棺の中の悦楽 (ミステリ)
(山田 風太郎 / 光文社文庫 2001)
「山田風太郎ミステリー傑作選」の第4巻。今回は「凄愴篇」ということで、かなり凄惨でインパクトが強い作品が集められています。ミステリ仕立てですが、心理面に重点を置いて、人間心理の醜悪さと(それを際立たせるための美しさも描かれますが)皮肉な運命の悲劇を描く作品ばかりです。ただ悲惨な内容の割には比較的読後感が悪くないのは、やはり物語としての出来がいいからなのかも知れません。
死刑執行前夜から執行までの13時間を、女死刑囚の回想を交えてリアルに語る「女死刑囚」、墜落寸前になった旅客機に乗り合わせた乗客乗員が赤裸々な愛憎をむき出しにする「30人の3時間」(そういやこういうシチュエーションが「おそ松くん」のアニメにありました。翻案?)、女郎屋を舞台にした歪んだ純愛「新かぐや姫」、性犯罪に泣き寝入りせず真っ向から戦う夫婦の悲劇「わが愛しの妻よ」、癌に冒されたホステスが心中相手を物色する「祭壇」、登場人物すべてが立派な上辺と醜悪な裏面を持っている「二人」などの短編の他、特攻隊帰りの青年6人が妻を共有しようという(つまり六夫六妻制?)奇妙な計画を立て、実行に移したことがきっかけで起こる奇妙な事件を描く中篇「誰も私を愛さない」、愛する女性の名誉を守るために人知れず殺人を犯した青年が、目撃者に脅されて横領事件の片棒をかついだことから手に入れた1500万円を使って、3年間で多種多様な6人の相手と女性遍歴を繰り返す長篇「棺の中の悦楽」が収められています。
<収録作品>「女死刑囚」、「30人の3時間」、「新かぐや姫」、「赤い蝋人形」、「わが愛しの妻よ」、「誰も私を愛さない」、「祭壇」、「二人」、「棺の中の悦楽」
オススメ度:☆☆(←面白いのですが読者を選ぶということで)
2005.1.29
アンドロ・ペスト (SF)
(ウィリアム・フォルツ&H・G・エーヴェルス / ハヤカワ文庫SF 2005)
“ペリー・ローダン・シリーズ”の308巻。
昨年までは2月(と6月)は休刊月だったのですが、今年から毎月刊行。嬉しいです。
さて、前巻後半のエピソードで、アンドロメダ星雲までPADウイルスが伝播することを恐れ、マークス(アンドロメダを支配するメタン呼吸生物)の前哨基地へ赴いた太陽系元帥ジュリアン・ティフラーのコマンド。引き続き、このコマンドの苦難と活躍が描かれます。
アンドロメダと銀河系を結ぶマークスの“宇宙駅”のうち、銀河に最も近いルックアウト・ステーションでは、既にPADが広がって、精神に異常を来たした人類とマークスとの間で戦闘が起こっていました。そこに到着したティフラー・コマンド。宇宙基地で共存していた異種族カルヴィノレを巻き込んでの混乱に、収拾はつくのか――?
このカルヴィノレという種族、フォルツがよく使うこの回だけのゲストキャラだと思うのですが、ラストでその正体が明かされる場面、意外性の効果を狙ったのでしょうけれど、序盤でイメージの想像がついてしまうので、思いっきりすべってますよフォルツさん(笑)。
後半で唐突に出てくる、もうひとつの病原体(?)の方が、SF的には非常に興味深いかと。でもこれもきっとこの回だけですな。
<収録作品と作者>「アンドロメダの危機」(ウィリアム・フォルツ)、「アンドロ・ペスト」(H・G・エーヴェルス)
オススメ度:☆☆☆
2005.2.9