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2004 Spanien 90 Min. 劇映画
出演者
Christian Bale
(Trevor Reznik - 機械工)
Jennifer Jason Leigh
(Stevie - 売春婦)
Aitana Sanchez-Gijon
(Marie - 空港カフェのウエイトレス)
Matthew Romero Moore
(Nicholas - マリーの息子)
John Sharian
(Ivan - 工員(のはずの男))
Michael Ironside
(Miller - 工員)
見た時期:2004年8月
ショッキングな作品です。見終わってみるとあちらこちらで見たような筋なのですが、映画というのは最後は表現の問題。同じ筋の話でも演出の仕方で優秀作品から駄作までいろいろに化けます。この作品と比較できるのはいくつかの優秀作品。運が良いと言うべきか悪いと言うべきか初日の2本目に来ました。運がいいというのはこの日はダブルで重なる作品が1つもなかったので、見ようと思えば全員が見られた点。通しのパスを買った人はほとんど全員が見ているはずです。運が悪いと言えるのは、その前に Kontroll が来てしまったため、他の作品は何が来ても色褪せて見えてしまう点。しかもこの作品は本当に色が褪せているのです。
・・・というのは冗談ですが、モノクロームに近い画面で、時たま赤系の色だけがそれらしく見えます。それにはもちろんわけがあるのですが・・・。デビッド・リンチやデビッド・フィンチャーなどが引き合いに出されていますが、その方向の作品です。そういう意味では新味が無く、オープニング作品には独創性で及ばないかも知れません。しかし監督が作りたかった雰囲気は出ていますし、何よりも大きなショックを受けるのはクリスチャン・ベイルの姿。私たちはファンタでアメリカン・サイコを見ているのです。あの時の肉体美を誇るベイルが、まるでナチの収容所から解放されたばかりのユダヤ人のような姿で登場します。聞くところによるとこの作品のために30キロ体重を落としたのだそうです。彼はアメリカン・サイコの前後にいくつか筋肉隆々の役をやっていますから、肥満体ではなくてもかなりの体重だったと思われます。そこから急にここまで体重を落とすと、健康、精神に重大な問題が生じてもおかしくありません。しかしそれだからこそ真に迫った役作りと言えるかも知れません。最後には《俳優はここまで自分を犠牲にして演じる必要があるのか》という疑問が沸いて来ました。とにかく1度自分の目でご覧になって下さい。できればその寸前に彼が演じたアメリカン・サイコ、コレリ大尉のマンドリン、あるいはリベリオンを見ておくといいです。あまりの変わりようにぞっとすること請け合い。
まずスペイン映画というのは予算の関係で取った方法で、スペインもメキシコも南米も出て来ません。舞台はモータウンの町デトロイトの雰囲気を持った工業都市。台詞は全部英語です。撮影に際してはスペイン語の物は上手に隠してあります。
ファイト・クラブのエドワード・ノートンを覚えていらっしゃいますか。クリスチャン・ベイルがこの役を断ったら、エドワード・ノートンに行ったのではないかと思えるようなキャラクターで、主人公のトレヴァーの立場はファイト・クラブに出ていたノートンとそっくりなのです。痩せこけて不眠症。もう何年も一睡もしていません。不眠症症と聞くと一般には苦しい病気と思われがちで、事実トレヴァー のようになってしまう人もいるかも知れません。ドイツには不眠症の人はかなり多いようです。ただ私見を言うと、苦しみたい人だけが苦しんでいるという印象も免れません。
眠れなくなってから10年などという話がありますが、医者から正しい忠告を受けていると劇的な問題に発展しない場合もあるのです。睡眠を妨げている理由を探るのも1つの方法ですし、何が危険かを知るのも1つの方法。上手に組み合わせれば、トラブルを抱えていても日常の健康を守ることはできます。成人は最低何時間寝れば足りるかを知るのも1つの手。50を過ぎた人は子供のように長く眠らなくてもいいのです。しかし良く眠れない人に栄養失調が重なると大変な事になります。ですからちゃんとご飯を食べるのも大切。トレヴァー君、ちゃんと食べているのかね。夜は目や耳や神経を休めるために暗い静かな所にいる方がいいようです。外出したり、ガールフレンドといちゃついている場合ではないでしょうが。この時間は体を水平にしてじっとしている方がいいんですぞ。そういった対策で問題をある程度カバーすることができるんだから。もちろん5時間ぐらい続けて眠れればいいに越したことはありませんが・・・。
後記: 最近になって系統的な知識を得たのですが、人間は元々他の動物と同じ習性を持っていた、だから元々は他の動物と同じような眠り方をしていた、つまり1度にどーっと6時間から8時間眠ったりはしなかった、そんな事をやり始めたのは番犬を飼うようになったり、家を建てて定住し始めてからのことで、人類の歴史で見るとまだ最近のことだそうです。言われるまで気づきませんでしたが確かにそうです。
眠りのパターンは1相から6相ぐらいが知られており、現代普通とされている生活環境では1相(1回でどっと6時間から8時間眠る形)が普通とされています。電気の無い時代の欧州では一般的に2相だったそうです。なので夜中に必ず1度は目を覚ましました。欧州では現代国の習慣として昼寝を取り入れている国があり、それも2相と言えます。
それ以上になると、現代の生活のリズムから外れるので異常とか病気と受け取られることがあるようですが、家屋、電灯、番犬など便利さや安全を確保する前の人間は、何度かに分けて眠っていたようで、基本的にはそちらの方が正常だったと言えます。
それとは別に、最近眠りについて研究をした結果、勤務時間に一定の分数昼寝をわざわざ取り入れる会社も出ています。その方が仕事の能率がぐっと上がるからということでそういう決定をする会社もあるらしいです。
元々あまり不眠だと聞いても焦らなかった私ですが、この話を読んでますます気にならなくなりました。トレヴァー君、ご苦労様。
トレヴァーには誰もそういう事を教えてあげなかったのか、本人が自分に眠るということを許していなかったのか、とにかく痩せこけて骨と皮になるまで苦しんでいます。アル・パシーノでもこんな事は無かったという凄い姿です。職業が機械工なので、観客はハラハラ、ドキドキ。スリルの出し方は効果満点です。私は何度も恐い思いをしました。見知らぬ男が夜陰から飛び出すという恐さもありますが、いつ居眠りするか分からないほど疲れ切った男が工場で働いているというのも凄い恐怖を生みます。スリル&サスペンス。
彼の日常生活は惨めなものです。がらんとしたアパートに住み、慰めと言えば売春婦を呼んで話をするか、真夜中空港へ行って、憧れのウエイトレスと短い会話を交わす程度。工場の中では気持ち悪がられ、煙たがられています。不景気なので会社では誰でもいいから首にするチャンスを待っています。
ある日、マトリックスのローレンス・フィッシュボーンとよく似た風貌の男と知り合います。これが謎の男。工場の他の人には彼の姿が見えないのです。トレヴァーは強度の不眠症なので幻覚かも知れません。その男に気を取られ一瞬の油断が事故になり、同僚のミラーが片手を失います。このシーンは本当にホラーです。遊びっ気ゼロ。気味の悪さから言ったら、ファイト・クラブなどは競争相手にもなりません。今年のファンタの特徴は、見ていて肉体的な痛さを感じるような作品が多かった点。その1番乗りです。ゴムで作った偽の手だと分かっていても気持ちが悪いです。
これですぐ首にはならないのですが、トレヴァーの立場は悪くなります。被害者が意外と寛容で、手を失ったのに、あまりトレヴァーを責めず、挨拶をして去って行きます。良心がとがめ後で見舞いに自宅を訪れた時も、「十分に保証金が入ったから心配するな、そういう意味では運が良かったよ」などと却って慰められてしまいます。
トレヴァーは謎の男の存在を事故の原因として証言しているのですが、工場で他にその話を裏打ちしてくれる人はいません。ぎりぎりの所で首は繋がっていますが、立場はかなり悪いです。他の人に好かれておらず、自分も危うく機械に手を挟んで失いそうになったりします。ここも恐いシーンです。訪ねて行ったミラーの家の近所にその謎の男が現われたので、トレヴァーは追跡を始めます。
一方彼のアパートには妙な紙切れが張り出されるようになります。まるでクイズのようにアルファベットの何文字かが空欄になっていて、暗示をするような妙な絵がついています。クロスワードの好きな私は Killer という言葉を思いついてしまったのですが、そこに入るのはMiller。それが妙な発展の仕方をします。それにしても誰もいないはずのアパートに妙な紙切れを置いて行く奴は誰だ・・・という謎が生じている最中に工場にも謎の男が登場しているのです。
そんなズタズタの彼の心を癒すように、空港のウエイトレスとのデートが成立。シングル・マザーは子連れでデートをします。しかし子供がお化け屋敷で癲癇の発作を起こしてしまうので、デートは中断。しかし彼女のアパートに招かれます。
時々呼んでいた売春婦。それまではうまく行っていたのですが、たまに彼女がヒモに殴られ、これまでのパターンが崩れます。けしからんと腹を立てたトレヴァーですが、写真を見てビックリ。あの謎の男です。ということはミラーの事故を招いた男、ミラーの家の周辺に出没した男が自分と付き合っている売春婦を殴っている。ミラーとその男は釣りの友達として一緒に写真に収まってもいるのです。
謎が深まっているのか、それとも解決に向かっているのか、観客には分かりにくくなって来ます。途中でネタバレの発言をしていますので、結末の見当がつく方もあると思います。それでもまだいくつか謎が残っていますので、これから見ても楽しめます。この作品はプロットの独創性でなく、恐い表現で勝負しています。
演技力という点ではベイルにはやや不満が残ります。映画祭の後半にはかなり練れた俳優も登場します。個性という点ではベイルはたいていの役で何かしらエキセントリックな事をやります。その中でもマシニストは際立っています。気味の悪いことといったら・・・。演技の面ではジェイソン・リーにも不満が残ります。彼女を初めて見た時は凄いと思いましたが、何度も見ていると、またあのパターンかという風になってしまいます。特に彼女のだらだらしたしゃべり方には飽きて来ました。あれを個性だと思っているのかも知れませんが。ただ、マシニストでは安っぽい売春婦の役で、そういう意味では役に合っています。特に演技で表彰したいような人は出て来ませんが、全員揃ってかもし出す雰囲気は良くできています。監督の狙いもそこにあったのだと思われ、そういう意味では成功作です。
いずれにせよ《極度のダイエットは健康を害します》というキャンペーンを張りたい方はこの映画を引き合いに出すと成功間違いありません。ああ、恐かった。
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