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2009 USA/F 117 Min. 劇映画
出演者
Tommy Lee Jones
(Dave Robicheaux - アル中の刑事)
Mary Steenburgen
(Bootsie Robicheaux - デイヴの妻)
Alana Locke
(Alafair Robicheaux - デイヴの養女、エルサルバドル人)
Walter Breaux
(Batist - 家政夫)
John Goodman
(Julie Balboni - 地元の有力者、映画製作に投資中、あだ名:ベービー・フィート)
Julio Cedillo
(Cholo Manelli - ベービー・フィートの舎弟)
John Sayles
(Michael Goldman - プロデューサー)
Peter Sarsgaard
(Elrod Sykes - アル中のスター、現在ルイジアナで戦争映画撮影中)
Kelly Macdonald
(Kelly Drummond - テレビ・スター、サイクスの恋人)
Justina Machado
(Rosie Gomez - FBI特別捜査官)
Pruitt Taylor Vince
(Lou Girard - アル中の刑事)
Gary Grubbs (保安官)
Randy Austin
(副保安官
Ned Beatty
(Twinky LeMoyne - 隣町の有力者、砂糖工場主、現在映画製作に投資中)
Bernard Hocke
(Murphy Doucet - 守衛、トゥウィンキーの共同経営者)
Buddy Guy
(Sam Patin - 妻殺しで服役を終えた男、あだ名:ホグマン)
James Gammon
(Ben Hebert - 1965年の事件の事情を知る男)
Samantha Beaulieu
(Amber - 売春婦、情報提供予定)
Tony Molina Jr.
(Adonis Brown - 援助交際の客、女性の斡旋者)
Ryan Rilette
(Jimmie)
Chukwuma Onwuchekwa
(Dewitt Prejean - 1965年の殺人被害者)
Levon Helm
(John Bell Hood - 南北戦争時代の将軍)
Herman Brown
(バンドのドラム)
Robert Leblanc
(本人役、バンドのベース)
Dennis Paul Williams
(バンドのギタリスト)
Mark A. Williams
(バンドのメンバー)
Nathan Williams
(バンドのアコーディオニスト)
見た時期:2010年5月
★ ファンタで見ておけばよかった
つまらない韓国の作品と重なり、韓国の方を選んでしまいました。ファンタに来る韓国映画は日本の作品よりはるかにできのいい作品が多いので、去年もそれを期待して韓国の方を選んでしまいました。In the Electric Mist はトミー・リー・ジョーンズ主演、ジョン・グッドマン共演なので、必ずDVDが来るだろうと思っての選択でした。
韓国の映画がつまらないと分かった段階で、In the Electric Mist がどれほどの作品かはつかめていませんでした。ベルリン映画祭にも来ていて絶賛だったのですが、ベルリン映画祭の評価はファンタの評価と一致しないことも多いです。
しかしながらDVDを見て、ファンタで見ておけばよかったと感じました。アメリカのハリウッド映画とは全く違う撮影方法で、事件の経過などをすっかり忘れても絵として非常に優秀な作品。アメリカ南部紀行だとか言って記録映画に切り替えても見とれてしまいます。これを周囲が真っ暗な映画館の大スクリーンで見たらさぞかしすばらしいだろうと思いました。珍しくDVDを見る時に部屋の電気を消したのですが、やはり映画館で見ると迫力が違っただろうなあと思います。
★ ラジー賞にノミネートされない続編
原作はジェームズ・リー・バークの小説で、タイトルは In the Electric Mist with Confederate Dead。映画ヘブンズ・プリズナーの続編。アレック・ボールドウィンの役をトミー・リー・ジョーンズが引き継いでいます。時代は現代ですが、主人公デイヴがまだ少年だった1965年の事件を引きずっています。
★ ルイジアナ
舞台はルイジアナで、この地方はフランス系のアメリカ人が多く、奴隷としてアフリカから連れて来られた黒人もフランス系の名前を名乗っている人が多いです。シュルツェ、ブルースへの旅発ちも確か主人公の目的地はルイジアナだったように記憶していますが、この地はアメリカとは言ってもアングロ・ザクソン系のアメリカとは全く違う文化を持っています。フランス本国の文化とも違い、非常に興味深い所なのですが、アメリカの映画ではあまり大きく扱われることはありません。時たま南部の色の濃い作品に出会うと私は好奇心を持って見てしまいます。北部のアメリカやカリフォルニアの事情には詳しい日本人ですが、南部は黒人の奴隷解放の進み方が北部と違う速度で、古い習慣の名残があちらこちらに見られます。
★ 日本なら台風と津波、アメリカはハリケーン
ジョン・グッドマンは南部にハリケーンが来るのは日常茶飯事なので、カトリーナだけに驚くことはないと発言していましたが、たまたまこの作品はカトリーナ後に作られており、4年経っても家屋の被害状況がはっきり分かるシーンも盛り込んであります。カトリーナがらみではスコットの作品デジャヴも見ました。デジャヴの舞台は南部である必要は無かったそうなのですが、カトリーナの被害があまりにひどいので、撮影の場所をそちらに移し、経済的に貢献しようとしたようです。
カトリーナ
2005年8月28日非常事態宣言、9月に入りニューオルリンズは壊滅状態、ルイジアナのみの死者1500人強で他の州に比べダントツに多い。
★ 外国人の目
お金はアメリカからも出ていますが監督はフランス人です。フランス人だから良かったということではありませんが、典型的なハリウッドの監督でなかったことはこの作品に独特な色合いを与えており、すばらしい撮影をしたカメラの力は尋常ではありません。その両方が上手く噛み合い、大成功したのだと思います。
推理小説のファンとしては犯罪の描写がちょっと弱く感じましたが、原因は観客が景色に目を奪われてしまったところにあるのだと思います。フランスで作られる犯罪映画にはプロットが真っ直ぐで、ぐいぐい筋に引っ張られる作品も少なくありませんが、In the Electric Mist は文学作品のような作りになっているため、人物描写と風景描写がたっぷり盛り込まれ、所謂推理物を目当てに見るとちょっと外れます。ファンタで私が韓国映画を選んだのはそのためでした。しかしできのいいスリラーとか犯罪映画を期待していた私としてはどちらの作品でもその点では失望したと思います。
しかし In the Electric Mist にはその失望の埋め合わせとしてはたくさんお釣りの来るような良い点がありました。
★ ストーリー
前作に当たるヘブンズ・プリズナーとの関わりはほとんどありません。飛行機から救い出した少女が出るのと、主人公がアルコールに走りそうな状況ぐらいのものです。ボールドウィンが演じた弱さを持った男はその後かなり違ったタイプになっており、ある意味で固くなっています。
その過去よりもっと前の過去、1965年のある事件がずっと関係しています。主人公がまだ少年だった頃、沼地で鎖を体に巻きつけられた黒人の男が射殺されるところを目撃してしまいます。犯人はどこか遠くから撃っており、少年は犯人の顔は見ていません。
この事件は被害者が黒人のためほとんど注目を集めず、被害届、捜索願も出されておらず、捜査らしい捜査も行われていませんでした。40年以上前の話なので、今更話題にする人もいないのですが、覚えている人は町にちらほらいます。その1人が主人公のデイヴ。ルイジアナの小さな町の刑事です。
仕事中毒のデイヴが今取り組んでいる事件は19歳の女性殺人事件。援助交際をやる女性でしたが、顔見知りの誰かに誘い出され、暴行を受け、殺されています。手口が残忍なので捨て置けません。取り敢えずは身元や素行などを調査します。
★ ブラッド・ピットか
仕事となると気合を入れ過ぎる傾向のあるデイヴは酔っ払って蛇行運転をする真っ赤なスポーツカーを捕まえます。運転していたのはブラッド・ピットを思わせる大スターのエルロードで、現在ルイジアナで南北戦争の映画の撮影中。スターだからと言って特別扱いはせず警察署へしょっ引く途中、エルロードは吐いてしまいます。酔っ払っていたのは白骨死体を発見したことと関係があり、デイヴは死体の場所に案内することを条件にアルコールの方は忘れてやると条件を出します。
ブラッド・ピットもどきのエルロードはデイヴともう1人の刑事を現場に案内します。残っていたのは骨と鎖、欠けていたのは服装の一部。40年以上を経て死体が今頃現われたのはカトリーナのおかげ。少年時代の思い出にまだ引っかかりを持っていたデイヴはこの事件も追い始めます。
エルロードと話している最中にデイヴはエルロードから南北戦争の時の将軍の幻の話をされ、その後デイヴ自身も同じ幻を見るようになります。2人の共通点はアルコール中毒。それ以外には共通点は無いのですが、ちょくちょく小さなトラブルを起こすエルロードをデイヴは時々助けてやるようになります。アル中の先輩としては後輩の苦労が理解できるのかも知れません。
女性殺害事件の方ではデイヴは町の有力者ジュリー(ジュリーなどというかわいい名前ですがむくつけ男)にあたりをつけ、身辺を調べ始めます。マフィアとの繋がりを疑われるジュリーは最近映画産業にも手を染め、エルロードの作品に投資しています。しかしジュリーは自ら手を下して女性を殺すタイプとは違い、捜査は進展しません。
間もなくもう1人援助交際系の被害者がばらばら腐乱死体になってドラム缶の中から発見されます。被害者の受けた扱いから精神異常者の線も浮かんで来ます。
事務所に戻ってみるとFBI特別捜査官が派遣されて来ています。彼女の話だと事件はすでに近隣の町を合計すると17件に達し、かなりの類似点が見られるとのこと。捜査を兼ねてデイヴは映画プロデューサーの誕生祝に出かけて行きます。ジュリーの身辺をかぎまわっているため良く思われておらず、出された飲み物にLSDが入っていて、車で帰宅する途中事故を起こしてしまいます。幸い病院に運ばれ手当てを受けますが、意識を失っている間に南北戦争の幻を見ます。そこに登場する将軍はいつの間にかデイヴの相談役になっています。
退院後図書館で古い新聞記事を調べていたら、1965年に脱獄した男の記事を発見。名前も分かります。その線を追って証言者を探していると、妙な話が浮かんで来ました。脱獄した男は白人の女性と不倫関係にあったため投獄されただろうというのです。本当に犯罪があって捕まったのかは疑わしいのですが、証言者は皆周囲の圧力を恐れ、口が重いです。突っ込むと、「ここまでしか言えない」と断わられます。
エルロードは時々我を通すためトラブルを起こします。ちょうど天候不良なのに船を出し、網に引っかかり助けを求めて来ます。デイヴとデイヴの家政夫が駆けつける時は雨が降っています。そのためデイヴが自分のレインコートをエルロードのガールフレンドに貸したとたん、彼女が射殺されてしまいます。明らかにデイヴ殺害の目的で、彼女は間違えられたのでしょう。デイヴは1965年の事件か最近の女性連続殺人事件のどちらかで核心に近づき過ぎたのでしょう。確か1965年にも遠くから弾丸が飛んで来たような記憶が・・・。
邪魔が入る中で捜査は少しずつ進み、女性連続殺人事件では犯人は警察、刑務所の関係者か、ソーシャルワーカーなどの範囲に絞られて来ました。
そこへアンバーという売春婦から情報を提供するからある酒場に来いとデイヴに連絡が入ります。しかし閉店まで現われません。外に出ると車から発砲する者が。対抗して発砲すると車内から死体が2つ。女性の死体はアンバーで2人とも武器を所持していませんでした。なのでデイヴの過剰防衛成立。そのため停職処分になってしまいます。
ここでFBIが前に出て調査は続行。間もなく死体は撃ち合いより前に仏になっていたことが分かり、取り合えずデイヴは無罪放免。
同僚で一緒に断酒の会に出ているルーから2人の殺された女性について重要な情報を得ますが、ルーは間もなく自殺死体として発見されます。周囲は自殺で片付けようとします。その時デイヴはルーの足から隠してあったピストルを抜き取ります。
ルーの死もエルロードの恋人の死もアンバーの死もデイヴに深入りするなとの警告であり、いずれはデイヴ自身も死ぬのだという予告でもあるわけですが、ルーの死はある人物に逆に恐れを抱かせ、口を開かせます。ある男が一歩進んだ話を知っているはずだとの情報を得、エベア(アメリカ人ですが、フランス式でHは読みません)という男に話を聞きに行きます。エベアは1965年の事情を少し知っていました。
「白人の身体障害者の夫を持つ女性が庭師などをしていた黒人の男性と不倫関係になっていた。本来ならその夫が黒人の男性に復讐してもこの地では不思議でもないが、脚が不自由でそういうことはできなかった」とのこと。黒人の男は隣町の白人の経営する砂糖工場で働いていたとのこと。隣町には砂糖工場は当時も今も1つしかありません。的は絞られて来ました。
デイヴは時々意外な人物から助けられます。ジュリーの手下だった男がジュリーの横暴さに嫌気が差し、町を離れる決心をします。その時デイヴの家に立ち寄り、重要な証言と証拠写真を置いて行きます。ジュリーは聞き込みの時、被害に遭った援助交際の女性を知らないと言っていながら、同じ写真におさまっています。その他に、犯人像が絞られて警察、役所関係者かソーシャルワーカーなどという条件に合う男も映っています。
ショーダウンが終わるまでにまだドンパチがありますが、証言、証拠に合う人物が両方の事件でそれぞれ1人に絞られ、勧善懲悪は通ります。
★ 完全な人物でなくなったデイヴ
ボールドウィンの頃のデイヴも地元の大ボス、小ボスとのやり取りがあり、裏取引や脅しなどと向き合わなければなりませんでしたが、定年間近のデイヴは少し練れて来ています。当時は感情的にあちらへ、こちらへと引き裂かれる男でしたが、年を取りややシニカルにもなっており、その分あまりむちゃくちゃに興奮はしません。その分自分でも状況に妥協し、時たまインチキもします。まだ元気はつらつ、人生に失望もしていないFBIの女性捜査官は時々頭か湯気を出して怒ります。何しろデイヴがインチキをしたり、容疑者をバンバン殴ってしまうからです。そうやって外に発散するようになったデイヴと、まだ苦しみを全身で受け止めてしまう以前のデイヴの差をトミー・リー・ジョーンズが別人であるかのように知らん顔で演じています。
★ ちょっとした違和感
ジュリーが自宅でプロデューサーの誕生パーティーを主催する時、バンドが1つ入っていてライブをやります。このDVDにはエクストラがついていて、そこではジョン・グッドマンが1曲歌い、その後に同じバンドが1曲披露します。普通なら大喜びするところです。
ところがブルース・ブラザーズ・グッドマンは絶好調とは言い難く、酔っ払っていたのか、あるいは体調不良。聞ける音楽ではありません。バンドの方はちゃんとしたブルースを聞かせてくれるのですが、何だか違和感がありました。もしかして、これ北部のブルースなんじゃないかなどと感じてしまったのです。南部のブルースと言うにはどこかしら乾いていて、人を突き放すような印象がありました。その辺は専門家の井上さんかうたむらさんに聞かないと分かりません。せっかくのおまけなのにいちゃもんつけてDVDに申し訳ないとは思いますが。
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