榮華難久居,
盛衰不可量。
昔爲三春,
今作秋蓮房。
嚴霜結野草,
枯悴未遽央。
日月還復周,
我去不再陽。
眷眷往昔時,
憶此斷人腸。
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雜詩十二首
其三
榮華は 久しく居り難く,
盛衰は 量る 可(べ)からず。
昔は 三春の 爲(た)りしが,
今は 秋の蓮房と 作(な)る。
嚴霜 野草に 結ぶも,
枯悴 未だ 遽(にはか)には 央(つ)きず。
日月 還(な)ほ 復(ま)た 周(めぐ)るれど,
我 去れば 再たびは 陽(あらは)れず。
眷眷(けんけん)たり 往昔の時,
此れを 憶(おも)へば 人の腸を 斷(た)たしむ。
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◎ 私感註釈
※陶潛:東晉の詩人。。。雜詩十二首は、老年期の作八首と壮年期の作四首とに分けられ、これは八首の方のもの。故、雜詩八首ともする。これは、其三になる。
※榮華難久居:草木が栄え茂るようなことは、いつまでも続くことではなく。 ・榮華:草木が栄え茂ること。はなやかに栄えること。ここは、主として前者の意。 ・難:むつかしい。 ・久居:ひさしくいる。ひさしくとどまる。
※盛衰不可量:盛んになることと衰えることは、推量することができないものだ。 ・盛衰:盛んになることと衰えること。盛んになったり衰えたりすること。『古詩十九首之十一』に「廻車駕言邁,悠悠渉長道。四顧何茫茫,東風搖百草。所遇無故物,焉得不速老。盛衰各有時,立身苦不早。人生非金石,豈能長壽考。奄忽隨物化,榮名以爲寶。」とある。 ・不可:…することはできない。 ・量:はかる。推量する。
※昔爲三春:昔は、春の三か月間(咲き誇った)ハスの花だったものが。 ・昔爲:昔は…だった。 ・三春:春の三か月。孟春、仲春、季春。陰暦の一月、二月、三月頃になる。 ・:〔きょ;qu2〕・ハスの花。 *ハス(荷、蓮、芙蓉、芙。荷花、水目、水芝、水華)はその部分によって呼び方が異なる。『爾雅』によると「荷は『芙』にして、其の莖は『茄』、其の葉は『』、其の本は『』、其の華は『』、其の實は『蓮』、其の根は『藕』、其の中は『』、の中は『』。」『古今注』もほぼ同じ。平字では、「」の外に、「荷」「蓮」「芙(蓉)」等があるが、仄字は「藕」しかない(但し「藕」はレンコン(蓮根)の意が主。
※今作秋蓮房:今は、秋の(実りとなった)ハスの実の入っている花托(フサ)となっている。 ・今作:今は…となっている。 ・蓮房:ハスの実の入っている花托(フサ)。
※嚴霜結野草:(晩秋に)厳しい霜が、野の草の上に降りてくるが。 ・嚴霜:厳しい霜。 ・結:むすぶ。凝り固まる。かたまる。凝結する。 ・野草:山野に生える草。
※枯悴未遽央:枯れ衰えても、まだにわかに尽き果てることに至っていない。 ・枯悴:〔こすゐ;ku1cui4〕枯れ衰える。枯れやつれる。 ・未:まだ。いまだ。 ・遽:〔きょ;ju4〕にわかに。急に。あわてる。「何遽」:なんぞ。 ・央:尽きる。已(や)む。なかば。「未央」:まだ半ばにも達していない。まだ物事が終わらない。
※日月還復周:自然の運行は、なおもまた、回りめぐってくるが。 ・日月:自然の運行。年月。つきひ。太陽と月。 ・還:副詞:なおも。動詞:めぐる。 ・復:また。 ・周:めぐる。へめぐる。まわる。廻ってくる。
※我去不再陽:わたしが死去すれば、二度と再びは顕(あらわ)れることがない。わたしが死んでしまえば、もう二度と再びこの世に生まれてくることがない。 ・我去:ここでは、「わたしが死去する」の意になる。 ・不再陽:にどとは顕れない。 ・不再:(一度はあったが)二度とは…ない。ふたたびは…ず。 ・陽:顕れる。
※眷眷往昔時:(そのことを考えれば、若々しかった)昔の頃が懐かしく思い起こされる。 ・眷眷:〔けんけん;juan4juan4〕深く顧みるさま。いつも心にとめていること。恋い慕うさま。懇ろに思うさま。 ・往昔:遠い昔。往古。過ぎ去った過去。
※憶此斷人腸:このことを思えば、悲痛な断腸の念いになる。 *『影答形』「身沒名亦盡,念之五情熱。」に同じ。『己酉歳九月九日』「念之中心焦」など、陶淵明は、しばしばこの「念之………」表現を使っている。 ・憶此:これを思えば。これらのことに思いを馳せれば。前出「念之」に同じ。実際上「此」や「之」らは、自己の存在に関する複数の事柄を指している。 ・斷人腸:人のはらわたをたたしめる。人に辛い思いをさせる。使役形の構文になる。
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◎ 構成について
韻式は「AAAAA」。韻脚は「量房央陽腸」。平水韻で見れば下平七陽。次の平仄はこの作品のもの。
○○○●○,
○○●●○。(韻)
●○○○○,
○●○○○。(韻)
○○●●●,
○●●●○。(韻)
●●○●○,
●●●●○。(韻)
●●●●○,
●●●○○。(韻)
2004.7.1 7.2 7.3完 |
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