綠樹陰濃夏日長,
樓臺倒影入池塘。
水精簾動微風起,
一架薔薇滿院香。
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山亭夏日
綠樹 陰(かげ) 濃(こまや)かにして 夏日 長く,
樓臺(ろうだい) 影を倒(さかしま)にして 池塘に入(い)る。
水精(すゐしゃう)の簾(れん) 動きて 微風 起こり,
一架の薔薇(しゃうび) 滿院 香(かんば)し。
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◎ 私感註釈
※高駢:晩唐の詩人。字は千里。幽州(現・河北省)の人。821年(長慶元年)~887年(光啓三年)。武術に優れた軍事指導者。黄巾の賊を討って功を挙げた。後、部下に殺された。
※山亭夏日:山の中のあずまやでの夏の日の昼。この『山亭夏日』詩に基づいて、北宋・秦觀は『春日』「一夕輕雷落萬絲,霽光浮瓦碧參差。有情芍藥含春涙,無力薔薇臥曉枝。」を作ったのだろう。 ・山亭:山の中のあずまや。山斎。 ・夏日:夏の日の昼間。
※綠樹陰濃夏日長:緑の樹の木蔭は濃く、夏の日の昼間は長く。 ・陰:〔いん;yin1○〕かげ。日かげ。物に覆われているところ。なお、後出の「影」〔えい;ying3●〕は、姿、形、水面や鏡にうつる像、かげぼうし、まぼろし、というように「形ある姿」のこと。
※樓臺倒影入池塘:高殿(たかどの)の姿がさかさまになって池の水面にうつっている。 ・樓臺:高殿(たかどの)と台(うてな)。屋根のあるうてな。また、高い建物。 ・倒影:さかさまに水面にうつった像。 ・影:〔えい;ying3●〕水面や鏡にうつる像。姿。形。かげぼうし。まぼろし。 ・池塘:〔ちたう;chi2tang2○○〕池の堤。池。
※水精簾動微風起:水晶でできた簾(すだれ)が動いてそよ風が起き(たことが解り)。 ・水精:〔すゐしゃう;shui3jing1●○〕水晶。「水晶」〔すゐしゃう;shui3jing1●○〕ともする。唐・顧况の『宮詞』に「玉樓天半起笙歌,風送宮嬪笑語和。月殿影開聞夜漏,水晶簾卷近秋河。」とある。 *事実の因果関係を理屈っぽく謂えば「微風起兮水(精)簾動」である。もっと俗にすれば「微風起而水(精)簾動」。本来このような意味でこの詩が作られたのならば「水簾動」は孫悟空の「水簾洞」のように水のカーテン=庭の瀧か噴水は考え過ぎか。その場合作者のいる場所は庭先。また、「水精簾」を部屋の窓辺に懸けられているものならば、後出の「院」の意は「部屋、建物」の意になる。以上余談。通常は、前出・唐・顧况詩
等に因ると見るか。 ・簾:すだれ。カーテン。 ・微風:そよ風。 ・起:(風などが)おこる。漢の高祖・劉邦の『大風歌』「大風起兮雲飛揚。威加海内兮歸故鄕。安得猛士兮守四方。」
よく戦司馬光『居洛初夏作』「四月清和雨乍晴,南山當戸轉分明。更無柳絮因風起,惟有葵花向日傾。」
や寇準『江南春』「杳杳煙波隔千里,白蘋香散東風起。日落汀洲一望時,柔情不斷如春水。」
とある。
※一架薔薇滿院香:(微風のため)ひとたなのバラ(の香りが)庭中(部屋中)に満ちて香ってきている。「一架薔薇滿院香」は「滿架薔薇一院香」ともする。 ・一架:ひとつの(バラの蔓を這わせた)棚。「滿架」ともする。その場合、後出の「滿院」は「一院」とする。 ・薔薇:〔しゃうび、さうび;qiang2wei1○○〕バラ。ノイバラ。李白『憶東山』に「不向東山久,薔薇幾度花。白雲還自散,明月落誰家。」とあり、後世、北宋・秦觀に(この『山亭夏日』詩に基づき、)『春日』「一夕輕雷落萬絲,霽光浮瓦碧參差。有情芍藥含春涙,無力薔薇臥曉枝。」
がある。 ・一院:一つの中庭すべてが。中庭一杯に。または、部屋中いっぱいに。「滿院」のことだが、「滿架薔薇一院香」の句で続けさまに「滿架薔薇滿院香」とはし難いので、それを避けた。 ・院:中庭。塀や建物で、周りを囲まれた庭。日本の「にわ」よりも閉鎖的な空間。また、部屋。中国詩には前者「中庭」の意の用例が多い。日本では「部屋、建物」ととり、この句も「ひとたなのバラ(の香りが)部屋中に満ちて香っている。」ととることが多い。中国詩では「なかにわ」の意の用例として、唐・黄巣の『題菊花』「颯颯西風滿院栽,蕊寒香冷蝶難來。他年我若爲靑帝,報與桃花一處開。」
や、南宋/元・文天祥の『正気歌』「陰房
鬼火,春院
天黑。牛驥同一皂,鷄棲鳳凰食。一朝蒙霧露,分作溝中瘠。」
や南唐後主・李煜の『菩薩蠻』「蓬莱院閉天台女,畫堂晝寢人無語。抛枕翠雲光,繍衣聞異香。 潛來珠鎖動, 驚覺銀屏夢。 臉慢笑盈盈, 相看無限情。
や、南唐後主李煜の『浪淘沙』「往事只堪哀,對景難排。秋風庭院蘚侵階。一任珠簾閑不卷,終日誰來。 金鎖已沈埋,壯氣蒿莱。晩涼天靜月華開。想得玉樓瑤殿影,空照秦淮。」
、明・高啓の『題桂花美人』「桂花庭院月紛紛,按罷霓裳酒半醺。折得一枝攜滿袖,羅衣今夜不須熏。」
などは全て、明らかに「にわ」の意で使われている。 ・香:かぐわしい。かおる。
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◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「長塘香」で、平水韻下平七陽。次の平仄はこの作品のもの。
●●○○●●○,(韻)
○○●●●○○。(韻)
●○○●○○●,
●●○○●●○。(韻)
2007.11.12 |
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