*****《ある町の社会教育委員のメモ》*****

【生涯学習研修会のあり方?】


 平成15年11月に教育委員会が教育問題審議会に「生涯学習推進方策について」という諮問を行い,17年3月に【答申】を受けました。そこでは方向付けが示されているのですが,その後具体的な計画立案にまでは至っていません。組織の硬直がある以上,何を期待しても詮無いことと諦めざるを得ません。答申では,その点を配慮して,首長関連部局の参画を提起しておきましたが,一顧だにされていません。結果として,社会教育委員の会にお鉢が回って来ることになりました。
 平成18年度になって,教育委員会から「生涯学習推進計画書等の策定について」諮問を受けました。その一項に「生涯学習研修会の在り方」という課題が与えられました。生涯学習の推進が目に見えてこないという状況判断があるのでしょう。生涯学習推進本部が首長をトップに組織化されていながら,実務は教育委員会に任されており,行政全分野の参画がはかばかしくないために,生涯学習の理念が生かされていないという実状があります。

 生涯学習推進計画の審議は,取りあえず「生涯学習研修会の在り方」から始めることにしました。この研修会がメインの事業であり,その在り方について共通理解を図ることが,基礎的な推進の力を生み出すものと考えられるからです。
 わが町では生涯学習研修会という行事が行われています。平成3年4月に文部省から「生涯学習モデル町」の指定を受けたことを契機に,「生涯学習推進本部」及び「生涯学習推進委員会」が組織され,メイン事業としての「生涯学習研修会」が始まりました。新規事業を年間行事に追加することは日程的に無理であることから,それまで「社会教育関係団体研修会」として行われていた事業の衣替えという形で実施されました。
 3年間の指定期間を過ぎて,研修会の形式は分散会による討議,パネルディスカッションと3年続き,平成9年からは講演が主体になりました。その間,団体活動の発表という講話も取り入れてきました。
 ところで,この研修会では,社会教育関係団体研修会の時代から,毎年度ごとの「社会教育計画」の配布と社会教育委員による説明が必ず行われています。生涯学習研修会の中で社会教育計画の説明というのも一見ミスマッチの感がありますが,この慣例は意図的なものではなかったのでしょう。ただよく考えてみると,案外的を射ているのかもしれません。

 現時点で生涯学習研修会に期待されている事項を整理しておくことにします。協議のポイントを明確にするためです。

 ○生涯学習研修会には誰が参加するのですか?
 現時点では,各団体及び行政自治組織に対して動員要請が出されて,参加者を集めています。半ば強制的に集められた参加者に,生涯学習の啓発がどの程度伝わるのかは見計らえません。ヤレヤレお役目が終わったと帰宅する途中で,ほとんどが置き忘れられるでしょう。そんな現実的な判断が可能です。
 生涯学習の推進という研修会の目的に着目すると,住民に対して生涯学習の機会を提供すべき立場にある指導者が主役となります。もちろん,一般住民も対象に入れるべきという考え方もありますが,実のところ,その研修の機会は青少年健全育成関係,人権啓発関係,文化祭,健康フェスティバル等とより具体的な目的を持って実施されており,住民のための研修機会は他に無いわけでもありません。
 指導者としての研修機会が実施されていないという現状の方を優先すべきです。したがって,前身である社会教育関係団体研修会に準じた形に戻すということが,現段階では適切であると判断されます。

 ○生涯学習研修会はどんな場なのですか?
 研修会は推進の核となる指導者を育成・支援する場となることが大切です。生涯学習の多様さを真面目に考えると,指導者には過大な責務がかぶさりかねませんが,生涯学習は学習者が主体であり,学びたいことを自発的に学ぶものであるので,指導者の関わりはそれほど重くはありません。もちろん,学ぶ意欲を育てる環境づくりは指導者が考えなければなりません。
 指導者は統括する組織や団体に対して責任を負う者であり,孤独な一面を持ちます。同じ立場の者が集うことで,気持ちの分かち合いができ,共感できることを見つけ合い,ものによっては助け合うという可能性も生まれます。活動の連携や協働により,学習活動の深化に向けた方策を見つけることも期待されます。指導者が連帯できる場を持つことは,指導者にとっては大きな支援になります。

 ○生涯学習研修会はいつ開催されるのですか?
 従来は6月に生涯学習研修会が開催されていました。社会教育関係団体研修会の流れを踏襲していたということです。各団体の総会が終わって新年度の事業活動が始まろうとする時期が選ばれたものと推察されます。この場合には,事業計画が総会で承認された後なので,新しい事業の導入は困難ですが,予定事業の効果的な運用については,団体指導者に新機軸を提案することは可能です。従来のものに少しの手を入れることは,それほど重荷にはならないでしょう。
 次年度の計画が策定されようとする年度末に開催するということも考えられます。その場合には,新年度の計画に新しい事業を盛り込むこともできます。しかしながら,団体活動の現状を概観するところ,いきなり新事業を持ち込むのは指導者にとってはかなりの負担になると思われます。現状のゆったりとした修正という進め方が妥当でしょう。特に,団体の指導者には任期という規定が働き,交代が頻繁に起こるという事情があって,組織運営の不連続性がネックになります。
 生涯学習研修会を組織運営のくびきから解き放ち別の時期に持ち込むとすれば,一つの可能性として現在8月に実施している「社会教育関係団体等連絡会」を再構成するということがあげられます。実のところこの連絡会は,数年前から各団体代表による分散会でテーマを決めて協議を進めるという形式をとっています。これをより発展させて,団体指導者の研修という形での生涯学習研修会とすることができます。ただし,研修となれば最低3〜4時間は必要なので,開催時間を夜間の連絡会から昼間の研修会に変更することが必要になります。

 ○生涯学習研修会は何をもたらすのですか?
 研修会は参会者が現状の問題を解決する方策を得るという目標を持っているはずです。そのためには,直面する課題を整理し,基本的な解決の道筋を分析し,可能な対処を考案することが必要になります。
 課題には,活動推進上の課題が一般に意識されますが,指導する立場に付随する運営上の課題もあります。実業関係の活動では営利という共通の尺度がありますが,生涯学習・社会教育活動においては,多様な価値尺度が混在し,状況判断が難しくなります。
 例えば,何らかの行事を開催する場合,参加者数という評価が行われます。よいことをしているのに参加数が低迷するという現実に直面します。だからといって,面白く楽しい面を打ち出して参加者数を増やしても,何のためにという目標が薄められてしまいます。指導者が「優先すべき評価尺度」を共通理解するための研修が大事になります。
 また,社会教育の役割は,必要課題を提示し取組を促すことにありますが,それは概して楽しいものではありません。一気呵成に事を成し遂げようと焦らずに,一歩一歩の進捗を目指すしかありません。そのためには,「継続性」が必要であり,中長期の運営を可能にする計画が求められます。
 指導者としてなすべきことがあれこれとありますが,そのことを共に学び合うことで,指導者の資質を向上させることが期待されます。

 ○生涯学習研修会は何故必要なのですか?
 生涯学習研修会の目的は,「生涯学習によるまちづくり」にあります。それは実施主体である行政によるまちづくりではなく,学習者自らが参画するまちづくりでなければなりません。ともすれば生涯学習は学習者の自主性に委ねられてしまいますが,私的な学習を積み上げても,まちづくりには到達しません。個々の学習を連携すると同時に,「私たちの学習」というテーマを加わえる必要があります。そこに社会教育計画が説明される理由があります。学習者に直結する地域の課題を総合的な学習により解決することが社会教育の本来の姿だからです。
 生涯学習と社会教育は,それぞれ独立しているものではなく,また互いに置き換わるものでもありません。実は,二つが一つのものと考えるべきものです。両立し補完し合うものなのです。社会教育だけでは住民が受け身に置かれます。生涯学習だけでは混沌が生まれます。互いが手をつなぐことで,まちづくりという学習の方向性が定まってきます。
 生涯学習研修会は,住民による生涯学習活動への支援体制に社会教育からの学習テーマを提示し,まちづくりに向けた動きを誘発するための大切な機会となります。この機能が支援体制に備わることによって,学習者にとって大切な学びを提供できるシステムができあがります。直接には指導者の研修会であるのですが,その効果は学習者に現れてくるはずです。

 ○生涯学習研修会はどう開けばいいのですか?
 限られた時間という制約の中では,研修の内容を厳選せざるを得ません。その内容にふさわしい研修の仕方が採用されることになりますし,研修を進めるスタッフも必要になります。実のところ,単発の研修ではそれほど多くを期待することはできませんので,毎年の計画的継続という積み上げを考えておくようにします。
 研修のテーマはなるべく共通の課題から入るようにします。総論は受け入れやすいからです。研修が進展して行くに従い,具体的個別の各論については分散会形式が採用されることになります。

 テーマの例示
 ○運営研修
 ・広報の発行:編集技術。レイアウト。構成。読んでもらえるためには・・・
 ・連絡:文書の書き方。
 ・会議の開き方:議案の設定。資料の準備。
 ・記録の取り方:文書整理。引き継ぎ。会計簿。
 ・講師の選定:講師情報。
 ○事業研修
 ・日程選択:年間計画。
 ・研修内容:課題選択。
 ・要員確保:スタッフ。
 ・連携協力:諸団体・機関。

 研修はできるだけ実践的なものにした方がいいでしょう。指導者はそれなりに実社会で経験している方ですが,組織的な運営に全員が堪能であるとは限りません。生涯学習・社会教育においては,一般社会とは違って明確な指針が立てにくいために,成果が見えにくいという難しさがあります。その辺りの感覚に馴染んでもらうことも大切でしょう。
 いくつかの選択肢を提示して,指導者として何が課題であるかを気付いてもらいながら,研修テーマを策定するという手続も考えられます。そうすることで,自分たちの研修という意識を醸し出せたら,参画することが実現できるはずです。

 生涯学習研修会をどのように位置付けながら開催していくか,教育委員とも話し合う機会が持たれているので,さらに考えていこうと思っています。以降の展開については,改めて【追記】することにします。

(2006年12月04日)