最終更新2003年1月27日
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梶井厚志『戦略的思考の技術―ゲーム理論を実践する―』中公新書,pp1〜276 |
タイトルを見て,「戦略的思考が不得手とされる日本人が,いかに戦略思考を獲得するか」という硬派な本を予想していたのだが,実際の中身は「日常生活のちょっとしたことをゲーム理論で説明するとこんな感じです」というもの。 |
岡山勇一・戸澤健次『サッチャーの遺産―1990年代の英国に何が起こっていたのか―』晃洋書房2001年,pp1〜208 |
「サッチャリズム」とはあまりにも有名な言葉だが,これが90年代にどのように継承され,あるいは放棄され,改革されたのかを検討するのが本書の課題。サッチャー退陣のあと,メイジャー,ブレアの2人が首相となっているが(余談だが,同時期に日本は何人が首相になったのだろう?),特に労働党のブレアがサッチャリズムを継承しているのか否かにスポットが当たっている(メイジャーは何もできずに終わったこともあり)。 |
三戸公『現代の学としての経営学』文眞堂1997年,pp1〜228 |
マルクス,ウェーバーからバーナード,ドラッカーに至るまで,経営学を体系的に捉え,かつ批判もしている。さらに「日本的経営」論を「家」の論理からも捉える。論文集でありながら1冊の本としての流れも切れない。 |
日本中小企業学会編『中小企業21世紀への展望』同友館1999年,pp1〜189 |
タイトルを見て,日本中小企業学会が総力を挙げて21世紀の中小企業のあり方を考える,という内容を期待して注文をしたのだが,その中身は1998年の学会大会の報告集であった。つまらないというわけではないが,本全体としての統一性に欠ける感は否めない。 |
佐藤俊夫『イギリス農業経営史論―保護農政復活への軌跡―』農林統計協会1993年,pp1〜179 |
18〜19世紀にかけての「農業革命」「ノーフォーク農法」「ハイ・ファーミング」「農業大不況」などは高校の世界史の授業でも出てきたのでご記憶の方もいるかと思う。本書は,穀物法撤廃から19世紀末の農業大不況に至るまでの「混合農業」の展開を主たるターゲットにしており,当時の土地利用・家畜改良・肥料施肥などが詳細に分析されていると同時に,混合農業により19世紀末の農業大不況期の経済条件の変化に対応しうる経営的・技術的条件が整ったことも示している。 |
稲上毅『現代英国経営事情』日本労働研究機構1997年,pp1〜299 |
英国企業にどういうイメージをお持ちだろうか。金融はよしとしても製造業はダメ。労使対立が激しく,経営は非効率的,国際競争力がない。これが自分のイメージである。本書はそれを覆すものではないが(笑),英国の企業経営をめぐる状況を詳しく分析している。そのキーワードは,金融と産業の亀裂・興業銀行の不在(日本のような銀行を中心とした企業グループがないし,政策的に産業を育成するためのファイナンスもない),短期的経営(長期的視点からの投資を避け,賃金カットなど短期で利益が出る経営判断を優先),企業間関係および雇用関係の「短期主義」(企業間の取引はスポットが多く長期的関係が構築されない。従業員の定着率も悪くすぐやめる),職業訓練機会の不足(企業は従業員教育へ投資しない)などである。 |
平岡祥孝『英国ミルク・マーケティングボード研究』大明堂2000年,pp1〜230 |
自分が滞在している英国南西部は畜産地帯であり,酪農も盛んである。英国酪農といえばかつてミルク・マーケティングボード(MMB)というある種の生産者団体があり,これが生乳の生産・流通を一元管理していたことが有名である。もっとも,MMBは93年に解散し,ミルクマーク(MM)という協同組合組織に再編された後,これも分割・解散して現在はMMBに相当する団体はなくなっている。しかし,MMBを知らずして今の英国酪農は語れないだろう。 |
関満博『地域産業の未来―21世紀型中小企業の戦略―』有斐閣選書2001年,pp1〜246 |
題名の通り,21世紀の中小企業のあり方について書かれた本。学術書というよりは,中小企業経営者およびその関係者向けに書かれている。 そのキーワードは「Global」と「Local」である。特に目新しいものではないが,現状では「Global」に注目が集まりすぎ,「Local」の視点が足りない,これからの中小企業は「Local」の視点を重視すべきという筆者の問題意識がある。 本書を通じて感じるのは,中小企業と農業を取り巻く状況が,驚くほど似ていることである。新旧基本法(農業基本法と中小企業基本法)が制定されたのもほぼ同じタイミングであるし,「インキュベーター」などの地域産業支援施策もそっくりである。もっとも,このことは中山間地域(条件不利地域)研究者なら自明であろうが,農業を意識せずに書かれた本なので,新鮮な驚きであった。 筆者は,地域への「思い」を強調している。「思い」が大事であることは確かだろうが,「思い」だけでは如何ともし難いのも事実であろう。「思い」をいかに形にしていくか,ここに学術研究が貢献できる余地がある。 |