3 どうしてこんなことになっているのか。 ていうか、分かりたくない。 |
誰かの上靴によって破壊されたらしい掃除道具入れは、微妙なゆがみが生じて閉めることができない。 風に吹かれて勝手に開き始めたそれをお尻で無理やり閉めて、カエルは何度目かのため息をつこうとした。 放課後に美化委員の仕事が回ってくるなんて、ついてない。 「ホウキ、何本だった?」 ひっと反射でノドが鳴りそうになる。 「さ、ささ三本です!」 まだ確認してません。 えっとー、と誤魔化しながら、もう一度掃除道具入れを開く。 掃除用具の点検は、二人ペアで行なうことと、先生から指示されていた。 副委員長は、新しくなったメガネを光らせて、ちりとりを入念にチェックした。 誰が見たって見事な山型だと思うぞ。 (どうせ私はお調子者でがさつでうっかり廊下走ってメガネ破壊しちゃうような小学生よりも大馬鹿ですけどね) と、突然副委員長が無造作に床にちりとりを落とした。 「な、なにしてんですか?」 |
先を行く副委員長の、男のくせに華奢な背中を見つめながら、無言の怒りをキャッチする。 まさかヘビメガネ野郎が、副委員長だったとは。 予想外の事態に、カエルは「ご」の先を言わねばと思った。つまり謝らなくてはと。 「ぎゃ、ごめんなさい!」 謝るのと副委員長がため息をつくのが同時で、カエルは思わず泣きそうになる。 「……あのさ、うざったいけど言うけど」 メガネの話ですか。と、カエルは目をぱちぱちさせて理解した。 「メガネ、あたしのせいで壊れたんですから。あたし弁償しますよ。新しいのいくらしましたか?」 繁々と見つめられる気配がぴりぴりして、カエルは固まる。緊張する。 「これ、新しくない」 メガネ、よく見たら確かに、微妙にガタガタな水平になっているような。 「……もしかしなくても、踏んだんですかぁ?」 うん、と今度はぐっと分かりやすく笑って、副委員長が頷いた。 |
もう一度、笑われたらきっと、 まるでヘビに睨まれたカエルみたいに、 その場から動けなくなっただろう。 |