back to top page/back to ホンの感想
ちょこっとした感想を「日記のフリ」のほうに書くこともあるので、そちらもどうぞ
*内容紹介(裏表紙より)
秘密の抜穴と謎の電話、そして暗闇に突き出た毒塗りナイフと一匹のネコ・・・・・・引越し早々起きた連続殺人事件に、推理小説ファンの兄と私は積極的に巻き込まれた--素人探偵兄妹の鮮やかな推理をリズミカルな筆致でさらりと描き、日本のクリスティと称されて今日の推理小説ブームの端緒となった江戸川乱歩賞受賞作。
*感想
整理されている。読みながら、そして読み終えて、そう思った。ちょっとした気まぐれでしたことが、あとで効いてくる、いわゆる伏線がきれい。いろいろな「事実」に対しては、案外あっさり扱っているので、もっと深いところまで書き込んでしまっても面白かったろうに、と物足りなさもある。でも、こういう仕上げにしたのは、この人の持ち味なのかもしれないとも思う。
兄妹探偵が、犯人の扱いに対して悩むのもいい。結末も、きちんと私の好みです。
「明快なことを言うね、天気が変るぜ」・・・不思議となんか残ったぞ。
1999/4/2
中山可穂『サグラダ・ファミリア[聖家族]』朝日新聞社 1998
*内容紹介(帯裏より)
人を愛することを拒絶する孤独なピアニスト、石狩響子が初めて恋をした。相手はフリーのルポライター、成島透子。透子は子供を産むことを提案し家庭的な愛を求めるが、響子は拒み二人は別れる。二年後、響子の前に現われた透子は赤ん坊の桐人を連れていた。子供嫌いのピアニストと子持ちのルポライターの共同生活が始まるかと思われたが、透子は突然の交通事故で亡くなる。残された桐人を抱きしめ絶望に沈む響子のもとに、桐人の父親の恋人と名乗る若い男が現われた--。
*感想
物語の中の文章に、あまりにも惹かれたままそれを読み終えてしまうと、感想を書くときにものすごく途方に暮れる。気に入った言葉を羅列してみても、多すぎるから、ただのまぬけになってしまうのが、目に見えている。清と濁、聖と俗、天国と地獄、栄光と絶望、静と動・・・正しい反対語なんて知らないよ、でも、イメージが対立する二つの言葉が物語の中に、ある。
ああどうしよう困ったな。
ガリは、愛情を注がれるとすごく不安になるみたい。不器用で、動けない人。周りの人が、アンテナ感度良好なんだ。彼女の静かな情熱を、ちゃんと見通してる気がする。
始まったのは今だけれど、全ての始まりは今じゃあない。言ってしまえば、彼女の死でもってガリのピアノの再生は始まったんじゃないかと思う。透子の染み付いたピアノは、透子とともに一回死んで、死を通過して、再生したのだと思う。
p.161最後の照ちゃんの言葉。こんなシンプルなことなのに、言葉で言われると違うだろうな、きっと。
物語読みながら、何度も胸の中で叫んでた気がする。めぐりあえたことに感謝。
1999/4/5
村山由佳『雪の降る音 おいしいコーヒーのいれ方W』集英社ジャンブジェイブックス 1999
*感想
惰性なのかもしれない、と思いながらも、村山由佳は最初から読んでいる。ほんとのこと言うと、この「おいしいコーヒーの入れ方シリーズ」と『天使の卵』以外、何も覚えてない。このシリーズは、今どき珍しいほどの純粋さが身悶えするほどなんだけど、単行本で出しているものよりも、なぜか私は気に入ってる。そういう人が多いのか、このシリーズのほうが単行本より売れてるようにも思う。
素直なものには、太刀打ちできない、と感じるねえ。毎度のことながら。素直はかなり強力な武器になると思う。
著者自身があとがきでも書いているけれど、今回は、かれんが少ししっかりしてくる。男から見れば、ぽわぽわしていて欲しいというのもわかる。でも、ちゃんと自分の意見を言えるようなかれんのほうが、絶対良いよ。あとがきに書かれている恋愛に対する考えは、私も全く同感。
しかし、もどかしいな、この2人ってば。今のところ、この2人よりもどかしいカップルを私は知らないぞ。
1999/4/8
*内容紹介(『サグラダ・ファミリア』巻末の広告による)
天使の骨ぼろぼろの天使に導かれ、あてのない旅に出たミチル。日本を離れ、イスタンブールからパリへ。どこまでも彼女に付きまとい増殖をつづける天使たちは、果たして再生へのメッセージか、それとも死への誘いか!?
*感想
なにも考えずに旅に出て、なにも考えたくないから旅に出て、結局これからの自分を発見できてしまった人の物語。求めなかったから、手に入ってしまったものなのかもしれない。
彼女の場合、旅は非日常だったかもしれないけど、旅に何かを求めるなんて私にはできない。ただ、「そこへ行きたい」それだけなんだな。旅に出たから自分が変わるとか、自分を見つけられそうだとか、旅に依存してどーすんの、って感じ。結局そういうのが受け身なんじゃないか。
天使は死への誘いというよりは、死そのもののように思う。でも天使がいなきゃ、彼女は多分死んでいた。矛盾するようだけど。
中に出てくるバックパッカーの老婦人のエピソード。それは、沢木耕太郎の 『彼らの流儀』 の中の話の一つを思い出させる。
前作の続編にあたる。だから、前作 『猫背の王子』 を読んでみたら、もっとなるほどと思える物語なのかも、と思う。
1999/4/9
*感想
杉田かおるの告白自伝。子供のころから芸能界にいたからこうなったのか、もともとそういう子だから芸能界でやっていけたのか。しかし、強いなあ。TV
『踊る さんま御殿』の何人かのゲストの中に、杉田かおると吉野紗香も出ていた。ぶっとびの吉野紗香にして「杉田さんは、すごい。姫だ。憧れる。かっこいい」と言わしめた杉田かおる。本の中にも「トーク番組なんかに出たらすぐに地が出るからだめ」と言われた、と書かれてたけれど、確かに発言にインパクトがある。それも、この本を読めばなるほど納得なんだなあ。
1999/4/15
小野谷敦『もてない男 -恋愛論を超えて』ちくま新書 1999
*内容紹介(表紙折り返しより)
歌謡曲やトレンディドラマは、恋愛するのは当たり前のように騒ぎ立て、町には手を絡めた恋人たちが闊歩する。こういう時代に「もてない」ということは恥ずべきことなのだろうか?
本書では「もてない男」の視点から、文学作品や漫画の言説を手がかりに、童貞喪失、嫉妬、強姦、夫婦のあり方に至るまでをみつめなおす。これまでの恋愛論がたどり着けなかった新境地を見事に展開した渾身の一冊。
*感想
電車の中では案外読みにくかった本。加えて、あまり面白くなかった。というより、「評論」として読むには、著者が入りすぎてると思ったので。あとがきには「エッセイであると答えたい」と書いてあった。だけど、いろんな本や漫画の紹介や人物のエピソードを掲げた後にちょこっと意見が出る程度。
副題は、「ブックガイド風に」のほうがいいんじゃないか?
目次を見てもわかるとおり、行動面に対しての考察が多いような気がした。エッセイだったら、例えば片思いの時、著者がどういう精神状態で何をどう思ってるとか、そういう精神面での「吐露」を書いてくれたほうがよっぽど面白かった。それこそ、ロラン・バルトの 『恋愛のディスクール』 みたいに。「論」と「エッセイ」の中間、どっちつかずな感じが否めない。
「吐露」もあるにはある。それが、媚びてはないけど、卑屈でそのくせ開き直ってて、なにが言いたいのだか、いまいちわからない。「自分はこういう人間なのに(あるいは、これならもてると思ってやってみたけど)、どうしてもてないのだろう」、って。反面、「どうせ自分はこうなのさ。それの何が悪い」風なのとか。その、「これならもてるだろう」っていうのに対して、「それでもてると思ってたぁ?」と、つっこみたくなったり。
「何が悪い」というあまりにも開き直った表現には、自分は自分を肯定してるって感じがないんだよ。「そういう自分も好きだ」というのと違うと思う。「何が悪い」っていう人より、「それでも、こんな自分が好きだ」という物言いをする人のほうが、私は好ましく思う。自分を自分で肯定しないで、他人が肯定するわけないじゃん。
「(両思いもいいけれど)、片思いも悪くない」程度のほうが、”さわやか”で良かったのに。でも、私怨で書いているってことだから、それじゃあ嘘になっちゃうか。なにをそんなに怒ってるのさって、ちょっと脱力。
男の人に読んでもらって、感想を聞いてみたいです。
1999/4/17
*感想
『天使の骨』の前作にあたります。ゆっくり内側から崩れてくような話。『天使の骨』
では一応「再生」を扱っているので、こちらは再生前に必要な、破滅づくりですね。
『猫背の王子』を初めて読んで、果たして次に (続編と知っても)『天使の骨』 を読んだかどうかは疑問です。3冊の小説のうち、新しいものから読んだのは、正解だったかもしれません。
1999/4/17
篠田真由美『桜闇 建築探偵桜井京介の事件簿』講談社ノベルス 1999
*内容紹介
これまで「メフィスト」などに発表した、桜井京介ものの短編7つに書き下ろし3つを加えた短編集。
*収録作品
「ウシュクダラのエンジェル」「井戸の中の悪魔」「塔の中の姫君」「捻れた塔の冒険」「迷宮に死者は棲む」「永遠(とわ)を巡る螺旋」「オフィーリア、翔んだ」「神代宗の決断と憂鬱」「君の名は空の色」「桜闇」
*感想
「二重螺旋」ものが4つ入っている。建物の構造を頭に入れるのに苦労して読んだけれど、それは味付けなんだろうと思う。題材にはなっても、物語はその謎解きが全てではない。書き下ろしの3つは、番外編の色が濃く、年表を見てもわかるとおり、建築探偵シリーズ第一部終了時点から過去を振り返ってという感じ。
第二部に入る前に読むには、ちょうどいい短編集だったのかも、と思う。京介たちの「苦しんでいる様子がない」のが、気分的には楽でもあり、物足りなくもある、かな。建築探偵シリーズを読んだことがなくても読めるし、逆に、読んでいるうちに出てくる登場人物の謎に興味を持ったならば、最初から読んでみようと思うのかもしれないね。
1999/4/25
シビル・ラカン 永田千奈訳『ある父親
puzzle』晶文社 1998
Sibylle Lacan, UN PE'RE, PUZZLE, 1994
*内容紹介(表紙折り返しより)
「ジャック・ラカンはわたしにとってどんな父親だったのか」
死の床に立ちあうのを許されなかった娘が、数年後、<パズル>の断片を集めるように記憶をたぐりよせる。
*感想
シビル・ラカンがジャック・ラカンの娘じゃなかったら、読まなかったと思う。読み終わっても、ジャック・ラカンも男で、父で、つまりは普通の人間で、その普通の人間に対して、普通の娘が普通に感じたことを書いたって感じだったな。
そういう環境にいたんだったら、感じたであろうことが、綴られている、ただそれだけに思う。
1999/4/25