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〜「名探偵クライス」犯人当てクイズ当選プレゼント小説<kozue様へ>〜

国王陛下のメイド探偵エリー

甘い誘惑 [解決篇] Vol.4


エピローグ:終わりよければ・・・

「さて、これで事件はすべて解決したな」
ブレドルフは、幹部たちに席に戻るよう身振りで促した。それから、にっこり笑ってエリーを振り向く。
「エリー、きみには感謝の言葉もない。きみがいなかったら、ぼくは自分自身の過ちにも、みんなの心遣いにも、気付くことはできなかっただろう。できる限りのお礼をしよう。何でも言ってくれ」
ブレドルフの言葉に、エリーは顔を上げた。
「では、ひとつだけ、お願いがございます」
「うん、何だい?」
エリーは真剣な瞳で言った。
「陛下、リューネ様と仲直りしてください。何があったかは存じませんが、もし陛下に悪いところがあったのならば、素直に非をお認めになって謝ってください。リューネ様に落ち度があったとしたら、寛容な心でお赦しになるべきです。おふたりの間にいさかいがあったとしても、それを乗り越えて、共に歩んでいかれるのがご夫婦ではございませんか。ましてや、陛下とリューネ様は、ただのご夫婦ではございません。シグザールとドムハイトの希望です。未来です。ふたつの国の国民のためにも、おふたりはご一緒にいられるべきです。どうか、ご婚礼の際の気持ちをもう一度思い出して、リューネ様を呼び戻してください」
「え?」
ブレドルフはきょとんとして、エリーをまじまじと見つめた。
「エリー、きみ、何か勘違いをしてやしないかい。ぼくとリューネは、別に――」
「ではなぜ、リューネ様は何ヶ月もドムハイトにお帰りになったままなのですか? ザールブルグ市民に、ドムハイトの王様がけがをしたためだと偽の情報まで流して、ごまかしておられるなんて――」
エリーは言いつのる。黙った聞いていたゲマイナーが、いきなり大口を開けて笑い出した。
「なるほど、そうか。きみは、俺の話をそういうふうに解釈していたのか。こりゃあ傑作だ!」
「へ?」
今度はエリーがきょとんとする。
「あははは、エリー、リューネがぼくと夫婦喧嘩をして、そのせいでドムハイトへ帰ってしまったと思っていたのかい? 違うよ、リューネは――」
その時、外からドアがけたたましくノックされた。
「失礼します! 第一分隊長ダグラス・マクレイン、入室許可を求めます!」
ドア越しにダグラスの大声が聞こえる。
ブレドルフの合図を受けて、エリーがドアを開けた。
聖騎士の蒼い鎧に身を固めたダグラスが、つかつかと入ってくる。
「グラッケンブルグから、緊急の伝令です!――と、こいつは言ってます」
右手で敬礼しつつ、左手で高々とぶら下げているのは、紺色の服と帽子を身につけている妖精だ。襟首をつかまれた紺妖精は、手足をばたつかせ、逃れようともがいている。
「放してくれませんかな。ボクはドムハイトから、情報部宛に重大な極秘情報を持って帰って来たのですな。すぐに長官に報告して、ブレドルフ陛下にお伝えしなければいけないのですな。ボクの計算では、この情報が国際関係にもたらす影響は――」
「こら、うるせえんだよ。俺が報告しているんだ。ちっとは黙ってろ!」
ダグラスは紺妖精を揺すぶって黙らせると、
「訓練からの帰還を隊長へ報告しようと詰め所へ向かう途中、廊下をうろついているこいつに出くわしました」
「うろついていたわけではないのですな。情報部へ行っても長官の姿がなかったから、探していたのですな」
「ともかく、こいつが同じところを右往左往していましたので、とっ捕まえました。詰め所で聞くと、隊長や陛下、ゲマイナーのおっさ――じゃなかった、長官たちがお茶会をなさっているとのことでしたので、連行してきたわけであります」
言い終わると、ダグラスはもう一度、敬礼し、紺妖精をどさりと床に下ろした。紺妖精はぺたんと座り込んで、目を白黒させている。
「ペーター、まず落ち着いてから、報告しろ」
ゲマイナーが笑いをかみ殺しながら言う。妖精ペーターはようやく立ち上がると、濃紺の服についたほこりを丁寧に払った。それから、よちよちとブレドルフの前に進み出る。
「はい、報告いたしますのですな。グラッケンブルグ発の重大報告ですな。本日未明、シグザール王妃リューネ様におかれましてはですな、体重3300グラムの女児をご出産なさいましたな。グラッケンブルグの医師の言うことには、安産で、母子共に健康ということですな。ボクの計算よりも1週間ほど早かったようですが、まあ想定の範囲内ですな」
「へ? ご出産?」
エリーが目を丸くする。ブレドルフが音を立てて立ち上がった。
「ペーター、本当なんだね?」
「ボクの情報は常に確かですな。疑いの余地はないのですな」
ゲマイナーが眼鏡の奥の瞳を光らせて、ぶつぶつとつぶやく。
「やれやれ、まずは一段落だな。ここまではうまく運んだ。次は、ふたりを安全かつ極秘裏に連れ戻す手配をして――。両国民にはどのタイミングで発表するか、ドムハイト当局と打ち合わせなければ――」
「陛下、おめでとうございます」
シスカがブレドルフの前にひざまずいた。ウルリッヒとエンデルクも、それに倣う。あわててダグラスも膝をつき、棒のように立ち尽くしたままのエリーに小声でささやく。
「こら、おまえもぼさっと突っ立ってるんじゃねえ」
唖然としていたエリーだが、ようやく我に返ると、幹部たちの祝福を受けているブレドルフの前に進み出る。そして、『シグザール王室儀典大全』に書かれていた内容を思い出しながら、スカートの裾をつまみ、ひざまずいて、シスカも文句のつけようがない優雅な作法で深々と最敬礼した。
「陛下、このたびは、誠におめでとうございます」
傍らでは、ペーターが満足げにうなずいていた。
「うんうん、ボクの計算どおりの反応ですな。終わりよければすべてよし、ですな」

<おわり>


○にのあとがき>

(いろんな意味で)たいへん長らくお待たせいたしました。
2005年5月に実施した突発企画、『名探偵クライス:危険なお茶会』犯人当てクイズにてリク権を獲得されたkozueさんからいただいたリクエスト小説、半年経ってようやく完結です。
リク内容は「王室を舞台にしたミステリで、エンデルク氏登場のもの」でした。王室ミステリというキーワードからふと思い浮かんだのは、その少し前に読んだ英国王室を舞台にメイドさんが探偵役を務める『女王陛下のメイド探偵ジェイン』シリーズ(笑)。こうして内容も伴わないままタイトルだけが決定しました。

実を言いますと、アトリエワールドでミステリを書くには制約がとても多いのです。まず第一に、のどかで平和なアトリエワールドには凶悪犯や極悪人はいないという前提があります。この世界観に反するような凶悪犯罪を起こすわけにはいきません。いきおい、犯人は人間じゃないとか、不幸な偶然から起こった事故だったとか、犯人は善意に基いてやむをえず犯行に至ったとか、そういう事件に限定せざるをえないのです。とはいえ、そのような制約の中でトリックやストーリーを考えるのは楽しいのですが。

今回は、ミステリ好きというkozueさんのご期待に応えるべく、クリスティの某作品を意識した真相にしてみました。また、「ふかしぎダンジョン」6周年に合わせて、2匹目のドジョウを狙った(笑)犯人当て(というか真相当て)クイズも実施させていただきました。皆様から寄せられた回答や当選者の発表につきましては、こちらをご覧ください〜(2005.11.28)。


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