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完全なる報復 /
Law Abiding Citizen /
Código de Conduta /
Días de ira /
El vengador /
Gesetz der Rache /
Um Cidadão Exemplar /
Un ciudadano ejemplar /
Un honnête citoyen

F. Gary Gray

2009 USA 118 Min. 劇映画

出演者

Jamie Foxx
(Nick Rice - フィラデルフィアの敏腕検事)

Regina Hall
(Kelly Rice - ニックの妻)

Emerald-Angel Young
(Denise Rice - ニックの娘)

Leslie Bibb
(Sarah Lowell - ニックの助手)

Colm Meaney
(Dunnigan - ニックとなじみの刑事)

Gerard Butler
(Clyde Shelton - 軍、諜報関係の発明家)

Bruce McGill
(Jonas Cantrell - 検察官)

Michael Irby
(Garza - 刑事)

Christian Stolte
(Clarence Darby - 押し込み強盗暴行主犯、懲役3年)

Josh Stewart
(Rupert Ames - 押し込み強盗共犯、死刑)

Annie Corley
(Laura Burch - 判事)

Viola Davis
(April Henry - 市長)

見た時期:2010年5月

1番肝心な所はばらしませんが、ストーリーの大半がばれます。見る予定の人は退散して下さい。
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★ プロットの穴

犯罪映画を推理小説ファンが見ると、プロットの穴に気づいてしまい怒ることがあります。犯罪小説が完璧に書かれているかというとそうでもありませんが、読む方はじっくり考える癖のついている人もおり、そういう人が映画を見ると、さっきまで殴られて口から血を出していた主演が、次の瞬間きれいな口をしていておやっと思うなどということは日常茶飯事です。

ストーリーの整合性が崩れる作品も時たまあり、そこでまた推理小説ファンは腹を立てるのですが、Law Abiding Citizen はそれ以外の所でプロットの穴が見られます。タイトルは訳すと《法に従う市民》といった意味で、法の矛盾を突いた作品です。しかしライフ・オブ・デビッド・ゲイルの路線ではありません。

一流、二流、三流、どんな国にもたいていは立派な法律があります。ところが運用の段階になると自分では一流国と思っている国ですら非常にずさんだったり、意図的に不公平になっていたりして、映画界は何度テーマにしても飽き足らず、2009年に改めて映画化されました。

主演はジェラード・バトラー。映画製作会社を立ち上げ、第1作目ですので、自分が主演になるのは当然です。元々は彼がフォックスの役、フォックスがバトラーの役で契約をしたのですが、間もなくバトラーの気が変わり、フォックスに役を交代してくれと頼んだそうです。

私が普通と違うプロットの穴と言うのはこの2人が役にぴったりでない点と、バトラーが演じた復讐者の性格に整合性が無い点です。後者の方が目に付きました。

★ 監督

監督はF・ゲーリー・グレイで、監督歴約15年。作品数は平均すると年に約1本。ビデオが多いです。しかし私が見た3本は劇場用でとてもおもしろかったです。ケビン・スペーシーの交渉人、トラボルタの Be Cool、ウォールベルクのミニミニ大作戦です。

Law Abiding Citizen はマイケル・ベイ、マイケル・マン、トニー・スコット的なアクションを取り入れた犯罪映画の系統で、それでいながら頭脳もフル回転するようにできています。ですから推理小説ファンにも楽しめますし、アクションや犯罪物が好きな方にもそれなりの満足が行くと思います。適度に焦点が絞ってあり、あれもこれも狙った虻蜂取らずにはなっていません。

★ キャスティングが外れることはあるが・・・

ミスキャストはたまにあることで、誰々にすればよかったのにという話や、こいつだけは止めておいた方が良かったのにという話は時々耳にします。それはまあ監督ですら思い通りにならないスタジオ・システムもありますし、仕方の無いことでしょう。

私にはフォックスは Ray/ レイドリームガールズの主演の時の方が歌をのけて俳優としてだけ見ても上手く役にはまっていたと思えました。キングダム/見えざる敵マイアミ・バイスも違和感がありませんでした。それに対し Law Abiding Citizen ではちょっとフィラデルフィアのエリート検事としてピンと来ませんでした。大きくて高級な家に住み、インテリという役が合わないということではありません。演出の仕方によっては行けたのではないかと思いますが、演出の詰めができておらず、彼の醸し出す雰囲気と演じる役に隙間ができてしまった印象です。家の調度品、彼に着せる服、妻の役に選ぶ俳優などの調整が上手く行けばフォックスでも十分務まったかも知れません。しかしそれがきっちりできていないのなら思い切って別な俳優を探した方が良かったのではないかと思います。

そして1番おかしかったのがバトラー。映画の製作会社の社長としてこの作品を選んだのは目が高いと思います。脚本はかなり良くできており、選んだ監督も力量不足ではありません。アクションを交えつつ、頭脳を使う筋運びです。観客は時間を切られるのではらはらしますし、検事や刑事が戦う大義名分も揃っているので、観客はお腹いっぱいになります。消化不良するほど詰め込んでいないのも好感が持てます。

ところが話の後半の頭にあれっと思うような穴が空いているのです。その話をするにはストーリーが分かっていないと行けないのでご紹介します。

★ ストーリー

時は10年前と現代。場所はフィラデルフィア。10年前中産階級から上流の人が住む住宅街に2人組の押し込み強盗が入ります。犯人が被害に遭った発明家の家を選んだのはたまたまのことで、3人家族のうち夫人は夫の目の前で強姦された上、殺害されます。ちょっと遅れて強盗に見つかってしまった娘も殺されます。生き残ったのは夫1人。主犯格のダービーが夫人に乱暴をし、共犯のエイムズはそんな事は止めて早くずらかろうと言いました。

暫くして2人とも逮捕。なぜか司法取引は主犯格ダービーとの間に取り交され、夫人に乱暴もせず、それどころか早く逃げようと言った男の方が死刑、ダービーは取引の結果懲役3年になります。取引はエリートで起訴率96%を誇るニックが行います。証拠が法廷で取り上げられないなど手続き上の困難があり、不起訴で成果ゼロよりは多少の正義と考えての判断でした。被害者で今では1人きりになってしまったクライドにはこの展開が理解できません。悪いことにしぶしぶメディアの前で相手側と握手するニックを見てしまい、恨みがめらめらと燃え始めます。ニック個人に対する恨みではなく、法律の不条理に対する反感です。

10年後クライドの復讐が始まります。手始めに死刑執行の時の薬の順序を入れ替え、死刑囚エイムズが最悪の苦しみを味わうように手配します。死刑を見守る当局の人たちも嫌な思いをします。薬の袋に誰がやったか分かるようなメッセージが残されています。

次は本当は主犯だったダービーが拉致されます。警察が向かっていることをダービーに知らせる謎の電話に誘導され、警察はうまくかわしたのですが、警官に化けたクライドに捕まってしまいます。彼にも体は麻痺し、神経だけは敏感になる薬を注射し、最悪の苦しみを味わせながらの死を録画。最後はばらばら死体になりますが、このシーンはソウと似たような趣味と考えて下さい。

これで復讐は終わったのかと思いますが、まだ上映時間はたっぷり残っています。私の悪い予想は時々当たってしまうのですが、その通り。次は被告人側の弁護士、その次は検事、判事。何しろニック個人に対する恨みではなく、法律全体に対する恨みです。対象は次第に上って行き、後半は市長やセキュリティー関係の警察や軍のお偉方にまで及びます。警察、検事、判事、市長などが連絡を取り合って捜査しても後手後手。ショーダウンに近づくまで連続黒星です。

当局が全くお手上げなのは、クライドがとっくに2人の押し込み強盗の事件で逮捕され刑務所送りになっていて、独房から一歩も出られなくなっているためです。他の囚人と連絡を取っている様子も見えて来ず、外に共犯者がいるとすればどうやって連絡を取っているのかもつかめないのです。

にも関わらず被告人側の弁護士は誘拐され、地中に幽閉され、ボーン・コレクターのように犯人に時間を切られ、警察がその場所に駆けつけた時は時間切れで死んでいました。判事の1人は携帯の連絡を受信したとたん頭を吹っ飛ばされます。ニックの同僚の検事たちは一挙に半ダース爆死。中の1人はニックの助手で、死ぬと分かっていても車から出ることができず、ニックと最後の視線を交わします。

ニックの家族も無事ではなく、まだ幼い娘が送られて来た殺人DVDを見てしまいます。そこには主犯格の男が生きながら手足をばらばらにされ、最後に死ぬシーンが全部映っていました。クライドはマスクを被っているので画面では顔が見えませんが、逮捕されても逆らうでもなく素直に刑務所入りしています。

ずっと負け込んでいた検察側ですが、死んだ助手のノートブックを見ていて、ニックはクライドの財政状態のリストに行き当たります。2人は生前その話をしていました。多くの金が不動産に使われています。

同時にクライドの仕事関係の情報も入り、軍事産業や諜報関係の発明で大金をつかんでいることが判明。クライドを知るCIAとも接触します。その男の話によるとクライドはかなり優秀で、驚くような殺人装置を作る力があるそうです。

この2つの線を追って後半の後半、ようやくクライドの後ろ側に回ることができます。しかしクライドは最後に大きな仕事をたくらんでおり、危険なショーダウンが迫っています。

★ 人格のずれ

後半クライドの職業がばれるまで観客は《気の毒なお父さんが妻と娘を失って・・・》という路線をたどります。いくらかヘブンズ・プリズナーの乗りで、同情ボーナス点はたくさんあります。ところが私がけっ躓いてしまったのはソウもどきの拷問シーン。共犯者の死刑もクライドこそが誰が1番悪いか見て知っているのに、共犯者にも人生の1番最後に最悪の苦しみを与えます。

その後次々と鮮やかな手口で法律関係者を片付けて行きます。犠牲者を埋葬する墓地でも車列に撃ち込んで来ます。最後に狙われるのは市庁舎で、あのまま行けば無関係な職員や清掃員まで巻き込まれます。

バトラーは気合を入れて復讐者を演じていますが、家族思いの優しい夫、お父さんと、CIAが説明したような殺人マシンや殺人道具の発明(それが諜報活動や戦争に使われることは十分承知している)の天才が同じ人物の体に同居しています。そのどちらにも矛盾を感じている様子は無く、ロビショーのように酒びたりになるわけでもありません。

知能犯と追いかけっこをする犯罪映画なので、ゲーム的な楽しさはありますが、バトラーの演じる男の矛盾が目に付き、大きな不満が残ります。もし夫人と子供に自分が本当はどういう仕事をしているのか言わず、良い話だけをしていたのだとすると、仕事関係から家族が危ない目に遭う可能性も計算に入れていなければなりません。バトラーはそういう風には演じておらず、妻と子供を失い絶望した男として登場しています。その絶望が高じて残忍な復讐者になるとしてもどこか違和感が残ります。復讐を実行する部分のバトラーは完全に軍事産業や諜報関係の技術を駆使しており、人間の血は通っていません。

そういう乗りでこれまで発明家の職業についていた人が実は優しいお父さんというのは無理。優しいお父さんが一念発起して復讐を始めたという話は理解しにくいです。特にこの方法では。

アメリカには自分でオトシマエをつける映画はたくさんあり、その都度賛否両論出ていますが、これまで主人公の人格にこれほどの矛盾を見たことはありませんでした。先日ご紹介した処刑人でも双子がああ言う事を始めるきっかけは良く説明されていましたし、FBIまでが思わず協力してしまう過程も矛盾を感じませんでした。他の作品でも自分は賛成しませんが、映画の中ではそれなりに矛盾無く説明ができていました。

時たまキャラクターの整合性に矛盾を含む作品が出るようになっていますが、そこがずれているとどんなにカメラが良くても、俳優に実力があっても、せっかくの労力が無駄になってしまうように思います。

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