*****《ある町の社会教育委員のメモ》*****

【研修発表への準備?(その1)】

 19年度ブロック社会教育委員研修会の分科会で秋に発表をすることになりました。どのような内容の活動を提案するか決めなければなりません。自らの活動を自己評価する機会を与えられたということです。
 発表は何らかの事業展開が事例として提供されるのが通常のスタイルです。このような事業が実践できましたという提案です。しかしながら,具体的な事業をしていないので,そのような提案はできません。発表のための事業をするというのも感心しません。必然的な流れの上に登場する事業であることが大事です。
 発表の機会を契機として,委員の活動を一歩進めることを考えることにします。社会教育委員の研修会であるということを念頭に置けば,他団体による通常の社会教育関連事業を持ち出すのは適当ではありません。委員の主体的な活動が見えるものでなければ意味がないのです。

 委員の会では,従来「社会教育計画書」の案を作成し,教育委員会へ提案してきました。年度終わりには計画の進捗を社会教育関係の行政職員と共に反省評価し,次年度の計画に反映するという手続きを踏んでいます。社会教育の大きな目標は町全体の活動の方向付けであり,その指針を社会教育計画書として示す役割を委員は担っています。各団体や機関が実践している個別の具体的活動を統合する枠組みがなければ,まちづくりという効果は現れません。

 そのような委員活動の構造を踏まえて,発表の筋書きを描いてみましょう。
1.社会教育計画書には,その年度の重点目標が各分野ごとにまとめて掲げられています。各分野でさまざまに行われている活動を一層充実させる一方で,それぞれの活動を動かしていく目標を設定することで,活動のうねりを生み出そうとするためです。
 ところで,実際上,このような計画書における意図が十分に各活動団体や機関に理解されているかというと,肯定しかねる感があります。教育は形ではなく意識のような見えない部分の向上を目指すものであるために,効果がはっきりと把握できないという面もあります。その弱点を補うために,数値で表すことのできる目標を設定するという方策も必要になります。しかし,その実行には指標となる数値を常に測定し集積する地道な作業が求められますが,その体制ができていない現実があります。

2.重点目標の実現に向けて,実践者としては位置づけられていない社会教育委員でも,傍観者に止まることなく,何らかの支援をすることは可能です。重点目標に向けた活動を企画し各団体や組織を巻き込んでいく事業を目論むこともできるでしょう。社会教育計画書を策定した責任の一端を担うことにもなります。

3.町民のすべてが関わりを持っている「青少年育成」についての重点目標を取り上げてみます。この分野については,社会教育委員も全員で対応するように委員組織を作り上げているという背景があります。
 重点目標は,「子育てに関するアピールをまとめて,広く周知を図ります」と掲げられています。町では「○○○の子ども」を育てることを目指していますが,では,どんな子どもなのかという目標が共通理解されてはいません。小中学校ごとに独自の目指す子ども像が設定されているのが現状です。家庭や地域では,意識的な育成のイメージがほとんどありません。家庭・学校・地域の連携を標榜するのであれば,共通のイメージを持つことは必須のはずです。
 このような現状の中で,昨年政府の再チャレンジ推進会議から「社会人12の基礎力」という提言が打ち出されました。子どもの育成の先には社会人がいることを考えれば,この提言は育成像とも連結されるものと見なすことができます。もちろんそのままの形で適用するのではなく,子どもとして目指していく「子ども12の基礎力」を新たに考える活動を始めることとしました。結果として社会人の基礎力につながることは十分にあり得ることですが,自分たちで考えるというプロセスを経ることによって目の前にいる子どものための提言ができるものと信じます。

4.12の基礎力をどのように選んでいくか,その作業過程を組み上げておく必要があります。
(1) 最も大事なことは,12という数の意味づけです。あれこれ並べてみて,12程度に選んでみたといういい加減なことでは,説得力は備わりません。12という区分けの意味が必要です。この点については,別項(参照)で述べていますので,ここでは割愛します。とにかく12の区分構造を意識して選択作業を進めることにします。

(2) 基礎力を選ぶに当たり,思いつく基礎力を列挙することから始めます。基礎力ですので,「○○する力」という表現に限定することにします。社会人の基礎力では,例えば「主体性」といった基礎力の表記もあり,そうなる事情も仕方のないことですが,子どもには分かりづらいので避けることにします。

(3) 基礎力の候補を,思いつくのは誰にするか,という次の課題があります。社会教育委員が関与する事業として,「社会教育関係団体等連絡会議」という年間2回の会議を開催しています。従来,8月の会議では,各団体より3名の出席で,3分散会に分かれて,3つのテーマに沿った意見交換を実施してきました。年代の違いや活動領域の違う指導者たちが,まちづくりに向けた自由な意見交換をする機会になっています。その会議にテーマとして子どもの育ちの「○○する力」を自由に思いついてもらうことにします。時間が十分ではないので,まとめは気にせず,思いつく限りの基礎力候補を推薦してもらうことに止めます。
 多くの方に参加していただくという方法もありますが,第1段階として,指導者からの推薦で十分である思われます。同時に,すべての社会教育関係団体の他に,この会議には教育委員,社会教育委員も全員参加しているので,しかるべき方々から意見を集めるという要件がそれなりに適うことにもなります。

(4) 会議の運営については,工夫が必要になります。3分散会で同じテーマの意見聴取をすると,重複が出てきます。思いつくことは誰でも同じという面があるからです。会議の効率を考えると,3つのテーマを掲げることが必要になります。実は,社会人12の基礎力は大きく3つの分野に区分けされています。「前に踏み出す力(アクション)」,「考え抜く力(シンキング)」,「チームで働く力(チームワーク)」となっています。そこで,この3つの分野と分散会をリンクして,意見徴収をすることも可能です。そうするかどうか,もっとふさわしい分野分けが必要か,検討してみます。
 分散会は,社会教育委員が分担して司会することになっていますので,それなりの誘導や進行が可能です。しかしながら,実際には,分野分けが功を奏すか不安があります。趣旨の理解が急に短時間の中ではそれほど簡単ではないと思われるからです。もう少し準備手順を考えてみる必要がありそうです。

(5) 分散会で推薦された基礎力の候補を整理する作業が,続きます。それは社会教育委員の会で協議することにします。その上で,整理された基礎力を,育成に関わる関係者に再度提示して意見をうかがい,練り上げていく確認作業を進めます。

(6) 12月には,社会教育委員と教育委員の合同会議を定例として開催しています。その席で,社会教育委員の会から教育委員会への提案として,「子ども12の基礎力」のアピールの実現に向けた協議を進めたいと考えています。
 提案は,「子ども12の基礎力」を列記した文書を提出するだけでは済みません。もちろん,その趣旨や協議過程,なにより12の基礎力の構成を意味づける論理の提示も必要です。その上で,学校で,家庭で,地域で,どのように生かすことができるかという具体的な実践策を例示することが不可欠となります。健全育成の諸活動が「12の基礎力」のどの部分に当たるのか,しっかりと意識してもらわなければ,生かされないからです。どのような形で町民にアピールするか,ビラや冊子の配布をするか,説明の機会を設定するか,あるいは,推進のための委員会を立ち上げるべきか,という熱意の段階に応じた取組の仕方が想定されます。
 社会教育委員としてできる活動はそこまでです。後のことは教育委員会に任されます。


 通常の活動範囲の中で委員として可能な活動をして,その経過を研修会では事例発表してみようと考えています。皆の賛同が得られるか,まず身内委員に対して提案することから始めなければなりません。

(2007年06月07日)