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USA 2015 100 Min. 劇映画
出演者
Logan Marshall-Green (Will - エデンの前夫)
Tammy Blanchard (Eden - ウィルの前妻)
Aiden Lovekamp (Ty - ウィルとエデンの息子、死亡)
Emayatzy Corinealdi (Kira - ウィルの現在のパートナー)
Michiel Huisman (David - エデンの現在の夫)
Mike Doyle (Tommy - ゲイの男性)
Jordi Vilasuso (Miguel - ゲイの男性)
Michelle Krusiec (Gina - 東アジア系の女性)
Jay Larson (Ben - コミカルな人物)
John Carroll Lynch (Pruitt - 慇懃無礼な男)
Lindsay Burdge (Sadie - ウィルと面識の無い女性)
Toby Huss (Dr. Joseph - )
Karl Yune (Choi - 韓国人男性)
Marieh Delfino (Claire - )
Trish Gates (Woman / Follower - )
Danielle Camastra (Annie - )
見た時期:2015年8月
★ 映画作りにお金はあまり要らない
大スペクタークル映画を作る監督もいますが、削れるものは全部削って地味な作り、それでいて抜群なストーリーを語る監督もいます。The Invitation はそういう作品です。類似の作品としては SF の Primer、Coherence、宗教ホラーのサクラメントなどの系統に入ります。
この3作は制作費をかなり切り詰めていて、Primer と Coherence はほとんど1ヶ所で撮影。出演者も少数。
しかしストーリーは謎に満ちていたり、先の見通しがつかなかったりで、観客は最後までしっかり見ていないとだめ。クサマは今回そういう作品にチャレンジしました。
★ ガールファイトの監督
日系の女性監督。父親が日本人で、母親がアメリカ人。私が最初に見た作品は監督としてデビュー作にあたるガールファイトで、この作品からミシェル・ロドリゲスが羽ばたいています。ガールファイトで示したスポーツの力に注目されたのか、ロドリゲスは次にワイルド・スピードの準主役に抜擢され、その後次々と名のある作品に出るようになります。本人はやや素行が悪く、警察に捕まったりしていますが、それでも名のある作品からオファーが来続けています。何と運のいい人でしょう。
クサマ監督2作目はややお金をかけた劇場版イーオン・フラックス。この時の主演はシャーリーズ・セロンで、撮影はベルリンやポツダム。その後テレビ・シリーズや短編を撮りますが、結構長い間劇場長編映画のチャンスが回って来ません。2009年にホラー映画を1本撮り、その次が今年の The Invitation です。今後も暫くテレビの仕事が入り、来年またケッチャムのホラー映画が1本入る予定です。
長い間一流のスターや監督は劇場映画、二流以下はテレビと思われる時代が続きました。映画は映画館、テレビは家でという時代はその傾向が強かったです。しかし近年劇場映画を DVD で見ることができたり、作品をダウンロードするなどメディアの質が変わり、また有料配信する会社のビジネスが確立されてからは、この傾向に変化が見られるようになりました。最近ではスターやいいスタッフがお金をかけたテレビ・シリーズに流れるようになりました。
以前はゴールデン・グローブのテレビ部門は付け足しのように思っていましたが、いつの日からか大スターの名前が出るようになり、最近は劇場映画の方がやや人手不足気味。夏のファンタの終わり頃、去年までファンタ開催館になっている映画館の従業員と偶然出くわしたら、その人も同じような事を言っていました。
ガールファイトは当時全く無名だったロドリゲスを主演に立て、非常に現実的はストーリーでしたが、その後は SF やホラーが続いています。ガールファイトはロドリゲスを有名にしただけでなく、監督の手堅い手法も評価されています。イーオン・フラックスなどは他の監督が撮っても似たような作品ができたと思いますが、ガールファイトには監督の意向が反映されているような印象を受けました。
★ 監督の最新作
The Invitation はホラー映画と言えますが、内容はサクラメントに近く、狼男、吸血鬼、ゾンビ、悪魔、キングコング、人造人間、人食いエレベーターのような非現実的な物は出て来ません。
サクラメントではメイン・テーマの宗教が冒頭から出て来ますが、The Invitation では後半まで伏せられています。徐々に観客にも見当がついて来ますが、最後はあっと驚く、背筋が寒くなるようなダメ押しラストです。
★ ある夜の招待状
話の枠になる人物は元夫婦だったウィルとエデン。2人は子供の死がきっかけで離婚し、2年ほど別々に生活していました。エデンは暫く姿を消し、その後新しい夫デビッドと、かつてウィルと息子と3人で暮らしていた家に戻って来ます。この夜の招待状はこの家から今は別な女性とよそで暮らしているウィルに届きました。
設定を短くまとめると、元カップルが別れ、それぞれ新しいパートナーを得、 元夫はよそへ引越し。現在元カップルが以前暮らしていた家に住む元妻から招待状が来たため、元夫は新しいガールフレンドと一緒に夕食に訪れます。
エデンとデビッドが1ダースほどの友人知人を夕食に招待。ウィルは2年前までここに住んでいたので、全員ではありませんが、エデンが招待した他の客とも多少顔見知り。そしてエデンは陽気で元気そうですが、かつてのエデンとは全く違っています。
招待にあまり乗り気でない様子のウィル。息子の死が祟ってか、まだやや欝気味。彼は久しぶりに足を踏み入れた元の我が家で、時々変な感じを持ちます。家の表のドアはなぜか鍵がかけられていて、外に出ようとすると必ず誰かがついて来ます。携帯電話はなぜかハリウッドの丘の上なのに受信不能。天気が悪いわけではありません。そして客の1人が姿を見せなくなります。
ウィルの感覚が息子の死、離婚などから立ち直っておらず、被害妄想的になっているのか、笑顔でホステス役を上手にこなすエデンとその友人たちが本当は怪しいのかが分からないまま社交的な会話が進んで行きます。時々妙だと感じはするものの、それなりに説明があるので、観客には誰の言っている事が本当なのか、また、皆が本当の事を言っていながら、言う側にも受け取る側にもそれぞれの事情があって、すっきり噛み合わないのかが分からなくなります。
★ 劇的な変化
社交的には完璧な笑みを浮かべるエデンですが、何かしら謎を秘めた印象。そうしているうちの夜がふけ、ワインを空けようという事になります。それまでに不信感を強めていたウィルは皆に「飲むな!」と言います。しかし時すでに遅く、韓国人女性が口に含んでしまい、ほぼ即死。
それを皮切りに、おかしなグループと、何も知らずにやって来たグループの間に命がけの争いが始まります。おかしなグループは皆ある宗教団体に入信していて、この日が人類滅亡の日と信じ込み、集団自殺を画策していました。何も知らずにやって来た人たちは巻き添いを食うわけです。
サクラメントが扱ったのは人民寺院事件を起こしたジェームス・ウォーレン・ジョーンズそっくりの話。The Invitation ではサクラメントのように団体の様子を詳しく表現していませんが、こういうタイプの団体に入信した人たちがエデンなどの人たちで、強制されずに最後の晩餐の後ワインを空けて、静かに死ぬ予定になっていました。
変な団体の信者ではない人たちは必死で戦い、かろうじて生き残ったのはウィルと2、3人の招待客。家の中は死体がごろごろ(元々この日死ぬつもりだった人たちは満足かもしれません)。やっと息をついてベランダに出てみると、たくさんの家に、エデンの家と同じようなランプが見え、火が灯っています(ぞ〜っとするシーン)。
エデンの家の騒動が収まり、電話が繋がらないので近所に救援を求めに行こうと思っても、近所中が同じ事をやっているのです。エデンの所のように巻き込まれた被害者が生き残る家もあるでしょうが、宗教団体側が勝っている家もあるかもしれず、そういう争いになっていない家もあるでしょうから、うかつに助けを求めに行くわけには行きません。背筋は温かくならず、そのまま映画は終わります。
★ 絶望した人をかき集める信仰宗教団体
これだけ科学が発達した現代になぜか新しい宗教が次々誕生した時期がありました。まじめな団体もある中、会員からお金を集めるだけが目的だったり、人心を惑わせて《この世の終わりパニック》を引き起こしたり、問題の多い団体もあります。最近はそれほど大きなブームではないようですが、日本にも似たような大事件が起きており、人間の弱さを改めて感じます。
多くの国には何かしらの宗教があり、長い間続いている宗派もあります。しかしその宗教は賞味期限が切れていると見なされているのか、時代に合わせた改革に失敗しているのか、変わる必要が無いのに時代に迎合しているのか、いずれにしろ近年クラシックな宗教は機能不全を起こしています。
諸悪の根源は不安定感。その根源は将来の見通しのつかない就職状況。皆に仕事があって結婚、出産などの計画が立てられれば人の心は安定し、変な宗教に救いを求めなくても済むのでしょう。ドイツにはそれほど新興宗教に夢中になる人はいませんが、リベラルな思想に魅せられた元若者はたくさんいました。思想自体は結構立派なのですが、本気で実行している人はおらず、《理想主義》という宗教的な迷路に迷い込んでしまった人が多かったです。女性解放運動もその1つですが、立派な考えを持っているはずの元気な活動家が、ドイツ語のスペルの中に大文字の I を書くかどうかで一年中論争をしている有様でした。
英語にはありませんが、ドイツ語には名詞に男性、女性、中性という区別があり、人物を指す言葉の場合、男性形は元からある言葉、例えば Professor (教授)などと言います。たまたまその教授が女性だと Professor から派生した Proffesorin となります。
ベースとなる言葉の最後に in をくっつければ出来上がり。これが通常のルールで、音楽家なら男性は Musiker、女性は Musikerin。
大昔は女性はほとんどが主婦で、家事以外の仕事をせず、職業人はほとんど男性だったので、男性形の名詞しかなかったのです。わずかながら伝統的にほとんど女性しか就かない職業には古来の名詞があり、逆にそれに相当する男性形が無いというケースもあります。
女性が徐々に男性がやっていた仕事にも就くようになると、この in でほとんどの男性形の名詞を女性形にして問題を解決していました。女性解放運動の活動家はそこに目をつけます。つまり、男性形から派生した言葉を使ったのでは職業女性が男性のお残りをいただくように見えると思ったのか、男性への依存のような印象を受けたのか、断固これに反対し始めます。
その結果 90年代は女性の地位を主張するために語中の女性を象徴する i の字を大文字にする運動が活発になりました。その結果 ProfessorIn と書くことになりました。この時期の主張はドイツ語の文法に大混乱を招き、結局馬鹿馬鹿しくなって話に乗らない人が大多数になり、定着しませんでした。しかし女性活動家はこの問題のために多大な時間とエネルギーを費やし、全教授の中の女性の割合の低さにはほとんど関心を示さなかったのです。
私はよくこういった運動家に出くわし、話しかけられることも多かったですが、 言語の傾向として、ある事柄が既成事実になり、一般に広がると、言語はいつの間にかそれに合わせるようになる、言葉の変化はいつも事実の変化より遅れるものだと思っていたので、「女性がもっとたくさん職場に進出すれば言葉は自然に変わると思うから、今無理してスペルを変えるのは面倒だ」と言いました。するとそれまで元気の良かった女性がなぜかしゅんとしてしまい、その後は話しかけて来なくなりました。私は嫌われてしまったようです。
新興宗教がはびこらなかった点ではドイツは運が良かったですが、代わりにこの種の理想主義の迷路に入ってしまう人は多く、ある人は女性解放運動、ある人は自然環境保護運動、ある人は人権派へとのめりこんで行きました。新興宗教に比べ、こういった方向は何かしら人の役に立つのでましだとは思いますが、何かのグループを作ると多くの場合ドグマ派(原理主義、理想主義的な傾向)とプラグマチック派(現実派、実践派)に分かれ、両者の間で延々議論が続いたり、分派騒動になったりし、結局エネルギーがそちらの方に費やされてしまうことが多かったです。
暫く、「これは何だろう」と考えていましたが、私なりの結論は、1人で勉強をしたり、働いたりし、孤独で不安な人が宗教や運動に引っかかってしまうのかも知れない、本人は自分の抱える孤独感や不安感に気づいていないのかも知れないというものでした。これがいつも正しいとは限りませんが、何パーセントかは当たっているのかなと思います。
話を元に戻しますが、クサマの作品はいくつかの怖さをうまく扱っていました。
まずは子供を亡くし2年も経ってもまだ精神的に立ち直っていないウィル。俳優の演技は控えめでとてもよかったです。子供を亡くすということが妻との離婚につながり、新しい恋人を得ても傷はまだ癒えていないというところが良く表現されていました。
問題がまだ解決しておらず、苦しみと一緒に生きているのがウィルだとすると、同じ原因で苦しみを味わった元妻のエデンは全く別な解決法を選びました。どうしても苦しみから逃れたくて、宗教に入信。入った先は似たように何かしら問題を抱えた人の集団で、どうやらそれぞれの苦しみから気をそらすような方向を目指しているようです。
この種の問題を考える時私はいつも不思議に思います。私の祖父母はそれぞれ子供を1人亡くしています。当時は栄養状態も今ほど良くなく、医学も今ほど発達していなかったので、どの夫婦も1人ぐらい死ぬだろうと予想しており、大抵の家族が最低でも3人から4人子供を作っています。大学の友達にも数人兄妹がいる人がいました。
特に生後3ヶ月が勝負だったようで、そこで生き残れない子供が多かったようです。そうやって子供を失った夫婦は、めげることなく、葬式をあげ、次の年に新しい子供を作ろうというスタンスでした。
現代の欧米や最近の日本では一般的にはウィルとエデンのようなことになるか、2人一緒に悲しみながら暮らし、「次の子供を」という風にあまり行かないのが特徴かとも思われます。
次に怖いのは、結構とんでもない事をした人でもこの種の宗教に入ってしまうと中で容認され、自分がどんな事をしたのかの自覚がぼけてしまう点です。その人物を入信させるために耳障りのいい事を言うのでしょうか。
そしてアブラハムの宗教のハルマゲドンを信じている人がいて、もし思ったような破滅が来ないなら、自分で破滅させようなどと良からぬ事を考える人がいることです。世の中にはアブラハムの3宗教以外の人もたくさんいるので、勝手に世界を破滅させてもらっては困るのですが。
一万歩譲って万が一にも破滅が来るとしても、だからと言って先に毒ワインを飲んで心中せず、破滅の後がどうなるかぐらいは見守ってもいいのではないでしょうか。でも The Invitation の人たちは毒杯を交わす予定でしたし、ジョーンズも毒を強制しました。そりゃハルマゲドンなど来ないのですから、皆に待っていられると困るのです。
そして The Invitation では扱っていませんが、この種の宗教の教祖には往々にして詐欺師がいて、信者から金を集めて、最後トンズラしてしまう人もいるのですよ。気をつけましょうね。
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