世界からマナの力が失われてから数ヶ月後。
フォルセナ国王リチャードと、アルテナ女王ヴァルダがかつて恋人同士だった事、
アルテナ王女アンジェラはリチャード王の娘でもあったことが発覚し、全世界を騒がせた。
そしてそれからさらに数ヶ月後、フォルセナ国王リチャードとアルテナ女王ヴァルダの婚姻が
正式に決定・発表された。どうやら20年ぶりの再会を機に、昔の感情がよみがえったらしい。
「いつまでもあなたを私生児にしておけないですしね」
娘から理由を尋ねられた女王は恥ずかしそうに笑いながら答えたという。
そして、今日はフォルセナ・アルテナ両国上げての二人の結婚式……
「アンジェラのヤツ、遅ぇな…」
珍しく正装をしたデュランが光の神殿の前をぶらついていた。
どうやらアンジェラと待ち合わせをしているらしい。
「お、デュランじゃないか!!」
「あ!!」
デュランの方に、一人の長髪の青年が駆け寄っていった。
「ホークアイ! 久しぶりだな!!」
デュランの表情が晴れ渡る。
「ホントに久しぶりだな。あれからもうどれくらい経ったんだ?」
「それほど経ってないはずなのに、オマエとはもう何年も会ってなかったような気がするぜ」
「ふ〜ん…ということはアンジェラとはちょくちょく会ってたのかな? おアツイねぇ」
「!!!」
戦友の言葉に、またもデュランの顔が熟れたトマトになった。
「あらっ!! ホークアイ来てくれたんだ!!」
さらに門の方から、立派なドレスを纏ったアンジェラが走ってきた。
「アンジェラ!!」
「!!!」
「エヘヘ、綺麗でしょ?」
アンジェラがドレスのすそをつまんで笑いながらお辞儀をした。
「………ねぇ」
「え?」
デュランがアンジェラのドレスをちらっと見た後、彼女の顔を見つめながら言い放った。
「似合わねぇ」
「――――――――――――!!!!」
アンジェラの顔がかぁーっと茹で上がる。
「ドレスが綺麗でも、中身がイケてねぇな」
「なんですってデュランーーーっ!!!」
アンジェラがデュランにつかみかかろうとする。
「アンジェラ! ふざけるのもいいかげんになさい!!」
「!! そうでした、お母様…」
理の女王の叱咤にアンジェラがしょぼんとなる。
「ハハ、いいではないかヴァルダ。元気なのはいいことだ」
英雄王が笑って女王を諭す。
「国王陛下!!」
デュランが慌ててかしこまる。
「デュラン、お前も娘をからかうのはほどほどにな」
「!! ……申し訳ありません…」
(……そういえば、そうだったんだっけ…)
そんな彼らの様子を見ながら、ホークアイは今日が何の日であったかを思い出した。
(でも、なんでオレなんかが呼ばれたんだ?)
「ホークアイ」
英雄王がそんなホークアイの名を小声で呼んだ。
「は、はい?」
「実は、頼みたい事があるのだが……」
ウェンデルの光の神殿は、全世界から集まった人々でごった返していた。
そんな中式は順調に進んでいき、集まった人々は幸せそうな新郎・新婦の姿に世界の平和を感じていた。
そして、聖都ウェンデル上げてのお祭りへとなだれ込んだ。
「は〜あ、どうもこういうのは苦手だぜ…全く、英雄王さんも女王さんも素直じゃねぇんだから」
そう一人愚痴りながら、ホークアイは式場を駆け回っていた。
「あ、あああああああああっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
突然彼の背後から大声が飛ぶ。
「!?」
思わず後ろを振り返ったホークアイに、一人の少女が飛びついた。
「ホークアイじゃないですかっ!!!! お久しぶりですっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!」
「君は…リ、リース!?!?」
そう、その少女はローラント国王女リースだったのだ。
「あのときは我が祖国ローラント奪還を手伝ってくださって本当にありがとうございましたっ!!!
あぁ、またあなたと出逢えるなんて、夢みたいですっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「…そ、そうか…それはよかったな……」
突然のことにホークアイは完全に戸惑っている。
「それよりそれより、今お一人ですか?」
「えっ? …まぁ、一人だけど……」
「ホントですかっ!!!!!! よかったですっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
そう言うや否や、リースはホークアイの腕を強く掴んで引きずりはじめた。
「!?!? な、何を!?!?!?!?」
「ダンスのパートナーを探していたんです。一緒に踊って頂けますよね?」
「へ??? い、いや…オレ、用事があるんだけど…」
ホークアイは必死にリースを振りほどこうとするが、彼女に力でかなうはずが無い。
「ほら、早くしないと曲が終わってしまいますわ!!!」
「だから、オレにはやらなきゃいけないことがあるんだってば……」
しかし、だんだんホークアイはダンス会場へと引きずられていく。
そんなとき。
ぴゅうっ!!
突然どこからかダーツが飛んできて、リースの腕に命中した。
「あっ!!」
思わずリースがホークアイを離す。
「ホークアイ!!!」
そのスキに、一人の少女が物陰から走り出てきて、ホークアイをリースから奪い取った。
「ジェシカ!?!?」
「大変だったわねホークアイ。でももう大丈夫よ、私が守ってあげるから!!!」
しかし、そのホークアイを再びリースが奪い返す。
「私のホークから離れなさい!! この下賎の者!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「何よ!! あなたこそ、私のホークに何てことするのよぉっ!!!!!!!!!!!!!」
リースとジェシカはホークアイの取り合いをしながら取っ組み合いの大喧嘩を始めてしまった。
「おっ、おっ、おい…リースもジェシカもこんなところでケンカなんかよせよ…」
はじめはただただ困惑していたホークアイだったが、ケンカがひどくなるにつれ、
何故か少しずつ無表情になっていった。
「…………」
ぷつんっ
「!?」「!?」
がぁんっ!!!!!!!
不意に嫌な予感を感じホークアイを振りかえったリースとジェシカを、巨大なスパナが襲う。
「人の言う事はちゃんと聞きましょうね、お嬢様方♪」
折り重なるように床へ倒れこむリースとジェシカの後ろで、
ホークアイがにこやかに笑いながらスパナをもてあそんでいた。
「さて、とっとと用件を済ませるか」
頭上に星をくるくる回しているリースたちをそのままに、ホークアイはもといた方へと歩き出した。
(そうだ、せっかくだからもっと面白くしてやれ)
そのころ、デュランとアンジェラはダンス会場で踊っていた。
しかしデュランの不器用さが災いし、二人は何度もバランスを崩しては他のペアにぶつかってしまう。
「もう、アンタをパートナーに選んだ私が間違いだったわ!!」
何度もデュランに踏みつけれられ、土だらけになった靴を見せながらアンジェラが怒鳴る。
「…だってしかたねぇじゃねぇかよ、俺ダンスなんかロクにしたことねぇんだぜ?」
今回は全面的に悪いと思っているのか、デュランが珍しく下手に出ている。
「全く…今回は主役じゃないから良かったものの、これが本番だったら私大ハジかいてるとこだったわ」
そう呟くと、アンジェラはデュランの手を半ば強引に引き、会場の外へと連れ出した。
「アンジェラ???」
人気のないところまでくると、アンジェラはデュランを振りかえった。
「手取り足取り教えたげるから、ちゃんと覚えてね」
ウェンデルの商店街にテーブルが置かれ、山のような料理が並べられていた。
フォルセナ・アルテナ両国の名シェフが腕を振るったものだ。
「これ、昔よくごちそうになったわね」
理の女王がフォルセナの家庭料理を皿に取りながら英雄王に語り掛けている。
「お前が宮廷の料理よりこのような庶民の料理の方が好きだと知ったときは少し驚いたがな」
英雄王も妻と同じ料理を取る。
「でも、ここまで大勢の人から祝福してもらえるなんて思わなかった………………ねぇ、リチャード」
「なんだ?」
女王が少し不安そうな顔をする。
「勝手にあんなことして、嫌われないかしら?」
「ハハハ、そんなことが心配なのか。大丈夫だ、彼が上手くやってくれるだろう」
英雄王は料理を一口口に運ぶと、妻に笑いかけた。
「それに、そろそろアイツにも年貢を納めてもらわんとな」
「…フフッ、それにあの子にもね」
やがて日がすっかり沈み、お祭りは最高潮に達した。
そんな中、ウェンデルの神官に抱き上げてもらって料理を皿に盛っている一人の少女がいた。
「ちがいまち!! もっとみぎみぎ!!!」
「えぇ!? シャルロット、それもうお皿に取ってないかい?」
「…あ、まちがえまちた。ひだりでちた」
「…はぁ……」
ウェンデルの光の司祭の孫娘シャルロットと神官ヒースである。
「ん?」
シャルロットが自分の目の前に並んでいる料理に目を止めた。
「なんか、このおりょーり、うごいてまちぇんか?」
そうシャルロットが呟いた時だった。
ガタンッ!!
突然彼女の側のテーブルがひっくり返り、下からなんと獣人が一匹飛び出してきたのだ。
「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!!」
あまりの出来事に思わず大声を上げ、抱きかかえられたまま手足をばたつかせるシャルロット。
「シャ、シャルロット!!!」
「に、ににににににげるでちヒースっ!!!!!!!!!!!!!!!!」
「う、うん、わかった!!!」
腕の中で暴れるシャルロットを抱きかかえたまま、ヒースはその場から逃げ出した。
「まてぇ〜〜〜〜くっちまうぞぉ〜〜〜〜…………」
獣人はどこかやる気のなさそうな声でそう叫んだ後、逃げるシャルロット達を追いかけていった。
「…………」
側にいた人達はしばらく唖然としていたが、突然一人の青年が何かを思い出したように叫んだ。
「ま、魔物だぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!」
「魔物だって!? なんだってこんなところに!?!?」
叫び声を聞いたデュランとアンジェラは思わず顔を見合わせた。
「今のはヴィクターの声よ!! 行きましょう!!!」
二人は先ほどシャルロットが大声を上げた場所までやってきた。
「ひ、姫様!!!」
「ヴィクター! 何があったの、魔物はどこに!?」
アンジェラがひっくりかえったテーブルの側に腰をついているヴィクターに問い詰める。
「魔物なら、さっき、ウェンデルの神官と小さな女の子を追って、あっちの方に……」
がたがた震えながらヴィクターは街の外の方を指差した。
「滝の洞窟の方ね…いそいで助けないと!!」
「お、おい待てよ! 俺武器なんにも持ってねえぞ!!」
「あそこの魔物だったら、アンタなら素手で充分倒せるでしょう!!」
とまどうデュランを強引に引っ張りながら、アンジェラは滝の洞窟の方へ走り出した。
「…お幸せに、姫様……」
その後ろ姿を見守りながら、ヴィクターが小さく呟いた。
突然の魔物の出現に、ウェンデル中が大騒ぎになった。
「では、現れたのは確かに獣人だったと申すのじゃな?」
「は、はい……」
目撃者の話を聞いた光の司祭は、しっかりと腕組みをして考え込んでいた。
「しかし、なぜこんな時に獣人なぞがここに現れたのじゃ? 風の噂では、ビーストキングダムの
獣人王はもう人間界へ侵攻するつもりはないそうじゃと……」
「司祭様」
そんな時、祭壇に一人の青年が現れ、司祭に近づいていく。
「おお、おぬしはあの時の。で、ワシに何か用かの? それとも、例の獣人出現のことかね?」
「その両方なんですが……」
青年の表情は、どことなく恥ずかしそうだった。
そのころ、デュランとアンジェラは、魔物を追って滝の洞窟を進んでいた。
「くそぉ〜、どこにいやがるんだよ魔物とやらは!! 例の神官と女の子は無事なのか!?」
まとわりつくラビを蹴飛ばしながら、デュランが愚痴る。
「そんなの、私に分かるワケないでしょ!! もう、ヴィクターにどんな魔物だったか
聞いてくりゃ良かったわ!! あぁ、それにしてもうざったいわねこのラビ!!!」
アンジェラも負けじとラビのしっぽをずんずんふんずけている。
「このままじゃアストリアへ抜けちまうぜ?」
分かれ道を眺めながらデュランが呟いたときだった。
「アォォォォォォォォーーーーン!!!!!」
分かれ道の片方から、狼のような遠吠えが響いてきた。
「!! 今のは、まさか…」
アンジェラが分かれ道の先を凝視する。しかし、そこは完全な闇で何も見えない。
「ビーストキングダムの獣人か!? こんなところになんでいるんだ??」
「とにかく、神官と女の子が心配だわ。いきましょう!!」
「お、おい待てアンジェラ!! まさか、素手で獣人とやりあう気か!?」
デュランの制止を聞かず、アンジェラは洞窟の奥の闇へと駆けていった。
「どこなの、獣人!!!」
行き止まりに突き当たったアンジェラの前に、まるで眠っているように倒れている少女…シャルロットと、
今にも力尽きて倒れそうな若いウェンデルの神官、そして彼らにとどめをさそうとしている
一匹の獣人の姿が飛び込んできた。
「待ちなさい、獣人!!」
アンジェラの声に、獣人はゆっくりと振り向いた。
「うう……き、来たな……アンジェラ王女とやら……」
獣人の言葉はどこか力無かった。
「なに、私におびえてんの? 弱虫な獣人ね。
今なら許したげるから、その子達を放してさっさとここから出ていきなさい!!!」
対照的に、アンジェラの声は強気になっていた。
しかし。
「ううぅっ…こ、これでもくらえ!!」
獣人がなにかをアンジェラに向けて投げつけた。
ぶわっ!!
「!!??」
それは彼女の目の前ではじけると、中から桃色の花びらが無数に広がっていった。
それと同時に、アンジェラは急激に意識が薄れていくのを感じていた。
「こ…これは……マイコニドの…ひ……」
「アンジェラ!!」
アンジェラが倒れるのと、デュランが彼女のところに走ってきたのはほとんど同時だった。
「うっ!?」
デュランもマイコニドの瞳の効力に屈し、深い眠りの世界へと落ちていった。