クリックするとホームページに戻れます。
自称:音楽愛好家
 
第9章 ポートレイト
1999/11/23 (火) 22:56

オランダに居住するためには「Staying Permission」という許可がいる。
要するに「私はこれから3年程オランダに住みますのでよろしくお願いします」という国へのお願いだ。

このPermissionが取りにくい国もあれば、簡単に取れる国もある。オランダは比較的簡単に取れる方だ。昔から貿易業が盛んなため、外国人をいちいち排除してたら国が成り立たなくなってしまうからだ。

逆にめっぽう取りにくいのは日本である。Staying Permissionを取るためには帰化して日本人にならないと取れないんじゃないかと思うほど困難らしい。

そんな理由で、Staying Permissionの手続きを進めているある日、警察(Politie)から「来週の月曜日に以下の書類を揃えて出頭してください。」というオランダ語で書かれた手紙がやってきた。

もちろん、この手紙はStaying Permissionの最終手続きのために警察に出頭しなさいというもので、現地のオランダ人スタッフに英訳してもらいながら必要な書類を揃えた。ほとんどの書類が集まった中で、「3cm×4cmのカラー写真を2枚」という項目があったので、昼飯ついでに近所の写真屋さんに証明写真を撮りに行ってみた。

そこは小さな店だった。会社の先輩に紹介してもらった店なのだが、撮影・現像の他になぜか画材や携帯電話も販売していた。

とにかく証明写真ができるようなので入ってみようと思いドアを開けた。自分以外にお客さんは居なかった。とりあえず撮影をしてもらおうと思い、「3cm×4cmのカラー写真を2枚撮って下さい」とおじさんに頼む。

彼はあまり英語が達者じゃないらしく、僕が手に持っていた警察からの手紙を読んで「3cm×4cmのカラー写真2枚がStaying Permissionの手続きのために必要なんだ。」とやっと理解してくれた。

手招きで椅子と白バックある所に連れて行かれ、座らされた。
彼はおもむろにポラロイドを取り出してセッティングを始めた。
この辺は全く日本の写真館と同じだ。4枚同時に撮影できるあのポラロイドだ。

「役所に出す写真だからまじめな顔をしよう」と思い、背筋をピンと伸ばし、まっすぐカメラに正面を向いてポーズを取った。

すると、おじさんが「違う、違う。」とジェスチャーをしている。

「はて、なんのことだろう?」あんまりムスっとしちゃいけないかと思い、少し微笑みながらポーズを取り直した。

しかし、まだ「違う,違う。」と首を振っている。

彼はそばに寄って来て、ジェスチャーで「右45度の方に向いて椅子に腰掛けろ」と言う。「はて?」と思いながら言われたとおりにすると、今度は「カメラの右奥にある絵の方を見てくれ」と言う。「こんなんでいいのかなぁ」と思っているうちに、パチリと撮られ、撮影が終了した。

10分後、写真が出来上がり、半信半疑に代金を払った。写真を確かめてみたが、やっぱり何だか変だ。別にピントがずれているとか、色が変だとか言うわけじゃない。しかし、斜め加減で、遠くを見つめてる様な写真を証明写真として使えるのかが非常に疑問だった。なんかだまされたような気分で会社に戻った。

Staying Permissionの手続きを手伝ってもらっている現地スタッフに、出来上がった写真を見せながら、「なんか、これ変じゃない?これでいいのかなぁ?」と聞くと、「あら、イイ写真じゃない。問題ないよ。」と言う。

「でも、これ斜めだよ。そんなんでいいの?」と聞くと、
「オランダではたいていの証明写真は斜め向きで、片方の耳が見えていないとダメよ。」
「正面の写真を撮られるのは犯罪者だけ。パスポートも運転免許書も右斜めの写真。」とキッパリ言われてしまった。

そうなのか・・・。てっきり証明写真って正面から撮るものだと思ってた。
彼女の言ってる事が全て正しいかどうか知らないが、会社の先輩も「右斜めの写真」を警察に提出したそうである。所変われば、勝手も違うもんである。片耳が見えてなければいけない理由は想像つかないが、とりあえず来週の月曜日に僕も「右斜めの写真」を警察に出してこようと思う。

つづく

目次に戻る
第10章に進む