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殺しのナンバー /
The Numbers Station /
Códigos de Defesa

Kasper Barfoed

UK/USA/Belgien 2013 89 Min. 劇映画

出演者

John Cusack
(Emerson Kent - 左遷されたCIA諜報員)

Malin Akerman
(Katherine - 諜報関係の放送をする女性)

Liam Cunningham
(Michael Grey - エマーソンの上司)

Lucy Griffiths
(Meredith - キャサリンの前の時間の番号読み上げ係)

Bryan Dick
(David - キャサリンの前の時間の番号読み上げ係の護衛)

Richard Brake
(Max - 建物に侵入した傭兵)

Joey Ansah
(Derne - 建物に侵入した傭兵)

Finbar Lynch (Michaels)

Gabrielle Reidy (Monroe)

Victor Gardener (Fischer)

Joe Montana (Jeremy Fletcher)

Jonathan Jaynes
(Nathaniel Davis - バーテン)

Hannah Murray
(Rachel Davis - ナサニエルの娘)

Brian Nickels (用心棒)

Randy Merchant (用心棒)

見た時期:2013年8月

2013年ファンタ参加作品

要注意: ネタばれあり!

見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

★ よれよれの作品

佳作が多かった2013年のファンタなのに、何もこんな作品を取り上げなくてもいいじゃないかという意見の方がおられましたら、その通りです。でもまあ、ジョン・キューサックの選んだ作品についてあれこれ言って見ようと思ったので取り上げます。

キューサックは自分の考えで作品を選ぶ事があるようで、今回も実に分かり易いです。撮影されたのは去年らしく、スノーデン事件が起きるなどとは知る由もありませんが、骨子は似ています。

スノーデンについて言われている事を鵜呑みにすると、彼は元々は国防や国に対して反感を抱いてはいなかった様子。結果として国賊、反逆者と言われる立場に陥ったのは、仕事をしている最中に「ええっ、国ってこんな事をやるの!?」と気づいたため。

メディアに流れる話にを聞く時は眉にたっぷり唾をつけておかないと、後で全然違う話が出て来たりするので、その辺は十分に距離を取っての話ですが、殺しのナンバーも、元々は愛国心でやっていたらしい仕事に大きな矛盾を感じた諜報員の話です。

ファンタでこの作品を見始めた時はキューサックが人相も悪く、汚らしく見え、溌剌の真逆な上、暗いシーンが多いので、悪〜い印象を受けました。プロットも単純で、捻った推理物ではありません。言わばキューサック演じる CIA 諜報員エマーソンの現状と考えの変化に観客が付き合う話です。なので、レビューなどで時々目にした「単調でできの悪い作品」という意見にも半分ぐらい賛成します。

暗い、汚い、よれよれと言う点は実はストーリの性質を考えると必然。メリハリの無さは脚本家、監督などの責任。全く同じ話をフランスに持って行ってカッセルやベルッチにやらせたらもう少し心に響く作品に仕上がったのではないかと思ったりしました。

★ 左遷される前

エマーソンは CIA 諜報員で、その日はある飲み屋のバーテン暗殺指令を受けていました。ところがためらいが生じたり、財布を現場に落として来たりと、失敗続き。そのために必要以上に人を殺さなければならなくなり、問題が拡大。しかも目撃されてしまったためバーテンの娘を殺すべきところ、助けてしまいます。

結局上司が出て来てこの娘を殺し、 CIA としては問題は解決しますが、エマーソンは英国の田舎の子守の仕事に左遷されてしまいます。

★ 英国での仕事

一種の閑職で、彼は田舎の砦のような軍の施設で働く女性の護衛を仰せつかります。彼女は本当の意味でのプロの諜報員ではなく、軍の施設で定期的にラジオ放送を通して番号を読み上げるだけ。

最近インターネットで色々な記事がアップされるので、諜報活動にも色々あるのだという事が分かって来ました。ジェームズ・ボンドのように殺しのライセンスを持っている国家公務員の諜報員は氷山の一角。

この間アメリカ出身の、香港、モスクワと旅行して、モスクワ空港のトランジット・エリアで行き止まってしまった若者も諜報の仕事をしていたようですが、彼がやっていたのはコンピューターのシステム・エンジニアのような仕事。元々はスパイでも何でもありません。かと思うと現在では IT 大企業のボスと思われている超有名な人が、元は諜報部門のプログラマーだったなどという話もあります。かと思えば事務所に出勤して一日中新聞や合法的な報道、政府の白書、その他の資料だけを相手にせっせとその国の状況を分析している人もいます。

まあ、諜報と言っても色々な分野があり、国内で国の建物の中で働く人もいれば、外国で大使館員として働く人もいれば、学者か何かで用がある時だけ資料か何かを分析して、その結果を手紙で知らせるような人もいます。ある国のジャーナリストは国外に出るとスパイ顔負けの仕事をするという噂もあります。ま、動き方から、働く場所から何から千差万別。

殺しのナンバーではこれまで第一線で殺しをやっていたむさいアメリカ人が、英国の国内の国の施設で番号を読むだけの女性と出会います。

★ 施設の中で

私も東京オリンピックの前だったと思いますが、わけの分からないラジオ放送を聞いた事があります。確かあれも番号を読むだけの単調な放送だったと思うのですが、なんでそんな物が放送されているのかさっぱり分かりませんでした。

インターネットの現代に何でまたそんなレトロな事をやっているのだろうと当初訝ったのですが、良く考えて見ると、これは結構安全で効果的な方法です。インターネットは今日ではほとんど全て跡をたどる事ができます。なのでスパイに取ってはそれほど安全な道具ではありません。ラジオ放送だと一方通行ですが、放送する側に施設が必要なだけで、それはたいてい危険の無い母国の施設。外国で受け取る側はラジオを家に置いておけば良く、どの周波数で何時間聞いても跡は残りません。費用もほとんどかかりません。

超近代的な今日でもこういう古い方法が使われるらしく、番号読みのアナウンサーのキャサリンが定期的に放送をしています。彼女はファックスか何かで送られて来る番号を読み上げるだけ。それが具体的に何を意味しているかはいちいち構っていません。

この軍の施設に来て番号を読み上げる人は何人かいて、それぞれにエマーソンのような護衛がついています。

★ 襲撃を受けた放送局

一応軍の施設なので、少し離れた場所から車でやって来て、分厚い壁のある建物の奥で仕事をします。ところがある日どういうわけか襲撃を受けます。襲ったのは複数のプロの傭兵。逃げ場が無く、2人は取り敢えず砦のようなこの建物に籠ります。

ところが賊はこの壁を壊してでも侵入して来る勢い。やがて対決になります。エマーソンはピストルを持っていたので1人を倒しますが、キャサリンは負傷。そのため本部のオペレーターに応援を要請。応援到着の4時間後までとにかく2人は自衛しなければなりません。しかもエマーソンはオペレーターからキャサリンを消すよう命令も受けます。どうやら発信された暗号に細工があった様子。ここ2ヶ月ほど殺しと縁遠い田舎でキャサリン護衛の仕事を請け負い、殺伐とした心が癒されている最中だったエマーソン。相手が傭兵だったらすぐ殺せるエマーソンですが、キャサリンのような人間的な人物は苦手。

本部のオペレーターから連絡があり、2時間後に応援が到着するが、キャサリンはもう殺したかと聞かれます。もちろんまだ殺していません。本部は催促。

ところがその間にエマーソンとキャサリンはとんでもない事実を発見。キャサリンの前の読み上げ係と護衛が何者かに強制されていつもと違う番号を読み上げさせられていた痕跡があったのです。数字に強いキャサリンの話によると、エマーソンの上司も含む15人の政府高官の情報を発見。これが放送されてしまっているので、この15人を殺せと命令が下ったことになります。しかも建物内にいたキャサリンの前の時間の読み上げ係りの護衛は侵入して来た傭兵にやられて死体になっていました。護衛と傭兵は相撃ち。

2人は追い詰められた状況の中でそれぞれ自分自身について話し始めます。

エマーソンはこれまでキャサリンが発するような暗号放送を受け取って人を殺す仕事をしていました。2人は英国の田舎で初めて出会いましたが、実は仕事上はキャサリンのような放送係が何人かいて、エマーソンのような殺し係が滞在している国で人を殺して回っていたのです。

キャサリンはくたびれ切っている様子のエマーソンに「足を洗っては」と聞きますが、冒頭彼が殺しに行ったバーテンがそういう風に足を洗おうとした人物。足を洗って貯金でバーを開いた3年後にエマーソンに暗殺命令が下りました。間が悪いと一般人の家族も片付けなければなりません。

応援が到着するまでの間に2人は本部のオペレーターが寝返っており、故意に本来ターゲットでない15人を殺させるように情報が改竄されていることを発見。こうなるとキャサリンを命令通り殺すのはもってのほか。応援は当てにならず、2人はここから逃げ出さなければなりません。

怪我をしているキャサリンを近くの安全な部屋に籠らせ、本部のオペレーターに対してはキャサリンを片付けたと報告。エマーソンが外の車にある携帯電話を取りに行っている間に、キャサリンは放送内容をキャンセルするために必要な情報が何かを割り出します。キャサリンの前の時間担当の同僚がその方法を上手く隠しておいたことに気づきます。その同僚も殺されています。

命令をキャンセルするために放送スタジオに向かったキャサリン。しかし傭兵がその辺をうろついています。キャサリンはそれに気づき隠れますがまた撃たれてしまいます。

自分も襲われる中かろうじて助かり、相手を倒したエマーソン。瀕死のキャサリンはエマーソンに放送内容をキャンセルする方法を教えます。彼女の指示通りエマーソンは放送内容をキャンセル。しかしキャサリンの怪我の具合が良くありません。

エマーソンはオペレーターではなく上司に電話をし、報告。キャサリンについて聞かれると、問題無しと答えます。電話の後エマーソンは建物中に爆弾を仕掛け、キャサリンの持ち物をその辺にばら撒き、彼女を外の車に運びます。車が動かなかったので彼女を抱えて建物から遠ざかります。

エマーソンはちょうど通りかかった車に強引に乗り込みますが、運転していた男が本部のオペレーターだと気づきます。彼が《応援》であり、エマーソンたちを片付けに来たのでしょう。エマーソンは彼に、「誰のために働いているのか」と聞きます。すると「以前はエマーソンと同じ側にいたが、現在は反対側のために働いている」との答。

ここでこの男が話す事が映画の骨子です。
 ・ 自分たちのボスは自分たちが殺し屋になることを要求し、
 ・ いつの日か限界が来てそれができなくなると文句を言う。
 ・ そして仕事を辞めると殺し屋を送って来る。なぜなら仕事を通じて色々な秘密を知っているからだ。
 ・ 相手側は少なくとももっとたくさん払うよ。

要は一頃の IBM の従業員と真逆の扱いを国家のエリートたる CIA が受けているというのです。

エマーソンが放送をキャンセルしてしまった事を知ったオペレーターとエマーソンは相撃ちになり、エマーソンはその後車を走らせるものの意識を失い車は衝突。暫くして病院で目を覚まします。キャサリンも無事。

しかし病院にエマーソンの上司が来ていて、キャサリンを消せと要求。エマーソンは「キャサリンがいなければ今頃お前も死んでいる」と言い、上司は「10日間逃げる余裕をくれ」というエマーソンの要求を呑みます。一応放送局内にキャサリンが死んだように見える細工がしてあるので、上司が黙っていれば暫く時間が稼げます。

この先の2人の生活は恐らくボーン・スプレマシー の冒頭の2人のようになり、いずれヒットマンがやって来るのでしょう。

★ 先の面倒を見ない?

CIA ともあろう団体が精神的に疲れた人物や負傷して引退した人物の先の就職先を用意しないということは無いのではないかと思いました。特に極度の緊張を強いられる暗殺部隊は、精神を磨り減らすのでいずれ賞味期限が来るものと思われます。知性の他にスポーツと同じ能力が要求されるので、年齢の限界もあるでしょう。そして全員がその後上司になってデスクワークというほどポストは多くないでしょう。となると中にはバーを開こうなどと思う人間が出てもおかしくありません。

日本の刑事ドラマには時々元刑事が飲み屋を開き、そこに現職の刑事が飲みに来るといった話もあります。確かキラー・エリートでは SAS という組織の訓練所がある村の飲み屋の親父が引退した SAS メンバーだったように記憶しています。

スノーデンのように「俺は寝返るんだ」と決心してしまった人はどうしようもありませんが、自分の陣営に特に疑問を持っていない人には交代や引退の道を作っておかないと、国が機密もろともガタガタになってしまいます。

主要国の諜報機関で仕事を外部下請けに出すという話を聞いてびっくりしました。あの頃から世間では非正規雇用だの民営化だの言い出しており、国家の中枢の諜報機関までがそれをやり始めたのですから。もっとも大型諜報機関は金食い虫ですから、本来こういう部署は小ざっぱりとしておく方がいいのではとは思います。

★ 確かにつまらない

確かにつまらない作品です。特にメリハリの無さ、展開の少なさを挙げるべきでしょう。撮影はほぼこの田舎の建物の中のみ。

2人が暗号の改竄を知ったり、オペレーターが敵だと分かったりと、ストーリーに展開はあります。しかし演出がだらだらしていて、区切りがうまくついていません。なので観客としては退屈な印象を受けます。

上にも書いたようにキューサックはミッドライフ・クライシスと殺人の疲れが同時に出ていて、よれよれ。なのでああいう姿でも仕方無いのですが、シーンが大きく変わるでもなく、いずれは部下のエマーソン暗殺の指令を他の若くて元気なエージェントに出すと思われる上司の立場を掘り下げるでもなく、有能な脚本家ならいいストーリーを紡ぎ出せそうな要素が揃っているのに上滑りしています。

キューサックはストーリーの骨子に賛同してこの役を引き受けたのだろうと想像しますが、脚本と演出がこれでは、作らない方が良かったと思います。英米にも、フランスにもこういうシチュエーションを提案されたらもう少しましな作品に仕上げられる監督、脚本家がいるのではないかと思います。

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