+サンタに花束を+ ++TOP

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「椎名智之ってこのクラスよね。呼んで」
「俺ならここにいるけど。なんか用?」
 椎名智之がひょっこり顔を出した。
「ちょっと顔貨しな。屋上まで」

 屋上はまともに太陽光線を浴びて、熱くなり過ぎていて、二人の他に人影はなかった。

「で、なんの用なわけ?里あやかさんが」
「真子と別れたって本当?」

 椎名は少しでも温度の低そうな場所に移動しようとしたが、あやかに動く気配はなかった。

「用事ってそれ?」

 っぱん!っとあやかの平手が椎名の頬を打った。
「あんた馬鹿じゃないの??!!真子なのよ?なにフッテルのよ?!贅沢もん!!」
「うん。そう思う。俺って馬鹿だって思うよ」
「じゃあ!なんで私が」

 椎名に背中を向けてあやかは続ける言葉を失った。

「私は……真子と椎名が、智之が幸せならってそう思ってたのに……」
「……ごめん。でも俺は」

 あやかは振り返らずに屋上を後にした。
 椎名はただその後姿を見送った。

 
 
 
「あたし、あやかを裏切ったの。 三人でいつも一緒だったでしょ?でも気付いちゃったから」
「先輩のはあれでしょ、先手を打った、ってことでしょ」
「早い者勝ちって言うなら、それはあやかの方が勝ちだよ。あたしは横入り」

 テーブルに一輝が注文した特大パフェが二つ。
 一つは真子の分で、もう一つは彼の分だった。
 ま、いいんだけどね、別に。彼ならパフェでもなんでも許せる気がした。

「日比野くんって彼女いるでしょ」
「……なんでですか?」
「女の子の扱い方が上手だから。残念だな。好みなのに」
「あはは、どうもです」
 否定しない彼はいいと思う。
「でも、今日ぐらい、彼氏にフラレて傷心でいる女の子を一人にしないでね」
「ラジャ、です」

 とろけるような甘いパフェはあなたがあたしにくれたプレゼント。

「頑張って、サンタさんになるんだよ」
「先輩も、幸せになってください」

 にこーとあの笑顔で見つめられたら、涙が止まらなくなった。

「いいの。椎名はあやかにあげるんだ。一生に一度の一回ぐらい、あたしだってサンタになってもいい」
 クリスマスにはまだ日があるけれど。
 涙がしょっぱいんだか、パフェが甘いんだか。途中で分らなくなった。

「先輩は幸せになります。一生に一度の一回だけかもしれない、それくらい貴重なんだから」
 サンタ志望が言うならそうかもしれない。
「ありがと」
 負けじとにこーと笑ってやった。

 

 

 

 

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