻脚が「丈長霜」とも考えられる。その場合「長」の意は変わる。
『秋浦歌』を十七首の連作で確かめると、次のようになる。
偶数句のみの押韻が極めて多く、この作品の押韻は、やはり「長霜」になる。
其一
□□□□秋,
□□□□愁。
□□□□度,
□□□□樓。
□□□□安,
□□□□流。
□□□□水,
□□□□不。(韻を踏んでいる。ここの発音は“fou”であって、「否」の発音とその意味になる。「不」“bu”〔ふつ、ふ〕ではない。)
□□□□涙,
□□□□州。
其二
□□□□愁。
□□□□頭。
□□□□水。
□□□□流。
□□□□去。
□□□□游。
□□□□日。
□□□□舟。(其一と其二の押韻は同じ)
其三
□□□□鳥。
□□□□稀。
□□□□水。
□□□□衣。
其四
□□□□浦。
□□□□衰。
□□□□髮。
□□□□絲。(其三と其四の押韻は同じ)
其五
□□□□猿。
□□□□雪。
□□□□兒。
□□□□月。
其六
□□□□客。
□□□□花。
□□□□縣。
□□□□沙。
其七
□□□□馬。
□□□□牛。
□□□□爛。
□□□□裘。
其八
□□□□嶺。
□□□□奇。
□□□□石。
□□□□枝。
其九
□□□□石。
□□□□屏。
□□□□古。
□□□□生。
其十
□□□□樹。
□□□□林。
□□□□滿。
□□□□吟。
□□□□浦。
□□□□心。
其十一
□□□□道。
□□□□梁。
□□□□疾。
□□□□香。
其十二
□□□□練。(韻脚ではない)
□□□□天。
□□□□月。
□□□□船。
其十三
□□□□月。
□□□□飛。
□□□□女。
□□□□歸。
其十四
□□□□地。
□□□□煙。
□□□□夜。
□□□□川。
其十五
□□□□丈。(韻脚ではない)
□□□□長。
□□□□裡。
□□□□霜。
其十六
□□□□翁。
□□□□宿。
□□□□。
□□□□竹。
其十七
□□□□地。
□□□□聞。
□□□□別。
□□□□雲。
平水韻下平七陽。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●,
○○●●○。(韻)
●○○●●,
○●●○○。(韻)
2003.9.29 9.30完 10. 4補 2011.1.14 12.18 |
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