+親愛なる+

  + /冷たい音 + /大人になることと子供でいること + /14の奇跡


 

 序

 

 雨が針だった。突き刺さるように痛かった。

「泣いてるの?」
 雨音に混じって、微かに声が届いた。
(……オンナノコ?)

「阿呆。男や」
(オトコノコ?)
 そう言えば。で見えなくもない。ちゃんと男の子用の服を着ている。
 黄色い長靴におそろいのカサがなんとも愛らしい。
 [4年2組 のむら ひな] と丁寧に記名されている。

「なに?にーちゃん、捨てられ子か?」
「……まーね」
 雨と鼓動は一緒に打つ。同じタイミングで。同じリズムで。
「なに?行く所ないとか?」
「さあ?どうだろ」
 帰っていいものかどうか。迷っているのだ。
 雨音はやけに遠く。なのに鋭く、心の辺りを打った。

「ウチ、来るか?コーヒーぐらい出したるけど」

 雨の中。
 路地に座り込んだ男はみっともなく全身をずぶ濡れにさせていた。
 通りすぎる人と言えば、見て見ぬフリを決め込んで汚いものに蓋をするように。
 ただ唯一。黄色いカサを手にしたオンナノコのようなオトコノコが好奇心の目を輝かせて、男の袖口を引っ張った。

 世間様に捨てられた男は、小学4年生のオトコ……もとい、男の子に拾われた。

 

 

 


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