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UK/F/Schweden/Belgien 2013 113 Min. 劇映画
出演者
Naomi Watts
(Diana - 英国元皇太子妃)
Charles Edwards
(Patrick Jephson - ダイの秘書)
Douglas Hodge
(Paul Burrell - ダイの執事)
Ilan Goodman
(ダイのアシスタント)
Mary Stockley
(ダイのアシスタント)
Geraldine James
(Oonagh Shanley-Toffolo - 看護婦、ダイの鍼灸師)
Michael Hadley
(Joseph Toffollo - 建築家、ウーナーの夫)
James Puddephatt (護衛)
Micah Balfour (護衛)
Will Chitty (護衛)
Rose O'Loughlin
(Denise - 看護婦)
Juliet Stevenson (Sonia)
Prasanna Puwanarajah
(Martin Bashir - 有名なダイのインタビューを行ったジャーナリスト)
Naveen Andrews
(Hasnat Ahmad Khan - アフガニスタン系肺、心臓外科医、ダイの愛人の1人)
Max Wrottesley
(News of the World のカメラマン)
Christopher Birch
(Ronnie Scott)
Nathaniel Facey
(Dwayne Johnson)
Cas Anvar
(Dodi Fayed - ハスナットと同時進行のダイの愛人)
Max Cane (家主)
Tessa Jubber
(Christina Lamb - ジャーナリスト)
David Sherwood
(地雷原の取材をするジャーナリスト)
Cleone Cassidy
(テレビ記者、アンゴラ)
Edna Jaire
(アンゴラの医師、通訳)
Alex Elliot
(アンゴラの医師)
Jonathan Kerrigan (Colin)
Afzal Khan
(ハスナットの叔父)
Usha Khan
(Naheed Khan)
Rafiq Jajbhay (Rasheed)
Kasthuri Singh
(Appa - 乳母)
Harry Holland
(Harry - ダイの次男)
Laurence Belcher
(William - ダイの長男)
Michael Byrne
(Christiaan Barnard - 南アフリカの心臓外科医)
Raffaello Degruttola
(Mario Brenna - イタリア人カメラマン)
Daniel Pirrie
(Jason Fraser - ダイとファイエドのスクープを取ったカメラマン)
見た時期:2014年5月
★ 最低女優賞もらっちゃった
概ね不評で低い評価がついています。有名どころのサイトではけちょんけちょん。
では、なぜそんな作品を見たかと言うと、実在した王室メンバーや政治家の伝記映画には目を通しておこうと思ったからです。これまでエリザベス1世、2世、ジョージ6世、サッチャー、ブレアなどの作品を見ています。たまたま英国の人物が多いですが、他の国のこういった有名人にも伝記を読むほどではないけれどといった程度の関心はあります。
この種の映画レベル、制作目的は様々で、一括りにできません。高いレベルの作品もあれば、ダイアナのようにチープな作品もあります。重厚な作品は人を圧倒するために作り、歴史の中でこの人はこういう役割を果たしたのだなどと言いたいのだろうから分かり易いです。その人物の一時期だけを取り上げるエピソード型の作品もあります。 ウェールズ公ダイアナへのアプローチの仕方としては政治紛争に巻き込まれた式の話にしたり、元は物を知らない人物が色々なトラブルを経験して老獪な人物になって行く過程を示したり、またぐっと方向を変えて、恋愛秘話とか、不安定な性格に焦点を当てたり、ま、色々に料理できるわけです。
小説家や脚本家が考え出したフィクションと違い、実在人物なので色々言われている事と比較できるところがおもしろいです。長い目で見れば伝記として出版された書物も時の政治に大きく影響を受けるので、映画と大した差は無いと見るべきでしょう。ジャッキー・ケネディーの話と同じで、この人の評価は100年以上経ってから、距離を置いて見ると、同時代を生きた人たちとは違った評価になる可能性が強いです。
例えばキャロライン・ケネディー大使の現在を見ると、娘をこういう風に育てたお母さんへの評価がかなり違って来ます。パパラッチ、ゴシップとは違う所で子供を大切に育てていたジャクリーン・ケネディー氏の素顔が、死後になって見えて来ます。
★ ドイツの映画人 - 国際的活躍はいかに
オリヴァー・ヒルシュビーゲルはハンブルク人で、最近僅かながら国際的に活躍しているドイツの映画人の1人です。
ドイツはドイツ国内ですら観客動員数を稼げない、インテリ層向きの映画ばかり作っていた時代を経て、私がドイツに来て暫くしてから、エンターテイメント性を盛り込んだ作品を作るようになりました。対象は国内。何人かいい監督や俳優を輩出しましたが、大成功というほどではありません。ただエンターテイメント性を無視しないでおこうという考え方は定着したようです。
エンターテイメント性を取り入れて国内的に大成功したのがデンマーク。それが北欧各国にも波及して、さらにEU内でも観客を集めました。それに比べるとドイツは低調ですが、それでもエンターテイメント性はかつてほど無視されなくなりました。
ハリウッドには戦後アメリカに都合のいいドイツ人俳優がごく僅かいて、癖のある役で時々声がかかっていました。一部はオーストリー人ですが、アメリカ側に区別がついていたのかは不明。ただその人たちも現在では後期高齢者(変な言い方!?)になり、そうそう声がかからなくなっています。
次の世代としてドイツからスターとして売り出そうとしたのがフランカ・ポテンテとティル・シュヴァイガー。噂で、確認していませんが一時期はハリウッドに住んでいたとか、住む予定だったとか聞いた事があります。ポテンテは主演に近い役もあり、うまく行くかと思ったのですが、ドイツ政府の方からどうやら引き上げを決めたようです。
あの頃ドイツは誰かにいい儲け話を吹き込まれたので国家予算を映画に投資したという噂も聞いた事があります。確認が取れていないので、話半分以下と考えてください。その話に尾鰭がつき、文化関係の大臣がオスカー授賞式に招待されたとか、与太話に引っかかって大損したとか、いくつか変な話を聞きました。2人の俳優がハリウッドから引き上げたのはそのせいかも知れないと当時思った事があります。
ポテンテとシュヴァイガーは自分の方からハリウッドを特に目指しているようには見えず、さっさと戻って来たようです。しかも元々2人はベルリンに住んでいたのではなかったらしいです。ベルリンが首都としてはっきりした姿になった現在はベルリンの高級住宅街に自宅を移したってな話も聞こえた事がありますが、全て確認は取れていません。
ハリウッドで名を成せると言われ、本人もやる気満々で乗った人もいたようではありますが、結果として成功しておらず、ポテンテ、シュヴァイガーも未練があるようには見えません。
2人がせっせとハリウッドに足場を探していた頃、実力があるのにほとんど外国を目指していない若手がいて、もっぱら国内の《見るに耐える》作品に出ていました。たまに外国から声がかかったこともあるようですが、もっぱら国内の映画界で活躍していました。
その頃他のドイツ人俳優は、テレビと映画の間を行き来する人が多く、役者としてのレベルは低かったです。別にテレビをやるからって自分でレベルを落とす必要は無いのですが、ドイツではキャスティングのシステム上縁故採用が多く、監督や制作者の近くにたむろしていないと仕事が入らなかったりします。もっぱら映画中心に活躍している若手有能俳優はそこからは外れていたようです。俳優業だけでちゃんと食べていけるのか分かりませんが、がんばった人は今でも中堅で足場のしっかりした演技が期待できます。
その中で頭2つぐらい前に出たのがダニエル・ブリュール。彼はドイツではドイツ人俳優と思われていますが、スペイン人俳優でもあり、スペイン語(の1つ)を台詞として自由に話せるぐらいの能力を持っています。なのでスペイン映画にも出ており、最近は国際的な成功の兆しが見えています。ファンタでスペイン語で主演を張った事もあります。随分前から彼の作品は見ていますが、出世を焦っている様子が無く、当時撒いた種が今実をつけ始めた感じです。
ハリウッドで大成功した映画人と言えるのは映画1本全体の音楽を担当するハンス・ツィンマー。彼はすでに大物になったと言えるでしょう。依頼主がドイツ人かどうかはあまり考えず、入って来るいい仕事は大抵引き受けているようです。
さて、監督ですが、ドイツ人監督として外国でも一応知られているだろうと思われるのはウォルフガング・ペーターゼン(オランダに近い北ドイツ出身)、ローランド・エメリッヒ(働き者が密集する南ドイツの大都市出身)、ウーヴェ・ボル(フランスに近い中部ドイツの小さい町出身)、マーク・フォースター(バイエルン州であと少しで外国という南部出身)、トム・ティクヴァ(世界最古のモノレールで有名なフランスに近い中部ドイツ出身)など。成功組、ドグマ組、ラジー賞組など様々。
★ オリヴァー・ヒルシュビーゲル版伝記
そこに顔を出したのがオリヴァー・ヒルシュビーゲル。彼がハリウッドに知られるきっかけになっただろうと私が想像しているのは es[エス]。私も見たドイツ語版の作品です。この作品は突っ込み所満載ではありますが、とにかくドイツ国内以外でも話題になりました。
その後は話題作りに成功し、ヒトラー 最期の12日間、インベージョン、ダイアナと進んでいます。es[エス]はスターを使ってアメリカでリメイクされましたし、インベージョンでは二コール・キッドマン、ダイアナではナオミ・ワッツを使っていますので、世界に羽ばたいたと言えるでしょう(両作品とも評価は散々。ワッツはラジー賞、キッドマンは整形疑惑ばかりが報道されていました)。私は es[エス]とダイアナしか見ていないのでダイアナの感想は「何じゃ、これは!?」。両作品の落差に脱力。評判のいいヒトラー 最期の12日間を見ていないので、私の評価には偏りがあります。
見た2本だけを比べると、es[エス]では自分の好き嫌いは別にして、テーマに対する監督の意欲が感じられますし、このような事実を世間に知らせる事に意義があるのではと思います。ダイアナではへにゃっと曲がってしまいます。
★ 散々叩かれた作品
見てすぐの私の感想は有名どころの評価と一致していて、ラジー賞候補に挙がってもおかしくありません。実際ナオミ・ワッツは最低主演女優賞でハル・ベリー、リンジー・ローハンなどと張り合いました。
私がダメだと思った理由は、みなこけたから。伝記映画ならやれる《そっくりさんぶり》で勝負をかけているわけでもなく、政治的背景や陰謀論で掘り下げているわけでもなく、ダイアナ妃の功績をドラマチックに盛り上げているでもなく、ほぼ全体を上辺だけ、それも実に軽く、浅くかすっているだけだったためです。
★ 監督の考えはよそにあった? ― 超好意的な解釈
ちょっと時間を置いて考えてみて、それを超越した別な考えに至りました。
監督は元からタブロイド誌以下の、チープなロマンス仕立てにするつもりだったのかと思い当たったのです。皆さんもご存知のようにレディー・ダイは生前ヴォーグのレベルのゴージャスなファッション、髪型はいつもばっちり決まっており、化粧無しでもかなりの美人と思われるのに、女優も負けるような凄いメイク、普段着でもバレーで鍛えたすらっとした体型は見栄えがしました。
ナオミ・ワッツはその全てを2段階ぐらい落として、鬘かと思うような不細工な髪型、皺も見える薄いメイク。チャーム・ポイントの目は全然生きていない。これがレディー・ダイかと思えるようなチープな衣装。他にもチープさで突っ込める所は山ほどあります。
ストーリーの主文はパキスタン人心臓外科医とのロマンス。ちょうど有名な BBC のインタビューの直前。知人の病気がきっかけで外科医と知り合うあたりから始まり、数々の困難でこの恋がつぶれてしまうところで終わります。最後の所で彼女はエジプト系の恋人に乗り換えるのですが、そちらは恋愛としては描いておらず、新しい2人の関係が外科医の関係とはかなり違っていることを暗示する程度(史実では2人の男性とかなりの期間ダブって付き合っていたようですが、エジプト系の男性との関係は今一つ内容が分かりにくいです。恋人ではなく、2人の間で何かのメリットが一致したのではと私は事故死の頃思っていました)。その後有名なホテルを出るシーンが再現されるだけで、悲惨な事故はシーンとしては出て来ません。
彼女が暗殺されたと考えて、陰謀論を期待してダイアナを見ると、ものの見事に外れます。彼女が王室からのけ者にされたり、苛められたと信じてその視点を期待すると、その時期は終わった所から映画が始まるので、これまた外れます。
当時の彼女が付き合った2人が元植民地出身で、それが政治的にまずかったという視点を持っている人が見ると、所々でちらっと一言、二言脇役からその言葉を聞く事ができますが、深入りはしません。
彼女の孤独さ、大邸宅はあれど、子供には滅多に会えない、気楽な外出もままならないという点は何度か扱われていますが、こういう立場の女性だということを知っている観客には新味はありませんし、監督も現象としてかすっているだけ。この点はセットやキャストにこれ以上お金をかけずに描けるので、ここをもう少し突っ込めば、それなりに人に覚えられる作品に仕上がったと思いますが、なぜか監督はさらっとかわしています。
多少成功したかなと思えたのは、彼女のあまりにも浅い知識、超政治音痴、立場音痴ぶり。あの世代のあのような生活をしていた女性にしては国際政治や、外交に深い理解を示す元になる知識が大々的に欠けていたのだと納得はしました。それでいて国際政治を動かす原動力になっている部分にジャーナリストを引き連れて乗り込んで行ったわけですが、その辺のリスクについては本人にはあまり自覚が無いように描かれていますし、当時の報道を見ていた私にも「分かってんのかな」という疑問符が浮かびました。ああいう事をしてもほどほどにするという手があり、チャリティー・コンサートなどでガス抜きを手伝う有名人などは、処世術がうまいです。また、反何とか派には実は裏で敵のはずの人と繋がっている人もいるわけで、イーライ・ロスなどはそこまで見据えておちゃらか風にアレンジした作品を作っています。
彼女の精神のレベルは一般人と同じ。それも子供のレベル。私たちが親近感を持てるとしたらそこでしょう。かつて政治の中心を担っていた王族は、実質的な権力を失ってからすでに何世代が経っており、子供に政治教育をする家庭がどれほど残っているのか分かりませんし、もしいくらか残っていたとしても若い女の子にそこまで深く教える習慣は無かったのではと想像されます。となるといきなり政治の中心に飛び込んでしまい、お飾り人形でいることを周囲から期待され、それが離婚となった後、実に中途半端な立場に陥ってしまったわけです。
まだ子供っぽさを引きずり、王子様的な夢を持っていた若い女性が、戦術的に動けるわけも無く、両親が比較的早く離婚してしまい、寄宿舎生活も経験している女性が何か人のためになる事をやりたいともがいて、それが誰かの逆鱗に触れてしまった事に気づかないということはあり得ます。私は生前彼女がアメリカ国籍のある政治の大物と近づいている事を報道で知っていましたが、その時「この人自分で何やっているのか分かっているんだろうか」と思った事があります。彼女のやっているボランディアっぽい活動と対立しかねない人たちの間に入って写真を撮られていました。しかし映画ダイアナではそのあたりはパス。欧州式に言うナイーブさ(無知)を持ち合わせていて、自分で何をやっているのか分かっていない感じの人ですが、彼女の経歴を見ると「分かって行動しろ」と言うのも難しそうでした。せめてバットマンの執事のような物の分かった人がついていればもう少し思慮深い行動ができたのではと思います。
ちらっと戦術らしき事が見えたのはパパラッチやジャーナリストを自分の張りたいキャンペーンに利用したところですが、彼女の立場でああいうテーマのキャンペーンを張る事の危険度をどのぐらい自覚していたのかは疑問。監督はそこも現象を描写するだけで、特に深く突っ込んでいません。
まあ、とにかくどの方面の関心を持って見ても見事に期待が外れるのですが、見終わって暫くして、「待てよ、映画としては随分バランスが取れているじゃないか」と思いました。
★ 夢が実現?
本物のレディー・ダイは親戚か姻戚の作家のバーバラ・カートランドの小説が大好きで、熱中していた時期があります。カートランドは漫画の元ネタにできそうな甘く、チープな話をたくさん書いたそうです。私は1冊も読んだ事が無いのですが、100歳近くまで生き、700冊を超える本を書いたそうです。もしワッツと監督がこの路線を狙っていたとしたら、全てが1つのハーモニーで統一されていると言えるかも知れません。外科医の役を引き受けた俳優も顔を見ていると、どこまで本気なのか分からないですし、エジプト人新恋人は役らしい役を貰っておらず、イケメン風に立っていればいいわけです。唯一ちょっと俳優として目だったのはダイから電話を貰うパパラッツォ。
ワッツは俳優として演技力で勝負をしているようには見えないのですが、時々わざとらしさで勝負しているのではと思えるような演技をする時があります。もしかしてダイアナもその路線を狙ったのかと思いました。それも監督と合議制で。
だとしたらラジー賞もなんのその。見事にその路線を貫いています。共演者も上手く溶け込んでいますし、一般人が引いてしまうような難しい政治の話は無し。もし重心を《恋愛さえも良く理解できていない若い女性》が、《サッチャーのように上手に周囲の人を操縦できるような力を要求されていて、困り切っていた》、それを分かり易く浅く表現したかったのなら、成功作です。
それとも監督が各方面の期待を裏切るつもりでいて、あかんべーをしたかったのなら、大成功。
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