URAtop厨房裏地下食料庫

illumination

 jaune
vert
blanc
rouge
bleu

 
 

 

イルミナシオン
illumanation
 

jaune


 

1
 
 
 
 
 
 

波の音が聞こえる。
寄せては返す、静かな波。
深い海の底には求めるものが眠っている。
かすかな記憶と、夢。
忘れ得ぬ夢。
 
 
 
 

「どうした、考え事か?」
ここはレインベースの豪邸。
国の英雄クロコダイルは社長でもあり、
民の信頼を集めている。
ここはクロコダイルの私室。
豪華な大理石張りの床。
手のかかった絨毯や、調度品の数々。

時刻は11時を回っている。
一日の仕事を終え、
プライベートでくつろぐ時間だ。

「なんでもありません、サー」
黒いスーツに黒縁メガネの秘書が、
書類を机の上に置いた。

「Mr.プリンス。
今日の公務は終わりだ」
クロコダイルは豪華なソファにその立派な体躯をあずけていた。

「ワインをお持ちします」
「赤がいい」
尊大な口調で命令をくだす。
最高級の赤ワインがグラスに注がれる。
クロコダイルはワインでなく、酒を注ぐ秘書に目を止めていた。

秘書は黙って立ってクロコダイルの指示を待っている。
クロコダイルは思いついた言葉を言いかけて、
止めた。

洗練されてないことは嫌いだ。
下品なことも軽蔑に値する。

黒い服に隠された体。
メガネの下の瞳。
幾度となく手にし、
暴いているのに、
また奇妙な情動にとらわれる。

はじめは純粋に秘書。
能力に間違いはない。
指示も的確に守るし、
対処も速い。
なかなか有能な男だ。

今はそれだけではない。
昼間は秘書。
だが任せている仕事はそう多くない。

いつの間にか、
もう一つの仕事をこの男に求めているからだ。

クロコダイルは好みがうるさい。
だから娼館も経営しているが、
気にいらない相手は歯牙にもかけない。
それでも何人か気に入りの男や女がいた。
好みはうるさいが、
快楽には忠実だ。
以前は、毎日、自分の娼館に足を向けていた。
それが最近はさっぱり出向かなくなった。

原因は目の前にある。
スーツを着て、仕事をしている時と、
腕に抱く時と、
別人のような顔を見せる秘書。
本名は知らぬ。
素性も定かでない。
バロックワークスの者は皆、そうだ。
「Mr.プリンス」とつけたのはクロコダイルだ。
他の名にしておいた方がよかったか?
らしくないことを思いつき苦笑する。
 
 
 
 

「片付けたら、寝室に来なさい」
「イエス、サー」
表情の読めないメガネの下で秘書は答えた。

毎夜、交わされる会話。
甘えをみせないその態度は悪くねえ。
こいつはオレの指図通りの事をする。
だが、決してオレの手の中にも収まらない。
なぜだかチリチリとした焦燥感がする。
 
 
 
 
 
 
 
 
 



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