宮詞 | |
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唐 顧况 |
玉樓天半起笙歌,
風送宮嬪笑語和。
月殿影開聞夜漏,
水晶簾卷近秋河。
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宮詞
玉樓は 天半 ばにして笙歌 起こり,
風は送る宮嬪 の笑語 和 らぐを。
月殿 影 開きて夜漏 聞こえ,
水晶 の簾 を卷けば秋河 近し。
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◎ 私感註釈
※顧况:唐代の詩人・画家。725年〜814年。蘇州/海潮の人。字は、逋翁。華陽真逸と号し、また自ら悲翁と号す。著作郎に任ぜられたこともあったが官位は低かった。支配層に対する詩の諷刺が元で、流された。
※宮詞:詩の一体で、宮中の物事を詠じた詩。 *前半では、宮中での寵を得た女性達の賑やかなさまを描写し、後半は、寵を得られない立場にある女性の孤独な後宮生活を対比させて詠う。『全唐詩』では、馬逢の作ともする。
※玉樓天半起笙歌:りっぱな御殿は高くて天のなかばまでになっており、笙(しょう)に合わせて歌う声が起こり。 ・玉樓:りっぱな御殿。=玉殿。 ・天半:天のなかば。高殿の高いさまを謂う。 ・起:(風などが)おこる。漢の高祖・劉邦の『大風歌』に「大風起兮雲飛揚。威加海内兮歸故ク。安得猛士兮守四方。」とあり、司馬光『居洛初夏作』「四月清和雨乍晴,南山當戸轉分明。更無柳絮因風起,惟有葵花向日傾。」とあり、晩唐・高駢の『山亭夏日』に「克陰濃夏日長,樓臺倒影入池塘。水精簾動微風起,一架薔薇滿院香。」とあり、寇準の『江南春』に「杳杳煙波隔千里,白蘋香散東風起。日落汀洲一望時,柔情不斷如春水。」とある。 ・笙歌:〔しゃうか;sheng1ge1○○〕笙のふえと歌。笙に合わせて歌う。楽器を奏でて歌うこと。
※風送宮嬪笑語和:風は宮中の女官たちの笑いさざめく和(なご)やかな声を送り伝えてくる。 ・風送-:風は…を送り伝えてくる、意。 ・宮嬪:〔きゅうひん;gong1pin2○○〕皇帝の側室。宮中の女官。 ・笑語:談笑する声。笑いさざめくこと。 ・和:和(なご)やかである。穏やかである。やわらぐ。調和する。 蛇足になるが、●では:こたえる。調子を合わせる。韻を合わせる。答えて詩歌を作る。和する。混ぜ合わせる。
※月殿影開聞夜漏:月の照らしている宮殿の影の場所が動き(時間の経ったことが分かり)、夜の水時計の(水滴の小さな)音も、(耳障りな音として)響いてくる(静かに更けていく深夜)。 ・月殿:月の照らしている宮殿の意。 ・影開:影の場所が動く。時間の経過の表現。 ・聞:きこえる。耳に入ってくる。 ・漏:水時計。漏刻。 ・夜漏:夜の水時計。夜の時刻。静かな夜更けで、物音ひとつしない環境の中では、水時計の滴り落ちる水滴の小さな音も、耳障りな音として響いてくる、という深夜の静寂さの描写でもある。
※水晶簾卷近秋河:水晶で作られた(窓の)カーテンを巻き上げれば、(深夜の澄んだ空気の中に)秋の夜の銀河が間近に見える。 ・水晶簾:水晶で作られたすだれ。カーテン。「水晶」〔すゐしゃう;shui3jing1●○〕。「水精」:〔すゐしゃう;shui3jing1●○〕(=水晶)ともする。前出・晩唐・高駢の『山亭夏日』に「克陰濃夏日長,樓臺倒影入池塘。水精簾動微風起,一架薔薇滿院香。」とある。 ・近:ちかい。近くに感じられることを謂う。深夜の空気は昼間の塵が既に静まり、加えて、秋気が澄明であることを謂う。 ・秋河:ここでは、秋の夜の銀河のことになる。
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◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「歌和河」で、平水韻下平五歌。この作品の平仄は、次の通り。
●○○●●○○,(韻)
○●○○●●○。(韻)
●●●○○●●,
●○○●●○○。(韻)
2018.5. 7 5. 8 5. 9 5.10 |
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