「N」

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説明

  この小説は、主人公・聖剣の勇者:アンジェラ(グランデヴィナ)
        二人目:ホークアイ(ナイトブレード)
        三人目:デュラン(パラディン) という設定です。
  もっとも、ゲーム終了後の話だから、あまり意味は無いけどね。
  魔法は使えないけど、必殺技・一部の特殊攻撃は使えるようになっています。
  フラミー&ブースカブーも存在し、笛と太鼓はアンジェラが所持しています。
  
  登場人物の性格は、作者が「コイツはこういう性格だ!!」と勝手に決めつけてしまったもので
  ゲーム上とは全く性格が異なるキャラもいます。ご了承下さい。

 

 宝石のような結晶の実った木々が輝いている。
魔導師のようなローブをまとった人々が雪のほんのり積もった街を歩いていた。
しかし、心なしか彼らの表情は重く、暗い。
そう、そこは極北の王国、アルテナであった。
 マナの樹が失われ、マナの力が無くなった事により理の女王の魔力も消え、温暖な気候を
保てなくなってしまったアルテナでは、理の女王やアンジェラ王女たちがなんとかマナの力無しで
寒さをしのぐ方法を探している。しかし、今のところそれは見つかっていない。
 
 そんなある日の事。
「もう、なんで私がこんなところを探さなきゃいけないのよぉ! 埃っぽいったらありゃしない!!」
城の地下倉庫に黄色い声が響き渡っていた。
理の女王から掃除を兼ねた地下倉庫の探索を命じられたアンジェラ王女である。
だが、彼女がまともに掃除をすることなどありえない。そこで面白そうな古書を見つけるや否や、
彼女は掃除などそっちのけでそれを読み始めてしまったのだ。
 どうやら、理の女王の20年前の日記らしい。
「なによ、お母様ったらいっちょ前に恋なんかしちゃって」
その日記には、理の女王が20年前にした恋の様子が描かれていた。
そして、相手との間に子供を妊娠した事も……
「その子って…私…?」
20年前といったら、丁度アンジェラが生まれた時だ。
「ということは、相手は…お父様……」
 アンジェラには、父親がいない。
子供の頃、それは大きな謎だった。仕事に忙しい母には言い出せず、乳母達に聞いても
まともな答えは返ってこなかった。
(もしかしたら、私はお母様の子ではないのかもしれない)
そう思ったことさえあった。
いや、もしかしたら今も心の奥底でそう思っているのかもしれない。
 そんな事を考えながら、アンジェラは日記を読み進めていった。
子供…アンジェラの事を相手に言い出せないまま悩む日々が綴られている。
それでも、女王…いや、ヴァルダという女性は相手を愛し、相手もヴァルダを愛していたようだ。
そして、最後の日記を読み終えようとしたとき、ある文字が彼女の目を止めた。

『○月×日 朝から具合が悪く、食べ物を戻したりしてしまった。
 医者に診てもらったところ、つわりと言われた。
 Aに次ぐ、二人目の子供…Rの子供。
 また私はこの子の事を彼に言い出せないのだろうか。
 私はアルテナの王女。彼との間には見えない壁があるのはわかっている。
 でも、私はRを愛している。どうしてAとこの子のことを知らせ、結ばれてはならないのか。
 母上は、いまだにAのことすら他国に…Rの国に知らせていない。
 このことを少しありがたく思っている自分がイヤだ』

二人目の子供。
(私の…兄弟…? 私、一人っ子じゃなかったの?? なら、この子は……???)
疑問符を頭の中に浮かべたまま、アンジェラの指はページをめくってゆく。
日記によるとお腹の中の子は順調に成長していき、無事生まれたらしい。
男の子だった。名前のイニシャルはN。
「私に、弟が…?」
アンジェラは思わず呟いていた。
信じられなかった。なぜなら、自分には弟などいないはずだからだ。
ずっと一人だった。唯一の肉親である母も、女王という立場上からか、
幼い自分と一緒に遊んでくれたことはほとんど無い。
もし弟がいたのなら、自分はこんなひねくれた性格にはなっていなかっただろう。
(でも、だとしたらこの日記は何なの? これは間違い無くお母様の字だし、私が生まれたときのことも、
 乳母に聞いた限りの話と一致しているわ。でも、弟なんか私にはいない。もし子供のときに
 死んでしまったのだとしたらお墓があるはずだもの。それに、お母様や乳母たちだって、
 弟のことなんか一言も私の前で口にした事も無い…)
そして、アンジェラは最後の日記の最後のページを開いた。

『△月◎日 私に縁談が舞い込んできた。相手は重臣の一人息子で、母上はもう私の相手に
 決めてしまっている。とんでもない話だ。
 私は決心した。AとNを連れて、F国に行こう。Rに、全てを話そう。
 身分やお互いの周囲の事情なんかかまうものか。私は、Rを愛している。
 明日の早朝、こっそり城を抜け出そう。F国へ、Rの国へ…』
 
「F国…フォルセナ…そこに、私のお父様が…?」
お父様とお母様は身分の差から結ばれる事は無かったのだろう。でも、二人の愛の結晶…私はここにいる。
なら、Nは…弟は、お父様のところにいる??  
「…会いたい…お父様と弟に…」 

「王女様〜! 理の女王様がお呼びです〜!!」
ヴィクターが地下倉庫へ降りた時、そこには誰の姿も無く、
ただ、古ぼけた日記帳だけがぽつんと開かれたまま置かれていた。

「勝手に抜け出てごめんなさいねお母様。でも、私会いたいの。お父様と、弟に…」
かすかな声の後、澄んだ笛の音が砂浜から海へと流れていった。

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