意外と知られていないAMラジオ放送の周波数特性(Feb 6〜. 2010)

 R-390AのIF帯域を最大(16KHz)にして中波AM放送(電波形式:A3E)を聞くと、Hi-Fiと言うより周波数特性がHi上がりである事に気付く。そしてLMF-501T(IC)によるストレートAMラジオで聴いても同様な傾向を感じる。
 しかし、小型のトランジスタやICのスーパーラジオはその限りではない。スーパーなら当然IF回路の周波数特性が違うだろうから当たり前なのだが、それにしても小型ラジオには高域のエネルギーを感じない。
 そこで、AFのFFTアナライザを取り出し、巷に存在するラジオ(受信機)が出力するプログラムの周波数成分が、如何ほどのモノかを調べることにした。
 測定データは精度を上げるために、各ラジオで同一のプログラムを受信しSoundEngineでWAVファイルでデジタル収録、それをFFTアナライザWaveSpectra(Ver1.2)で見る方式をとった。測定PCはPentium4/3.2GHz、メモリ1GB、IDT High Definition Audio(CODEC)で統一。
 プログラムはラジオ第1放送の「ラジオ体操テーマ」と「ラジオ体操の歌」とし、これを連続再生(SoundEngineで編集)しその間のスペクトラムをFFTでピーク蓄積表示する事にした。
 写真は現用のR-390Aと51S-1。  R-390AはIF選択度切り替えが豊富で(16/8/4/2/1/0.1KHz)、16KHzで聴くAMラジオ放送はまさにHi-Fi感覚で、スタジオレベルの音が楽しめる!と言ったら言い過ぎだろうか。


被測定受信機(ラジオ)とモード等の条件は以下の通りである。
○チューニングは搬送波をIFの中心に置いた(キャリアセンター)。
○AGCは搬送波により動作している。
○受信機出力はサウンドカードのLINE入力(Hi-Z)で終端。
○ソースは「ラジオ体操テーマ」と「ラジオ体操の歌」をデジタル収録編集し連続再生。
○FFT波形をクリックすると「ラジオ体操テーマ」他をMP3で聴くことができる。

以下は各受信機(ラジオ)出力を、フリーソフト「ウェーブ・スペクトラ」でピーク値を蓄積表示させたもの。
○変調内容は7.5KHz以上は下降特性になっている(方向局により異なる)。
○7.5KHzに至る部分の波形に各受信機で特徴が出ている。
○これ程違うとプログラム制作者側の思いは何処かに消えてしまうような気がしてくる。
R-390A(AM/16KHz)は、他が4〜7.5KHzにかけて下降特性であるのに対してぎりぎりまで伸びている。変調プログラムが7.5KHzで下降特性になっても、IF帯域は16KHz/2=8KHz程度まで伸びていると思われる。10KHz以上の信号の原因は不明。このためR-390A(AM/16KHz)では聴感上複数のノイズが聞こえ、プリエンファシス特性も加味されHi上がりのシャキシャキ音になる。
○IC-756は、程よくまとめられている印象。
○Cougar2200は、高域が全く伸びず低域が強調された音、これは経年変化か?。
○RXD-SG3MDは低域がやけに強調され高域の伸びも少ない、これは経年変化か?。
○SX240Vは、ポケットラジオで元々イヤホン受信用、程ほどのまとまりか?。
TRA-3755(AM)は軍用のSSBトランシーバ。300H以下は下降特性、3.2KHz以上はカットされているがコーデックのノイズ?が見える。またTRA-3755(AM)のAGCは搬送波検出ではない模様で明瞭度はあるが独特なサウンドとなっている。
LMF-501Tはストレートラジオの特性が良く出ている。ストレートだがLMF-501TはAGCを内臓する。出力の側のLPF用Cの容量を軽減すればf特はさらに伸びると思われる。
R-21は1960年台初頭の神戸工業(Ten)の製造の真空管式カーラジオで初代トヨペットクラウンに搭載。AF増幅管のプレートからC経由でAFを取り出した。
○51S-1は、元々通信用なのでIF帯域は広く取っていないがVoiceの明瞭度は非常に良い。
○TU-X1は、さすがHi-Fiステレオコンポーネント、同期検波も相まって高域の伸びも素晴らしい、ただ低域の膨らみがやや気になる。
Germanium Radioはストレートラジオの原点。この実験のために試作したが、最も自然な復調をしていると思われる。
Radil Radio(らじる★らじる)を追記した(2011.10.15)。いわゆるインターネットラジオで、通常の伝送ルートや放送設備そしてラジオ受信機を通っていない。10KHz以上にもレスポンスがあり、恐らくこれが放送局のスタジオに一番近い音と思われる。ラジオ受信機では高域がドンシャリ傾向があり、放送機側でかけられたプリエンファシスの大きさが分る。
Watkins Johnson HF-1000Aを追記した。AMモードでIF_BW=8KHz。IF_BW特性がはっきり見え8KHz/2=4KHzからスパンと落ちデジタル機らしい。またアマチュア機に見られるような丸みが感じられない。高域にあるノイズはデジタル系からの飛び込みか?。(2011.11.19)。

@R-390A/URR(AM/16KHz)…JOPK

Bicom/IC-756(AM/15KHz)…JOFG

DPanasonic/クーガ2200(AM/Wide)…JOFG

FSONT/ICF-SX240VR(AM)…JOFG

HHandMade/LMF-501Tストレート…JOPK

JCollins/51S-1B(AM)・・・JOPB(テーマのみ)

LGermanium Radio・・・JOFG

NHF-1000A・・・JOPB

AR-390A/URR(AM/8KHz)…JOPK

Cicom/IC-756(AM/9KHz)…JOFG

EKenwood/RXD-SG3MDミニコンポ(AM)…JOFG

GRacal/TRA-3755(AM)…JOFG

ITEN/R-21・・・JOFG

KSansui/TU-X1(AM)・・・JOAC(テーマのみcooltune氏録音)

MRadil Radil・・・NHK Internet Radio

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 ラジオの歴史を調べると昭和57年の劇的な法改正を発見する。それはフラットな周波数特性を前提としていた変調波(プログラム)に、意図的な周波数特性を付けても良いとするものだ。
 実はこれに至る前、民間放送のニッポン放送がプリエンファシスによる高域のトークパワー向上で、隣接周波数からの混信対策を唱える提案を、郵政当局へ行っていた経緯がある。この件については背景も含めJA1BUIさんのBlogが詳しい。
 なおそれ以前の昭和53年11月23日、中波AMラジオで世界的な周波数変更が行われた。従来の周波数10KHz間隔を9KHz間隔にするものだ。この1KHzの違いで、ほぼ全ての放送局で11月23日未明に周波数変更が行なわれた。
 AMラジオは15KHzの占有周波数帯幅で±7.5KHzの変調スペクトラムを持っている。普通は、キャリアセンターで受信しているから、9KHz(±4.5KHz)間隔でも10KHz(±5KHz)間隔でも隣接周波数の変調プログラム(7.5KHz)が目的周波数のプログラムへ影響を与えるのは必須だ。A局とB局が隣合っている場合に、A局を受信するとB局のキャリアビートが9KHzで、B局のLSBの高域6KHz分がA局のUSBと重なる。同様にB局を受信する場合はA局のキャリアビート9KHzとA局のUSB高域6KHz分がB局のLSBに重なってくる。 しかし隣接周波数が割り当てられるのは遠く離れた地域が前提だから問題は無いとされている。
 ところが日中は良くても夜間は電離層反射で遠方へも影響を及ぼしこの限りではなくなる。近年は大陸のAM大電力局の影響もこの状況に拍車をかけている。
 放送波をSSBにすれば解決できそうだが、SSBにする事で生じる変調ベクトル(搬送波と変調波の合成)の位相変動による音質劣化を危惧する意見や設備投資の問題もある。
 放送局各社はラジオ受信機の特性も考慮しながら、明瞭度を上げるためプログラムにプリエンファシスを掛ける手法を郵政当局に要望していた(前述)。それが昭和57年に実る形になった。
 ただプリエンファシス特性は各放送局でまちまちである。400Hzに対し7KHzで+10dBのプリエンファシスを掛けている局、中には400Hz以下の低域を持ち上げている局もある。高域のセンシングを何処の帯域で行うかも重要なノウハウだ。

 またプリエンファシスとは別に、レベル制限(LB)をはじめ積極的な伸長圧縮を行い平均変調度を上げる工夫が行われている。これらは過変調を管理しつつプログラムの明瞭度を上げるために考え出された「送る側のノウハウ」と言えよう。
 特に商業放送局では、送信電力の大小より、プログラムが聞こえるか否かの方が重要な問題で営業に関係してくる。オリジナルの音源がどうあれ、受信者にはそれらしく「伝わる」ことが大切なのだ。
 なお同じ放送局の中でも、制作したプログラムとオンエアのそれとは全く違う音質が普通に存在する。また伝搬上のフェージングや受信機のIF帯域特性・AGC特性・AF特性などが加味されるから、スタジオレベルのオリジナル音声からみると、相当に変化した音になっている筈である。放送局のプログラムを注意して聞き比べると、その違いを感じ取ることが出来るのでお試しあれ。
 我々アマチュアはSSB音声のHi-Fi化を唱え様々な議論を展開するが、AMラジオの音声処理はプロとアマチュアの考え方の違いを見る様で面白い。
 SSBでは搬送波が存在しないので、AGCのかかり具合が音声プログラムのエネルギーに依存している。したがってRFレベルの強弱がそのまま復調音のエンベロープに影響するから、音が良いと言われても何を基準にしているのかさっぱり分らない。送り側のエンベロープ処理やALC処理などと同様に、伝送路と受信機側の状態も気になるところである…f特とは別の視点で。特に強電界時は常に受信機にGR(GainReduction)がかかり、おかしなエンベロープになっている筈である。しかし比較の対象が無いから殆どの人は気付かずに過ぎてしまうのが実態だと思われる。
 受信機はAGCが深く掛る状態で聞くのと、浅く掛る状態で聞くのでは聞こえ方がまるっきり違う。つまり音声エンベロープがどの様になっているかは重要なファクターでf特と同様に議論されなければいけない・・・と考えているが如何だろうか。また周知の事実としてラウドネス効果もあるので、聞くときの音量・音圧も考慮しないと安易には比較できない。
関連サイト・・・ゲルマニウム直線検波器の試作