*****《ある町の社会教育委員のメモ》*****

【意味のある学び?】

 月刊「社会教育」の2009年1月号を読んでいて,一つの指針を思い起こしました。発達心理学から社会教育を考えた論考で,意味のある目標の設定という一文です。社会教育は人間の成熟と切り離せないものであり,成熟に呼応した目標を設定するという課題があるということです。社会教育における成人の学習を想定する場合,発達段階というライフステージ毎に,学習者が意味のある目標を学習に見いだしていることが必須となります。若年の成人では,その意味はキャリアでの成功のような外に出てつかむものであり,年配になると,関心は変化を受容する能力といったより内向きになるという傾向が見られます。
 成人期のライフスパンを,前期成人期(25歳〜34歳),中期成人期(35歳〜54歳),後期成人期(55歳〜65歳),後後期成人期(70歳〜84歳),最・後期成人期(85歳〜105歳)と区分されています。66歳〜69歳が抜けているのが気になりますが,それぞれの成人期ごとにどのような意味のある目標を設定できるかが宿題になっています。
 かつて,生涯学習推進のための答申を書いたときに,ライフステージに区分けして学習課題を設定することを提案したことがあります。そのときの提案背景は,上記のような発達段階という規準ではなく,世代による生活・暮らしのありようを想定していました。独身から夫婦,親子,核家族,定年といった生活スタイルを想定した区分けをしました。
 環境の中で生きるというライフスタイルと,個人の成熟に絞ったライフスパンとは,違う区分けであることは確かです。それでも,人は環境に適応するために学習をすると考えることができるなら,学習という面に限定すれば,学習課題について違いは大きくはないと思われます。いずれにしても,誰のための学びか,何のための学びかという視点をきっちりとしておくことが,学習課題を設定する場合に大事となります。
 生涯を通じて必要なときに学ぶという生涯学習の機会設定については,世代ごとの区分けは学習内容の整理に役に立ちます。ところで,社会教育という立場になると,学習内容の前倒しということを考えなければなりません。教育は未来を見ているということです。明日のために準備をしておく活動であるということです。ライフとはつながっているものであり,常に先に進んでいきます。生涯を予習するという学びが,社会教育の大切な役割です。
 学習や教育という人間の能力の発達支援は,生涯を見渡した学習カリキュラムに沿って行われることが望まれます。基礎から応用までという世代にまたがる学習機会を想定する必要があります。時間軸に沿った学習体系の構築です。もちろん,社会的な暮らしの区分である空間軸に沿った体系も考えなければなりません。専門的な学習深化軸です。これについては,学習分野の多様性ということで既にできあがっていますが,時間軸との交わりについてはほとんど手つかずの状態です。計画書を策定する際に,全体のバランスを推し量る目安として,忘れてはならないことです。

(2009年01月05日)