+親愛なる+
序 + 1/冷たい音 + 2/子供でいることと大人になること + 3/14の奇跡
3/14の奇跡 |
「起立、礼!……着席」 始業式早々の授業参観とは名ばかりで、つまり過保護な親が自分の子供の新しい学び舎を観察しに来るのである。 「げー。ババアが来てるよ、あれほど来んな!っつったのに……」 いちおう恒例の親の品定めを終えた後、子供達は授業に真面目に取り組む演技を始める。 「そうだなーじゃ、ここを……野村くん、読んで」 およそ国語の授業だと思われるが、手も挙げていなかった自分にご指名が来るとは思いがけず、おかげで教科書も開いていない有様だった。 「え、あ、すみません。思わず……」 まさかの声だった。聞き覚えがあった。 「だれのお父さん?めちゃカッコイイー」 照れて頬を赤く染めた成太は教室の隅に居場所を置いた。 だから違うって、言ってるのに。見たら分かるじゃないか。 |
「どうして、来たの?」 「別に特別な理由はないよ、日和の学校ってどんな感じかなって思って」 「……変だよ、そんなの」 「……どうして?」 今度は成太が問うた。 「だって」 日和はきゅっと唇をかみ締めた。 「だって、親子ってわけじゃないし」 (だったらオレたちって……) 「なんだよそれ、まさか同情してんの?かわいそうだって。いっつも一人ぼっちで親から見捨てられてて、金だけ与えて、全然会いにも来ないひどい親の代わりになってやろうって??」 はかない、って言葉がまた頭に浮かんだ。桜がそこに咲いていたから。 「ひでーよ、オレ、成太は違うって思ってたのに!一番オレに近いって……」 ハッとなって日和は振り返る。ポツンポツンと音を立てて大きな雨粒が落ちて来た。見る見るうちに道路が色を濃くしていく。 「同情ってのもいいと思うんだ。同情と優しさは違うってよく言うけど、否定はしないけど、誰かを同情することで自分は優しくなれるんだと思うから」 ……日和くんはお父さんもお母さんもいなくて大変ね。 「日和は、雨に濡れてビショビショで帰る場所もない惨めな俺に、カサをさしてくれたよ」 ……日和なら、お母さんたちがいなくても大丈夫よね。 頭をなでられてもちっとも嬉しくない。温かくない。気持ち良くない。 「がんばったんだ。勉強も運動も。でもテストで100点とったって駄目なんだ。誉めに来てくれない。オレが熱を出して肺炎になりかかったときも、外せない仕事があるって。…… 雨に濡れて寒そうで。思わず、大嫌いな同情なんてもんで声を掛けた。 「淋しい。って言えばいいじゃないか。わがまま言えば。なんで駄目なんだよ、何が怖いんだ?」 仕事が好きな両親に邪魔にはなりたくない。 ただ、こういう雨が冷たい音を奏でる日は、どうしようもないくらい、 パンッと成太は日和の頬を両手で覆うように叩いた。 「子供を見れば親が分かるんだって。そういうもんなんだって。だから……分かるよ」 愛されているから、日和は可愛い。 (そっか、なんだ……) |
* * * 後日、長雨に打たれたせいで成太は寝込んだ。 「日和ちゃん!」 「なっなんで仕事は??!!」 日和は照れくさそうだったけれど。 そしてそんな折に日和が成太の袖を引っ張って付け足すように言った。 「ね、オレ達、親子じゃないし、家族じゃないけどでも、親友にはなれるかな」 |
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