


古詩爲焦仲卿妻作
(孔雀東南飛) 其一
無名氏
孔雀東南飛,
五里一裴徊。
十三能織素,
十四學裁衣,
十五彈箜篌,
十六誦詩書,
十七爲君婦,
心中常苦悲。
………

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古詩 爲焦仲卿の妻の爲に作る
(孔雀東南飛)
其の一
孔雀 東南に飛び,
五里に 一たび 裴徊(はいくゎい)す。
十三 能(よ)く 素(そ)を 織り,
十四 衣を 裁(た)つを 學び,
十五 箜篌(くご)を 彈(ひ)き,
十六 『詩』『書』を 誦(しょう)し,
十七 君が婦(つま)と 爲(な)り,
心中 常に 苦悲す。
…………
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◎ 私感訳註:
※古詩爲焦仲卿妻作:古詩、焦仲卿の妻(劉蘭芝)(を悼んで)のために作れる詩。全篇千七百八十五字で、三百五十七句からなる超長篇の漢詩(漢代末期の詩)で、俗称『孔雀東南飛』。(文字数は、わたしが実際に新化三味堂刊の『古詩源』(光緒二十二年)のものを数えてみた数値。但し、同版の『古詩源』の註記で沈徳潜は「一千七百四十五字」と記している。この差は如何。)この詩は、離婚させられた妻と夫の悲劇を描写した叙事詩。この作品は序があり、「漢末建安中,廬江府小吏焦仲卿妻劉氏,爲仲卿母所遣,自誓不嫁。其家逼之,乃沒水而死。仲卿聞之,亦自縊於庭樹。時人傷之,爲詩云爾。」(漢末の建安年間に、廬江府の小吏である焦仲卿の妻・劉氏(劉蘭芝)は、(夫(おっと))焦仲卿の母(つまり、姑(しゅうとめ))のために(実質的には)実家に追い返された。離縁された妻・劉氏(劉蘭芝)は更なる嫁入りはしないと心に誓った。(夫の方も、必ず呼び戻すと約束した。しかし実家の方は、劉蘭芝にとって玉の輿とも謂うべき再婚を逼り、嫁入り支度も整った後、前夫に出逢って、愚痴られた。夫婦ともあの世で添い遂げようということになった。その日の夕刻、終(つい)に水に入って死んだ。(其日牛馬嘶。新婦入青廬。菴菴黄昏後,寂寂人定初。我命絶今日,魂去尸長留。攬裙脱絲履,舉身赴淸池。)(前夫の)焦仲卿は、このことを伝え聞き、自分もまた庭樹の東南の枝に首を吊って果てた。時の人は、二人のことを傷(いた)んで詩にしたと云うことである。)とその経緯が述べられている。白居易の『長恨歌』
の祖型になったとも謂える。なお、この作品は『古詩源』のもの。(ざっと見た限りでは)『昭明文選』にはないようだ。これは余りにも長いため、作業の都合上細分するが、解への配慮はするものの、深い意味はない。
※孔雀東南飛:孔雀(劉蘭芝の魂)が(夫の霊が向かった)東南の方向へ飛んでいく。 ・孔雀:〔くじゃく;kong3que4●●〕クジャク。孤独な魂、単独で天翔る女性・劉蘭芝を指す。この詩の末尾部分に「兩家求合葬,合葬華山傍。東西植松柏,左右種梧桐。枝枝相覆蓋,葉葉相交通。中有雙飛鳥,自名爲鴛鴦。仰頭相向鳴,夜夜達五更。」と、対(つがい)の鴛鴦が比翼鳥
の如くに出てくるのに対蹠的である。なお、「孔雀」を夫婦の魂とみて、実質上、詩末尾の「鴛鴦」と同義のように看做す解もあるが、その場合、後に続く「十三能織素,十四學裁衣,十五彈箜篌,十六誦詩書,十七爲君婦,心中常苦非。君既爲府吏,守節情不移。賤妾留空房,相見長日稀。」といった女性としての教養を積んでいく劉蘭芝の描写との関係が極めて不自然なものになる。この「孔雀東南飛,五里一裴徊。」の聯は全篇を概括した序章になり、孤独な女性・劉蘭芝の魂の徘徊のことをいっていよう。 ・東南:東南方向。当時の感覚から云えば、温暖な方向。夫(焦仲卿)が首を吊った木の枝は、東南側の枝で、夫の霊が向かった方向。末尾部分に「菴菴黄昏後,寂寂人定初。我命絶今日,魂去尸長留。攬裙脱絲履,舉身赴淸池。府吏聞此事,心知長別離。徘徊庭樹下,自掛東南枝。」とある。なお、この語を「東西」と同様であると看做して「双方に別れて」と解するのもあるが、本詩の中にも「兩家求合葬,合葬華山傍。東西植松柏,左右種梧桐。」と唐代同様の用法があり、「東南」を「東西」の同義語と見るのには無理がある。「東南」の対となる「西北」の用例が『古詩源』に魏・文帝の『雜詩』に「西北有浮雲,亭亭如車蓋。惜哉時不遇,適與飄風會。」や『文選』の中のこの『孔雀東南飛』と同時代とされる『古詩十九首』之五に「西北有高樓,上與浮雲齊。交疏結綺窗,阿閣三重階。上有絃歌聲,音響一何悲。願爲雙鴻鵠,奮翅起高飛。」とあり、クールに拡がる方角のイメージがある。 ・飛:飛翔する。天翔る。
※五里一裴徊:五里を飛んでは、一回、尾を引き摺るかのようにしてうろうろさまよっている。*夫の霊魂を探しているさまであり、立ち去りがたいさまでもある。 ・五里:漢代では、約2キロメートル。旅をする時に使う、短亭の間の距離でもある。 ・一:ひとたび。一度。 ・裴徊:〔はいくゎい;pei2huai2○○〕(孔雀が)長い尾を曳きずるさま。衣服の長い裾を曳きずってうろうろするさま。また、うろつく。行ったり来たりする。たちもとおる。≒徘徊〔はいくゎい;pai2huai2○○〕。
※十三能織素:十三歳で、布を織ることができ。 ・十三:十三歳。以下、数字は年齢。 ・能:よく。…できる。 ・織素:彩色を施してない生絹を織(お)る。 ・素:〔そ;su4●〕白絹。生絹。
※十四學裁衣:十四歳で、裁縫を学び。「十四 衣を裁つを學び」とは、もどかしい読み方になるが、ここは「十三
能く素を織り」に揃えたためであって、単独であれば「十四 裁衣を學び」と読む方がスマートである。 ・學:まなぶ。習いまねをする。 ・裁衣:裁縫する。
※十五彈箜篌:十五歳では、箜篌(くご)を演奏する(ことができ)。 ・彈:〔だん;tan2○〕(絃楽器を)弾(ひ)く。 ・箜篌:〔くご(こうこう);kong1hou2○○〕絃楽器の名。くだら琴。ハープ(竪琴)のように竪てたものや、琴のように臥したものがある。
※十六誦詩書:十六歳では、『詩経』や『書経』の学問をして章句を諳(そら)んじ。 ・誦:〔しょう;song4●〕となえる。節を附けて大きな声で読む。空読みする。 ・詩書:『詩経』と『書経』。儒学の聖典。
※十七爲君婦:十七歳では、あなたの妻となった(が)。 ・爲:〔ゐ;wei2○〕…となる。 ・君:あなた。男性を尊んでいう。ここでは焦仲卿のことになる。 ・婦:妻。
※心中常苦悲:心の中では、常にひどく悩み悲しんでいた。 ・心中:心の中は。胸の内では。 ・常:つねに。 ・苦悲:ひどく悲しむ。悩み悲しむ。苦しみ悲しむ。
◎ 構成について
はじめの部分の韻式は「AAABBAAAcccAAAAA…」。韻脚は「飛徊衣 篌書 悲移稀 織息疋 遲遲爲施歸…」で、後世の平水韻を以て規準としていうのはおかしなことだが、やや通用が激しい。この作品の押韻は、全篇から概観すれば、基本的には支韻、微韻の一韻到底と謂えるものであり、はたして換韻と呼ぶべきものなのか、或いは後世各代各人の挿入句のためのものなのか、待考。次の平仄はこの作品のもの。数え歌になっている部分のためか、後世人の影響か、上代詩にしては平仄の並び方に特徴が出ている。
●●○○○,(韻)
●●●○○。(韻)
●○○●●,
●●●◎○。(韻)
●●○○○,(韻)
●●●○○。(韻)
●●○○●,
○○○●○。(韻)
……

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