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散歩と記憶(その1:妻の現状)(平成19年12月28日)
 妻の病状の初期段階の経緯、幾つかの事件、症状の変化及び介護支援の状況などについては「妻の介護」欄に述べている。

 その後、年々脳の萎縮度は進んでいる。現状は右前脳から左前脳まで萎縮が進み、所謂人間として習得してきた知識や色々の体験から得てきた常識と言った記憶の殆どを失ってしまっている。ヘルパーと一緒に歌えていた童謡も2年程前(2005の秋頃)から歌えなくなった。言葉も1年程前まではたまにぽつんと単語を発することもあったが、現在は完全に言葉を失ってしまっている。また書くことに関しても今年(2007)の春頃までは自分の名前は書けていたが、現在は書けなくなっている。

 感情面から見ると喜怒哀楽を表現をすることがなく、怒ったり暴れたりすることがないので、それ自体は有難いのだが、何事も、本人にとって満足しているのか、不満なのか判断に苦しむことが多々ある。

 体調面では、一時、糖尿病にかかり心配したが、通院しているものの、安定しており心配はなくなっている。体力面では足腰はしっかりしており、バランス感覚もよく、転んだりするような心配はない。ただ、気温の高い夏場は苦手なようで、外出はしたがるが、行動が鈍り歩いている時間よりも立ち止まっている時間の方が長くなってしまう。

 本人からすると家にいても何もすることがなく、食べることと外に出掛けることが生き甲斐である。現在週4日デイサービスに出掛けており、いやがることもなく出掛けてくれていて有難いのだが、帰宅すると義務を果たしたのだから、「今度は出掛ける番」とばかり外出用のバックを持ち始めるので、スーパーへ買い物に出掛けるのが日課となっている。また夕食後、散歩に出掛けるのを最大の楽しみとしている。

 過去は現在よりも動作が機敏であり、一寸した隙に靴を履き、鍵を開けて、玄関から出て行こうとするので、玄関の鍵を二重三重に取り付けもした。また、風呂から出て、ベットに寝かしつけ、こちらが風呂に入るのだが、ベットから抜け出し、玄関まで行き、鍵を開けることが出来ず、立ち止まっていることもあった。冬場には折角暖まった体を冷やしきってしまい、ゆっくりと風呂に入っていることが出来なかった。また、夜中に目を覚まし、ベットを抜け出すこともあり、ゆっくり寝ていられない。そこで可搬型の赤外線センサーを設置し、部屋を抜け出したら、ブザーがなるようにしてきた。

 しかし、昨年(2006)の秋頃より生活パターンが安定してきたためか、考えが及ばなくなったためか、よく分からないのだが、入浴後ベットに入った後や夜中に起き上がり外へ出て行こうとする行動がなくなってきた。お陰で現在は外出しようとする行動は殆どなくなり、気にせず風呂にはいることができ、また夜中に起き出すことを心配する必要がなくなった。

 一方春頃より散歩にも変化が出てきた。従来殆ど同じ道を歩いて、余り見向きもしなかった路地の前に立ち止まり、路地に入っていきたい身振りをするようになった。そこで、歩く方向の選択を妻に合わせて、歩くようにし始めたところ、家を出てからの方向もまちまちとなり、表通りを歩いているかと思えば路地には入り込み、また次の路地で表通りに出るなど日替わりの行動をするようになってきた。

 そして、色々なルートを辿って、歩き回り、例えば池上駅付近まで行けば、今度は帰途方向に向かい、最終的には我が家にまでたどり着くことが分かってきた。3ヶ月間ほどして振り返ってみると、幾つかのルートを毎日変えていると同時に同じ方向には向かってはいるが、途中で、表通りの曲がる位置を変えたり、また路地裏に入り込んだりと、記憶では全ルートが全く同じと言う日がなかったことに気がついた。そこで、6月よりその日の散歩経路の記録を取ることにしてみた。

散歩と記憶(その2:思い出した記憶)(平成20年1月4日)
 毎日の散歩を妻の意志に従って歩き始めて3ヶ月ほど経過し、分かってきたことであるが、@「毎日ルートを変えて色々な方向に向かって歩くこと」、またA「細かいルートを含めると全く全ルートが一致する歩き方をしたことがないこと」、そしてB「最終的には我が家に戻ってくること」である。そこで毎日の散歩経路の記録を取り、分析してみようと考えた。

 散歩経路の記録を簡単に作る方法はないかとgoogleの地図を開き、右クリックしたところ「直線」を連続して描けるツールが存在した。ある一定の地図倍率で表示し、地図を移動しながらプロットしていけば散歩経路を簡単に描くことができ、これは非常に便利だと6月1日より利用し始めた。しかし、思わぬ伏兵がおり、6月25日頃からツール群が変更されてしまい、直線を直接プロットできなくなってしまった。やむなく少々手間がかかるが、地図を切り出し、EXCEL上で散歩経路をプロットすることに変更した。

 記録を取り始めた6月上旬は比較的順調な歩き方をしていたが、6月下旬頃より気温も上がり出したため、歩く速度が落ち始め、毎日歩くルートを変えて1時間以上は歩くのだが、時速1kmを切るような歩き方の日も出てきた。しかし、最終的には自力で確実に自宅まで戻って来ることが出来ている。

 主治医の昭和大K先生を訪ねた際、毎回協同で研究されておられる心理学のM先生を訪れ、色々心理面からご指導いただいている。散歩の件をお話ししたところ、興味を持って頂き、一度同行してみたいとのお話しだったので、9月25日に散歩時間に合わせて夕方よりわざわざ自宅までおいで頂き、同行を願った。

 散歩経路の記録は9月末まで4ヶ月間取れたので、ここらで一旦データ収集は止め、少し整理をしてみようと考えていた。9月の下旬頃より涼しさも増し、少し歩き方も変化し始めていたが、10月1日の散歩で「もしや?」と思ったことが、驚くことに翌2日に「実現」してしまった。

 10月1日の散歩は9月中と違って比較的順調な足取りで、池上線寄りの道を池上駅の方向に歩き始めた。この道はかつてダンス教室へ通っていた道である。交差点(A点)に差し掛かると足が止まり、真っ直ぐ先へ進むか、右手を眺めて踏み切り(B点)の方向に進むかしばらく考えていたが、B点の方向に歩き始めた。ダンス教室に通っていた頃は1つ先の踏切(C点)を渡ることが多かったが、時々B点の踏切も渡っていた。

 最近の散歩では、もう少し手前(蓮沼駅寄り)の踏切を電車の音につられて渡ることが多いが、踏切を渡ると線路に沿って進み次の踏切を渡って元の方向に戻る傾向があった。今回もB点で渡ったので、次の三叉路を左に曲がり踏切(C点)を渡りきった。渡りきったところで、立ち止まり、何か腑に落ちない顔をしている。何か思っている方向と違ったようである。しかし、当日は来た道を戻って帰ることとなった。
10月1日のルート 10月2日のルート
 翌2日は前日のスタートにおける寄り道もなく、A点まで前日と全く同じルートで順調に進み、今度は迷うことなく、C点まで直進して踏切を渡った。左折して20m程歩くと右手に公園があり、三叉路でしばらく考えていたが、右折し公園に沿って歩き出し、3番目の入り口から公園に入った。裏口から住宅街に入る路地を通り抜けてダンス教室の前まで来て止まった。そしてガラス張りの教室をしばらく眺めていた。教室へ入って行こうとはしなかったが、納得したのか、来た道を戻り、池上駅前の踏切を渡って帰途についた。

 ダンス教室は平成16(2004)年3月に踊れなくなったので止めている。しかし、1年以上経過した平成17年8月にルートは違うが、本門寺の方向から、散歩の際、ダンス教室へ出向いたことがある。あれから2年経過し、もう既に忘れてしまっているだろうと思っていたダンス教室への経路をイメージとして思い出し、ダンス教室までたどり着いたのには驚くと同時に、まだ記憶を辿って思い出せることを発見した。

 そこで、散歩経路の記録を9月で一区切りとしようと思っていたのだが、涼しさと共に歩き方も順調になってきたので、しばらく継続することにした。

散歩と記憶(その3:8つの散歩ルート)(平成20年1月6日)
 妻は健全な頃、自転車よりも歩くことを好み、日々の買い物に蒲田までよく歩いて出掛けていた。また10年以上犬の散歩のため池上駅方向に出掛けていた。また2003年頃までは、多摩川土手方向へ矢口渡駅を越えて散歩に出掛けていた。
矢口渡駅ルートのコースの変化

 10月1日より散歩経路の記録を続けて取り始めたが、10月13日の散歩で3,4年程前から越えることがなかった環八を越え、更に矢口渡駅を越えて歩き始めた。そして最初の交差点を左折して帰途方向に向かった。その後、16日には一本先の交差点を左折し、更に24日には3本目の交差点の角にある西友を左折するルートと歩く範囲を拡大して歩き始めた。

 先のダンス教室方向と共に、新しい発見であると同時に
「妻は妻なりに一生懸命、脳を使っている」ことが分かってきた。

 散歩経路の記録を分析してみると、自宅を中心とした約2km四方弱の範囲であるが、8つのルートがあることが分かった。これらのルートが「過去に経験した記憶との関係」は次のような理由だと想像している。
ルート名 過去に経験した記憶との関係
@ 自宅周辺 基本的な生活圏で、日常の買い物に通った地域。
A 西蒲田 この領域のほぼ中央に長女夫婦が住んでいる地域。
B ダンス教室 3年間ほど通っていたダンス教室。帰路は殆ど池上ルートと同じ。
C 池上駅 健在だった頃、主に犬の散歩に通った地域。
D 曹禅寺 この領域の左側の道を北上し、池上駅方向に向かうのが、一般ルートであった。その道の右側の何も特徴のない路地であるが、昨年(2007)7月にその道より15mほど入った位置にワンルームマンションが完成した。明るく照明を付けて販売が始まったために、その照明につられて歩き始めたのが最初である。その路地を通り抜けたところが曹禅寺である。
E 矢口東小 かつて夕食後、スーパへ買い物に出掛けた帰りに散歩に利用した地域。
F 矢口渡駅 2003年頃まで矢口渡駅を越えて多摩川土手方向まで、散歩に出掛けた。徐々に歩くルートが短縮され、西友経由はその最短コース。
G 蒲田駅 少し遠出をした日常の買い物に通った地域。
散歩道全景と8ルートの目的とする地域
ルート名
@ 自宅周辺 .
A 西蒲田 .
B ダンス教室 .
C 池上 .
D 曹禅寺 .
E 矢口渡駅 .
F 矢口東小 .
G 蒲田駅 .

散歩と記憶(その4:散歩ルートの変化)(平成20年1月11日)
 散歩経路の記録を取り始めて昨年12月末で7ヶ月になる。データを分析してみると、前項に記したように「8つの散歩ルート」に分類することが出来ることが分かってきた。毎日の経路データは検索しやすいようにカレンダを作り、リンクを貼って検索できるようにした。しかし、これでは1つ1つのデータは見ることができても全体が見えてこない。

 そこで下図のように、毎日の散歩ルートを色別に表示してみた。これで2次元的な色の分布で、どのようなルートの散歩であったか、一目で大観できるようになり、また月々の散歩ルートの変化を読み取ることができるようになった。
 (注)未:散歩には出掛けたが記録が取れてないもの
. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31
H19.06 .. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
H19.07 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
H19.08 風邪 風邪 風邪 風邪 風邪 風邪 風邪 風邪 . . 中止 . . . . . . . . . . . . . . . 外出 . .
H19.09 . . . . . 台風 . . . . 強風 . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
H19.10 . . . . . . . . . . . . . . 旅行 . . . . . . . . . . 台風 . . . .
H19.11 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
.
H19.12 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
 先ず一見して、9月までと10月以降では色の配分から、散歩に大きな変化があったことが分かる。図から読み取れることをまとめてみると、次のようになる。

6月中旬以降、気温の上昇と共に行動が鈍り、9月一杯までは自宅周辺(赤色)が多くなっている。
6月は池上駅(黄土色)、蒲田駅(黒色)、矢口東小(青色)及び自宅周辺(赤色)の4ルートのみである。
7月14日に池上駅方向に向かう途中、マンション売り出しの照明に引かれ、路地に入り込んだのが、曹禅寺ルート(空色)で、新たに散歩ルートとして加わった。また、7月21日に散歩記録を取り出す以前に1,2度出掛けた記憶のある西蒲田ルートへ出掛けている。
10月以降、行動も活発化し、自宅周辺が激減していることが分かる。そして10月2日にこれも3,4年振りにダンス教室(黄色)に向かっている。10月17日再度訪れ、散歩ルートの一つとなった。
更に、10月13日にこれも3,4年振りに矢口渡駅ルート(茶色)を復活させた。そして16日及び24日と比較的短期に出掛け、西友を廻るルートに到達している。これによって「8つのルート」が生まれた。
10月は曹禅寺ルートがなく、7ルートであったが、11月、12月は8ルート全部を廻っている。
11月2日は、西蒲田ルートからダンス教室ルートに入り込んだ特異なケースである。
以下に各コースの代表例を示します。(各ルートをクリックして下さい。)
自宅周辺ルート 西蒲田ルート ダンス教室ルート 池上駅ルート
曹禅寺ルート 矢口渡駅ルート 矢口東小 蒲田駅ルート

散歩と記憶(その5:散歩の効果)(平成20年1月20日)
 半年以上続けてきた妻の行動に任せた散歩の記録より、色々なことが見えてきた。特に妻の場合、「脳の活性化につながっている」と見られる症状が見えてきている。

(1)目に映る映像認識
 先ず第1に目に入ってくる映像に対する認識処理は正常に機能していることが再確認できた。妻は所謂「人間として最も特徴である言葉を失い、話すことが全く出来ないばかりか、長年蓄積してきた知識や常識と言ったものを殆ど失っている。しかし、普段の行動から人の顔や場所などの映像を認識出来ていると思っていたが、今回の散歩記録より、1シーンの映像が分かると言うだけでなく、色々なルートを辿り最終的に自宅まで戻れるだけの認識力があることが分かった。

 更に過去の記憶を辿り、春(記録を取る以前)にはここ数年出掛けたことのない、西蒲田ルート(東方向)、また10月にはダンス教室ルート(北東方向)及び矢口渡駅ルート(南西方向)と散歩領域を拡大していることも分かってきた。これはまだ健全な後頭葉を使っているようで、「散歩が単に体力を保つだけでなく、脳の活性化にも役立っている」ようである。
図-1 H19.9.4の散歩経路
図-2 H19.7.7


(2)満足する散歩時間/距離
 散歩に要する時間は最低でも1時間以上、1時間半程要している。その歩く距離は1km位から3km程度まで、幅がある。満足する散歩時間は1時間を必要とするようだが、時計を持っているわけではないが、何か満足度を測定するタイマーがあるらしい。

 例えば自宅周辺ルートを歩いている際、図-1(H19.9.4の散歩経路:行動の鈍い例)のようにA点は自宅に戻る路地であることは十分承知している。

 しかし、家を出て左折ー左折ー左折と進んでA点に差し掛かった際には、まだ歩き始めなので直進している。、その後、右折ー右折ー右折ー右折して再びA点に戻ってきたが、まだ歩き足らず左折して帰宅することなく、右折してもう一廻りしている。そして3度面にやっと左折して路地を入り帰宅している。

 図-2は比較的順調に歩いた場合で、A点まで来た。真っ直ぐ進めば自宅方向であることは十分承知しており、少々今日は時間が短いが、当然真っすぐ進むものと思っていた。ところがA点で立ち止まり、しばらく考えてから進路を右方向に取り、2ブロック程北上して可成り遠回りをして帰ることとなった。

 本人の確認を取るすべもないので、勝手な想像だが、このまま、まっすぐ帰ったのでは早すぎるので、回り道をして帰ろうと判断して「右折したのだろう」と思っている。

 何れの場合も所要時間は1時間は超えている。

(3)散歩経路
 散歩ルートは現在8つあることが分かった。そして何故このようなルートが生まれたのかその理由らしきものも、過去の妻の日常生活行動パターンから、推測することもできた。

 しかし、不思議なことに毎日の散歩の全行程を比較してみると、完全に一致するものはない。一般に正常者が散歩をする場合、たまに気晴らしのために、一寸横町を歩いてみようかと言うこともあっても、歩く道順は基本的に決まっていて、、70〜80%は同じ道順を辿るだろうと思う。

 毎日一緒に歩いていて、歩き始めると、その日のルートや経路を予想するのだが、その当たる確率は非常に低い。何故だろうか。我々の判断は過去の歩いた記憶を辿り、「この間、歩いた時と同じ経路だ。その先の歩く方向も同じだろう。」と予想する。どうもこの考え方は間違っているようである。

 それはそうだ。「過去の記憶が出来なくなっているのだ。行き当たりばったりに、サイコロを振って方向を決めているのと同じだから、当然当たらないだろう。」と言う、考え方も成り立つ。

 果たしてこれが正解だろうか。これも明らかに間違っている。もし闇雲に進路を決めているのだとすると、必ず発散現象が起こり、毎日自宅まで戻ることが出来ないだろう。

 では何か。人間の先祖は何かと言えば、猿だと言われている。人間の猿との違いは脳の前頭葉が発達し、言葉や学習能力により、色々な知識を持って行動が出来ていることだ。その人間の有する前頭葉の働きがなくなったらどうなるか。基本的に猿即ち動物的行動になるのではないだろうか。

 犬猫も同様で生活拠点を持ち、そこを中心に周辺を歩き回り、臭い付けをしながら、生活圏の確保と拡大を図っている。医者でも人類学者でもないので、勝手な想像だが、人間の根底にある、動物的行動本能が働いているのではないかと想像している。

 以上のような想像に至った理由は次のようなデータ分析からである。

 図-3は自宅周辺の路地を散歩で歩いた回数を示したものである。自宅のあるブロックを取り巻いて8つのブロックがあり、1ブロックを除いた7ブロックには通り抜けることが出来る路地がある。6月から9月までの4ヶ月間のデータより、通過した路地をチェックしてみると同図のように(人が通り抜けるのがやっとの路地2カ所を除いて)全路地をこまめに歩いていることが分かる。最初の1,2回はしばらく考えてから入っていっていたが、最近ではこの道を入っていけば、その先がどこであるか想像できているようである。
 


図-3 路地の通過回数
 また右表は月別の散歩ルートの回数を示したものである。
散歩ルート 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
自宅周辺 16 18 12 18
西蒲田
ダンス教室 - - - -
池上駅
曹禅寺
矢口渡駅 - - - -
矢口東小 
蒲田駅
 9月までは気温の関係で、歩き方が鈍く、自宅周辺ルートが中心であるが、10月以降はダンス教室ルート及び矢口渡駅ルートを新しく増やし、月別に見てもほぼ全ルートを廻り、それぞれのルート回数がほぼ同数であることが分かった。

 当然のことながら本人は各ルートをノートにメモしてるわけでもなく、また回数を記憶しておくような能力を持ち合わせてないことは明かである。

 たまたま偶然だと言ってしまえばそれまでだが、人間の常識では考えられない、動物の行動に対する本能的機能が働いているように思えてならない。

 先に述べたように、動物が生活拠点をベースにその周辺を歩き回り、臭い付けをしながらこまめに生活圏を拡大していく。同様に妻の場合も図-3のように自宅周辺については全路地を歩いて確認している。そして8つのルートについてもほぼ満遍なく歩くことを繰り返している。現在の妻にとっては自宅を中心とした約2km四方の空間が、生活空間となっている。そして、そのイメージ空間が脳の中に存在し、歩いた回数をカウントしているのではなく、歩く度に重ね塗りをし、その重ねた枚数を合わせるように歩いているように見える。

 いずれにしても散歩は妻にとって唯一の楽しみであり、脳の活性化につながっているようであり、今後も体調を見ながら、散歩を続けていこうと思っている。春先に向けて歩く範囲の輪(妻にとっては生活圏)が広がることを期待している。広がるとすれば、「池上駅から本門寺方向へ」、または「矢口渡駅から西友を越え多摩川方向へ」の拡大がなされれば、期待通りであり万々歳である。

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