*****《ある町の社会教育委員のメモ》*****

【地域づくり(その2)?】


 先に地域づくりに際しての「点検と評価の指標」(第85号)について概略を述べておきました。ここでは,地域そのもののイメージをどのように把握すればいいのかということについてまとめておきます。

 社会教育の分野だけではなく福祉の分野でも「地域福祉」というキーワードによる活動の具体化が目指されています。社会の構造改革は地域社会の改革にまで波及してきました。人の基本的な生活基盤として地域の価値が再評価されたということです。青い鳥は身近にいるという話のとおりに,原点に帰ってきたのです。
 ところで,その地域をつくるということを,料理作りに準えてみます。料理を作ろうというときに,何をつくろうかを考えるのは面倒なものですが,それでもどんな献立でも思いつきます。でもそこで,問題が出てきます。作る腕があるということは当然として,素材を買い出しに行って揃えることが必要になります。一方で,いわゆる日常の献立を考える際には,冷蔵庫を開いてそこにあるものを利用しようとします。手元にあるもので間に合わせるということです。
 地域づくりの基本は家庭料理と同じです。地域の外から新規の素材を持ち込むのではなく,地域に既にある社会資源を利用することが大事です。大層な料理はできないでしょうが,それなりに美味しい食事ができるはずです。地産地消というのは,社会活動においても生かされるべきキーワードなのです。
 そこで,地域の自己イメージを再確認するために,地域そのものを開いてそこにある資源の特徴を整理しておかなければなりません。

 ○地域には誰がいるのか?
 人がいるというのは当たり前として,どんな人がいるのか,類別して見ることが大事です。先ずは,お互いに何の関係も持たない人たちがいるのであれば,そこは地域ではありません。関係を持つということは,顔見知りである,挨拶が交わされている,話ができている,気遣いが行き会っている,助け合いができている,協働活動がなされているなど,いくつかの段階に沿ったものがあるということです。
 また,年代による分類も可能です。子ども,青年,成人,高齢者という分類,成人では男性と女性という分類もあります。その他についても,必要な課題毎にどんな人がいるかということを策定することができます。

 ○地域は何処にあるのか?
 地域という言葉は曖昧です。使う人によってあるいはその主題によって,地域が何処であるかというイメージが違っています。例えば,近隣や隣組合,行政自治区,校区,旧町村,市町全体となります。話し合うテーマによって暗黙のうちに揺らいでいると,共通理解が難しくなります。地域の定義をきちんとした上で,考察を進めるべきです。もちろん,そこに人のつながりという裏打ちが必要なことは言うまでもありません。日頃出会いがある範囲という要件を掲げると,車で行き交うのではなく歩いていける範囲に限定されます。

 ○地域はいつ現れるのか?
 人は地域というものを普段は意識していません。当たり前のものだからです。しかし,最近では地域とはわずらわしいものという受け止め方をされることが多くなっています。地域のあれこれは自分には関係ないという認識が強くなっています。それだけ,自分の周りを見る目が鈍くなってきました。昔流に言えば,お陰様という謙虚さが消えています。人のお世話になっていることを自覚したときに,地域は現れてくるはずです。

 ○地域は何をもたらすのか?
 金や物という即物的な価値は地域の外に追い出されました。近くの商店街が消えて,郊外の大型店舗に集約されていきました。かろうじて残っているコンビニは若者向けで,地域の皆にとって用を足すものではありません。地域から得るモノはなくなっています。つまり衣食住については地域は何ももたらしてはくれません。地域にあるのは人間関係ですから,そこに得られることを見つけなければなりません。安心感は最も分かりやすいものです。人は寄り添って生きるものということを思い出せば,地域での人のつながりこそが地域のもたらしてくれるものなのです。くつろぎや和やかさ,それは決して家族の中に閉じこめておくものではなく,身近な隣人の中にも届けるものです。近隣トラブルが起こる背景には,和やかさのお裾分けが途絶えているという状況があるのです。

 ○地域は何故必要なのか?
 地域は生きていなければなりません。生きているというのは永続性であり,その基本はすべての世代がつながりを持つことです。そのことによって世代交代が円滑に進みます。人が生きていく縁は文化と総称されますが,それは世代間に受け継がれていくものです。新興住宅地で見られる危惧は,同世代の人が集まるために,数十年すると高齢者地域になってしまうということです。地域にとって最も大事な年齢構成の多様さを失っているからです。現在の暮らしを豊かにしてくれるものは文明ですが,それは若い世代が地域に持ち込んでくれます。世代のつながりを保てば,そこに人が生きる文化が息づくことになります。地域が必要となる最大の理由です。

 ○地域はどうすれば生きるのか?
 地域は生かされるものではなく,自ら生きるものです。行政による支援である「公助」は必要ですが,行政にオンブにダッコをするのは間違っています。社会を動かしている大多数の大人にとって,地域に住むという意識は希薄になっています。「自助」する上で地域とは無関係な方が都合がいいということかもしれません。しかしながら,家族という単位を想定すると,高齢者や子どもが生きることを考えざるを得ません。そこには助け合いという「共助」の必要性が存在しています。地域という概念が福祉関係や教育関係の目標に現れてきたのは必然です。家族の幸せはどうすれば得られるか,その問題意識を共通にすることが出発点になります。

(2006年10月27日)