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「椎名くん?確かにここのクラスだよ。ああ、バスケ部の後輩くんかなんか?呼んであげようか?」

 お願いします。とにっこり笑み返した。ありがとうの気持ちも込めて。
 3のCクラスにて、とりあえず、優しそうで丁寧そうな女生徒に狙いを定めると、成功した。
 こういう人選びに関して、一輝は失敗しない。

(さっきの人も優しかったしね)
 それに黒髪のロングが似合う美人だったし。

「おう、一輝どうした?」
 長身の、半袖ワイシャツをさらに肩までまくって、下敷きをうちわ代わりにして、椎名智之が顔を出した。
 一輝の目当ての顔だった。
「今日センターでバスケやるんですけど、先輩の都合を聞いてこいって言われて……」
「ああん?あいつら俺が受験生だっての忘れてんのか?」
「あ、じゃ、先輩ダメですか?」
「ダメとは言ってないだろ?でも好き好んで野郎ばっかでこのクソ暑いのにバスケってのは……」
「なに言ってんですか、先輩彼女いるんでしょ?すっげえキレイな人だって聞きましたよ」
「……ああ、黒髪のな」
「そう、まるで日本人形みたいな……」

 はたと、一輝は言葉を切った。
 明らかに椎名がこの話題で不機嫌になったのが分かったのだ。
 そして……

「最近さよならしたんだよ。言っとくけど、じゃーねー、また明日ーのさよならじゃねーぞ」
「あ、それは分かりますけど。黒髪の長い、日本人形みたいな人とですか……」
 くどい。と言う顔を椎名がする。

「……すみません、オレ今日ダメになりました」

 ああ?と椎名が怪訝そうに眉をひそめる。
 一輝は椎名を構わず、3-Cを後にした。
 チャイムが5時限目の授業開始を知らせ始めていた。

(人選びには自信があったんだけどな)

 失敗したことを悟っていた。
 そしてあのハンカチは自分のポケットにしまって何日目だったかも数えてみた。
 とにかく大失敗をしたらしい。
 一輝は廊下の真中でしばし沈黙した。
 そして再び歩き始め、あちこちから聞こ始めた「きりーつ!」の号令は無視するしかないな、と思い立っていた。

 

 

 

 

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