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副題: 日本映画なら花札か、賭け事やめようキャンペーン
2004 I 106 Min. 劇映画
出演者
Liam Cunningham
(John Brennan - イタリアにいるアイルランド人捜査官)
Stefania Rocca
(Anna Mari - 刑事)
Claudio Santamaria
(Carlo Sturni)
Vera Gemma
(3人目の犠牲者)
Francesco Guzzo
(ハッカー専門の警察職員)
Alessandro Mistichelli
(ハッカー専門の警察職員)
Luis Molteni (検死官)
Silvio Muccino
(Remo - ポーカーの名手)
Elisabetta Rocchetti
(2人目の犠牲者)
Mario Opinato
(Morgani - 捜査官)
Antonio Cantafora
(Marini - 巡査部長)
Adalberto Maria Merli
(警察署長)
Pier Maria Cecchini
(遊撃隊チーフ)
Gualtiero Scola
(犯罪現場捜査官)
Giovanni Visentin
(殺人課課長)
見た時期:2004年3月
ダリオ・アルジェントと聞くとファンタのファンはたいてい顔をしかめます。数年前1度ファンタ・アルジェント特集というのがあり、いくつか見たのですがどれも弱く、子供っぽい出来で、観客の期待を見事に裏切ってくれました。で、その後もアルジェントの作品は避けて通る人が多いのです。久しぶりに来たアルジェント。前夜祭は作品を選べないので、見るしかありません。皆覚悟を決めていました。
家内工業が盛んでアルジェントという名前の付く人がゾロゾロ。監督ダリオ・アルジェント、脚本ダリオ・アルジェント、制作クラウディオ・アルジェント、出演者フィオーレ・アルジェント、そして主演を張るはずだったのがアーシア・アルジェント。アーシアには体よく逃げられてしまいましたが、アルジェント一家は予算節約のためか、家族を起用することが多いのです。それで気が緩むのか、いつも出来上がりが良くないのです。で、ファンタ・ファンの間では評判が良くない。
その割にはまあまあでした。主演を身内から出さなかったのが幸いしたのかも知れません。彼はプロデュースはしたけれど、監督はしない作品を作ったことがありましたが、その時も出来はやや良かったのです。監督するなら娘は使わない、制作だけなら身内を出すという方針に変えたらどうでしょう。A級という期待は誰も持っておらず、その点で失望する人はゼロ。今回は子供っぽい演出は無く、わりと地味な俳優で固めてあり、プロットもまあまあでした。強いて言うと映画よりテレビ向きで、警察に詰めているスタッフのシーンはどちらかと言うとテレビ風の演出。俳優に無理に英語をしゃべらせたため、アメリカ、イギリス映画に慣れている私たちは下手な台詞に戸惑いました。恐らく海外に売るための決定でしょう。イタリア語にして英語の字幕を付けた方が雰囲気が変に壊れず良かったかと思います。
批判的な見方はこの辺にして、期待をやや良い方向に裏切られたという話をしましょう。後半演出で手を抜いたのか、巻きがかかったのか、多少弱くなりますが、前半は欧州風の雰囲気をたっぷり入れて、感じ良く始まります。ローマで撮影したのだそうですが、ローマでなくても欧州のその辺の都市と言えば通ります。自然です。普通の町の雰囲気が出ていて、それもこれまでの思わせぶりな作品と趣きが違い、感じがいいです。普通の町に起こった凶悪事件という設定にしてあり、《映画でしかあり得ない異常さ》は極力押さえてあります。それが今回アルジェントという名前の持つマイナス・イメージをややアップさせた原因ではないかと思います。
警察の捜査本部が中心に進む話で、連続殺人鬼が大胆にも警察の捜査部に挑戦状を送って来ます(そう言えば日本のテレビにも七人の刑事という優れた作品があったなあ、と思い出しました。当時の番組、あのままでも全然負けていません)。アルジェントらしくなく、ハイテク挑戦状です。仕事中の刑事のラップトップに「人質を取った。救いたかったら俺とポーカーをしろ。勝ったら人質は釈放してやる」と迫って来たのです。敵が送りつけて来た小道具はチャット、人質の画像の映っているビデオ、コンピューターのカード・ゲーム。
実際に画面に出て来るのはそれほどシックな作りでなく、ハイテクというよりローテクという印象を受けますが、小道具はシンボル的な意味を持っているだけだと考えると、さほど気になりません。これまでの映画制作上の習慣 - 誘拐はある程度力仕事だということ - や固定観念などから犯人は男だろうと大方は想像できますが、犯人が一言も発しないので、この段階では犯人がイタリア人なのか、外国人なのか、男なのか女なのか、年齢などが全くつかめません。ここをもう少しひねったら謎がもっと深まったかも知れません。
上司が「そういうのは相手にするな」と言うので返事が遅れ、人質はスナッフ映画のように目の前で殺されてしまいます。午後4時頃です。テロリストとは取引しないという国家と同じで、正論はそれなりに正しいけれど、何もしないと人が死んでしまうというジレンマが短時間に手際良く出ています。ドイツには「警察が許可するより賢く」という言い回しがあるのですが、警察も正論より賢く立ち回らないと犠牲者が出てしまいます。
死体は間もなく発見。アイルランドから派遣されて来ている検死にも詳しい捜査官ジョンが捜査に加わり、10人ほどで捜査を始めます。ジョンはついでに犯人の挑戦を受けたアンナとルンルン。このあたりは主演2人、大人の恋という感じでさらりと演じています。当初予定されていたと言われるアルジェントの娘よりステファニア・ロッカの方が良かったかも知れません。これまで何作も父親の作品に出ていたアーシアですが、数年前に袂を別ち、本人は出たくないという姿勢。デス・サイトは「たまたまアメリカで出演予定の他の作品と契約が重なったためやむなく断念」ということになっているそうですが、本当かなあ。
ルンルンのアイルランド人捜査官をやっているライアム・カニンガムは、名前は知らないけれど絶対にどこかで見たと思っていたら、2002年のファンタで2本見ていました。ドッグ・ソルジャーでは主演級。Revelation では神父をやっていたようです。ドッグ・ソルジャーはなかなか見応えがあり、彼の顔をバッチリ覚えました。
死体のシーンはなかなかの出来です。ジェヴォーダンの獣、クリムゾン・リバー 深紅の衝撃よりいいです。恐らく蝋人形かラテックスなのでしょうが、リアルで、さすがホラー監督アルジェントの力量がうかがえます。さて、犯人は2人目、3人目と犠牲者を増やして行きます。しかし約束通りポーカーに勝つと釈放。運よく署長の娘がさらわれた時は釈放されます。そりゃそうだ、監督の身内だから。生きた証人がいても犯人は分かりません。さらわれる時に麻酔を注射され、さらわれてからもカードゲームをする時だけ目が覚め、釈放された時はまた麻酔が効いていたため相手の顔を見ていない。そして犯人と対面した時は相手はマスクをつけていたというのです。観客と彼女には男だろうというぐらいしか分かりません。
ジョンが注意深かったため犯人がいそうな場所に特定の植物が生えていること、犯行が行われた時に近くで大きな物音がしたことはつかめています。捜査本部はポーカーの下手な捜査官ばかり。犠牲者が増えては行けないというので、天才的なポーカーのプレーヤーを探して来て勝負をやらせます。時間を稼いでいる間に逆探知をしようという魂胆と、ゲームに勝って人質を救おうという両方の目的。逆探知は上手く行きませんが、ゲームに勝った時は本当に釈放。しかしその後このポーカーの名手が狙われ、やられてしまいます。
演出が弱くなるのはこのあたりから。ジョンのおかげで犯人の隠れ家が分かり始めますが、駄目な映画の常で、応援を呼ばず1人で出掛けて行きます。で彼もやられてしまう。アンナはジョンの言う隠れ家らしき場所に向かう途中に誘拐されます。この先の演出は目を被うばかりのひどさ。それまでわりとちゃんとテキストをしゃべっていたロッカですが、犯人と対決するシーンでは高校生が学芸会で英語劇をやっているような調子。そして犯人との対決というのがあまりにも現実性を欠き、アルジェントお得意の子供っぽさが前面に。これではテレビでもアラが目立ちます。
この先どうなるか。犯人もアホらしく見え、動機もそれほどでなく、犯人に鬼気迫る物が無く、最後の15分ほどで映画は1段格を落としてしまいます。あそこまで行ったのにちょっともったいなかった。
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