■ 変 奇 館 訪 問 記 ■

| Page.1 | Page.2 | Page.3 | Page.4 | Page.5 | Page.6 |



 1.

「男性自身」の愛読者であれば、一度は山口瞳氏の家の間取りを
頭に描かなかった者はいないだろう。
そして美邸でも豪邸でもなく奇邸だと言われた
「変奇館」がどんな形状の家なのかと興味を持たなかった者もまた
いないであろう。

この「家」を建てるときに山口瞳氏が設計家に注文をしたのは
体育館のような家にしてくれというものだった。
それでいて土地は60坪余だという。
カラカッテいるのではない。
密かに師と仰ぐ山口瞳氏にそんな感情を持ったことはない。
ただ頭が混乱しただけである。

一体どんな家なのだろう。長い間の疑問であり、
是非一度見てみたいと思っていた。
家の構造も、半地下があり中二階があり、ある所は二層であり、
ある部分は五層になっているという。
理科的な思考ができない典型的な文系頭脳は混迷する一方であった。
加えて雑木林の庭である。その庭にはお地蔵さんが鎮座しており、
関敏氏が彫った石の道標「是より甲州」もあるという。
鯉が泳いでいる水槽もあり、水槽の前には石垣がある。
「男性自身」から情報が増えるほど
「変奇館」に対する好奇心は募り、疑問点は増える一方であった。

これは是非一度見学ツアーを組まねばならないと決心し、機会を待った。

初めて国立を訪れたのは、金曜まで出張があり、
もう一泊したら念願のツアーが組めるという時であった。
散々捜したが、結局「変奇館」を見つけることはできなかった。
住所を間違えて覚えていたのが原因だった。
探し回っていたときに、キャットフィッシュを先に見つけ、
歩き疲れてもいたので、コーヒーを飲んだ。
マスターに訊けば教えてもらえるとは思ったが、
どうしても訊ねることができなかった。
ミーハーと思われたくない、という変な自意識が働いたのだ。
カウンターに座ってコーヒーを黙然と飲んだ。コーヒーは美味しかった。

カウンターには店名の鯰の木彫りが置いてあった。
きっと関頑亭氏の作品だろう。
それすらも確認しないまま店を出て帰ってきた。
山口瞳氏はキャットフィッシュを自分の応接間として使っている、
と書いているので、すぐそばまで行ったのに発見できなかった、と口惜しかった。
                               


next--->>>  


<<back>>