本車と側車


 サイドカーという言葉はその本来の意味は側車の事ですが、現在では本車に側車が取り付けられた物全体を指す場合が多いようです。
側車という言葉でも全体を指す事もあります。
側車の内その車体部分をボートあるいは舟と言います。
本車と側車との一対の組み合わせの事をコンビネーションといいます。
側車の付いていないオートバイを単車またはソロといいます。

 陽明門ではありません

左側車と右側車

 左側車を左カーあるいは右ハンドル、右側車を右カーあるいは左ハンドルと言います。

 
左側車 料金所、給油などで都合が良い。
左下がりの路肩にあっている。(特に路肩が弱い場合に安心)
駐車など、取り回しが楽。押しながらブレーキが操作できる。
側車側に曲がりきれなかった時に逃げ場がある。
右側車 Uターンがしやすい。(右回りの回転半径が小さい)
高速道路の右車線で前方の見通しが効く。
K1100RSなど左マフラー車に合う。
 
 日本国内での使用を考えた場合には左側車のほうが何かと便利です。
サイドカークラブのツーリングなどで細い山道を走るという事がありますが、路肩が下がっていてしかも弱そうな時には、右側車ではかなり恐い思いをするようです。

 初心者の頃に多いのは、側車を何かにぶつけるという事と、側車側に曲がりきれずにコースアウトすると言う事です。(SC3サイドカーの面白さ参照)
この点から考えると、左側車のほうが初心者には向いていると言えるでしょう。

 サイドカーの取り回しの際は片手でハンドル、もう一方の手でリアのグリップバーを持ちますが、左側車の場合にはその状態でフットブレーキを足で操作できますからこれも便利です。(右側車の場合バックさせたらそこが下り坂になっていてサイドカーがそのまま落ちて行ってしまったなどという事にもなりかねません)

なおバックさせながらブレーキを掛ける場合には、フロントブレーキを掛けると、バックの場合には負のトレールとなっていますからハンドルを取られるという事もあります。(下り坂では要注意です)

 Uターンは右側車のほうが側車幅の分だけ回転半径が小さくなります。
従って、左側車で狭い道でUターンをする時には、あらかじめ右側に寄っておいて左回りでUターンします。
あらかじめ右に寄っておき、ハンドルを左に一杯に切って側車をふわっと浮き上がらせて回ります。(これを青山のウェルカムプラザの駐車場でやりウェルカムレディーに大喜びされた事もあります)
あるいはアクセルターンで本車側に回ります。

 高速道路で追い越し車線を早いスピードで走ろうとした場合には、(その事の是非はともかくとして) 右側車のほうが前方の見通しが良く都合が良いです。
左側車の場合右カーブでは右側に体重移動している事もあり、分離帯が邪魔になって前方が良く見えないと言う事があります。

本車

 まず初心者に向いたサイドカーの本車として、初めは250cc位のものの方が良い、と思われがちですが、私は初心者には馬力に余裕のある大型車の方が向いていると思います。
もちろん、ソロの大型車で十分な経験があり、スピードそのものには慣れていることが条件です。

初心者はサイドカーに慣れていませんからコーナリングスピードが遅いということが特徴です。そのため、流れに乗って走ろうとするとどうしても直線での加速に頼ります。
従って馬力に余裕のある本車でないと、常に回転をレッドゾーンに張り付かせて走る、という事になりかねません。
自動車やオートバイの場合は確かに最初は小さい物から、というのが良いと思いますが、サイドカーでは事情がかなり違うということです。

 サイドカーは昔から「エンジンの持てるパワーをフルに使って走る乗り物」とされてきましたが、これはパワーのなかった昔のサイドカーの話です。
旧型BMWの最高性能車であるR69Sは42馬力ですから、確かにキビキビと走るにはパワーをフルに使う必要があったと思います。

現代のナナハンなら初心者でもエンジンに余裕をもって走る事ができます。
これはパワーを使い切れないという事ではなく、余裕がある、従って長持ちもするという事です。
サイドカーは「一生物」ですから長持ちしてもらわないと困ります。

私のST1100サイドカーの場合、箱根の芦ノ湖スカイラインでも6,000回転以上になることは殆どありませんでした。
もちろんターンパイクの登りなどでは8,000まで回せばそれだけ速くなります。
4万キロ走りましたがエンジンは新車同様でした。

 250のサイドカーで側車付き軽二輪自動車の認定を受けるには全幅が1.3mに限定されますからトレッドがかなり小さくなり、より頻繁な体重移動が必要となります。
(ナナハンからリッター車の場合は通常全幅は1.65m位です)
側車に人を乗せれば車体は安定しますが、今度は馬力がますます不足します。

従って250のサイドカーで十分な安全性を確保しながら流れをリードして走るというのは、かなりサイドカーに慣れた人でないと無理のようの思います。
250のサイドカーは、ゆったりのんびりとサイドカーの気分を味わいながら走るのに向いているように思います。
(それはそれでもちろんサイドカーの楽しみ方の一つです。某所でラビットのサイドカーに乗っている老夫婦を見た事がありますがとても微笑ましいものでした)
なお250あるいはそれ以下のサイドカーではホイールベアリングのがたが発生しやすいようで定期的に交換する必要があります。

 次にエンジンですが、好みは別にしてサイドカーとの相性から言えば水冷のマルチが良いと思います。
サイドカーはどうしても渋滞に巻き込まれる事がありますから、空冷は(好みは別として)向いてはいません。
最初に乗ったCBX750FBサイドカーでは何度も渋滞の中でイライラさせられました。
まず精神衛生上良くありません。
特に高速道路での渋滞の時には、ちょっと止めて休ませて、という事ができません。
(1991年頃まではオートバイの路側帯走行は大目に見てもらえましたからソロの間に隠れて路側帯を走ったりしましたが)

実際に熱が原因と思われるオルタネータのコイルのパンクもあったしエンジンのダメージも大きかったと思います。
R100RSサイドカーの人で自作のクーリングシステムを付けている人もいるくらいです。
ST1100サイドカーに乗り換えてから初めて渋滞に巻き込まれた時に、クーリングファンがヒューンと回り出したときにはえも言われぬ安心感に包まれました。
現在は渋滞は殆ど気になりませんから、この違いは大きいと思います。

 マルチが良いのはもちろんパワーがあって柔軟性もあるからです。
サイドカーに向いたエンジンとしてこれも昔から、中低速の良いエンジンということが言われますが、これは2つの意味があって、ひとつは運転がし易いという事、もうひとつは中低速の良いエンジンは低い回転で走りますから耐久性が良いという事です。

この運転のし易さについては、CBX750FBの経験から高回転型のエンジンであっても運転しにくいということは全くないと言えます。
もちろんこのタイプのオートバイは大抵チェーン駆動ですから、スプロケットを変えて減速比を下げる事が前提です。

というよりも、CBX750FBの方が(中低速の良い)ST1100よりも加速の時のフィーリングがずっと良かったと思います。
6,000回転位からターボが効き出したかのようにパワーが出てくるあのフィーリングの良さというものも捨てがたい気がします。(ST1100は加速は良いのでしょうがもっさりした感じでドラマがありません)

ただし、中低速の良いエンジンのほうが長持ちする事は事実のようです。
ST1100は4万キロ走りましたがが、CBX750FBの同じ距離のときに比べてエンジンの状態はずっと良いです。
(殆ど新車同様です。もっともCBX750FBの時は技術が伴っておらず、かなり酷使したとも思いますが)

 駆動方式はチェーンドライブの場合は張りの調整を頻繁に行わないと最悪の場合片輪走行の時にチェーンが外れるという事が考えられますから、メンテナンスフリーという点ではシャフト・ドライブのほうが良いですが、一方チェーンドライブのものはスプロケットの交換で簡単に減速比を変えられるという利点もあります。

この場合、ドリブンスプロケットの歯数を増す場合には、あまり歯数を増すとチェーンが掛けられなくなると言う事がありますから注意が必要です。
スプロケットの製作はレース関係のショップに依頼しますが、ドライブスプロケットの歯数を減じる際には、強度(及び硬度)の十分な物が出来るか不安がありますから頻繁な点検が必要でしょう。
ドリブンスプロケを4丁ほど増やすのが無難なように思います。

 サイドカーのセッティングやフレームの強化はサイドカーショップの経験と勘によって行われますが、実績のある本車のほうがうまく行きやすいのは間違いの無いところです。
従ってサイドカーでの実績の多いBMW K1100RSやR100RSなどが向いているという事ができます。
ただしK1100RSの場合は左にマフラーがありますから右カーにしないと外観がおかしいかもしれません。

 サイドカーは、元気良く走ろうとした場合にはコーナーで左右に体重を移動させて走るものです。
従ってハンドルはこれに適したセミアップのものが向いています。
これは軽い前傾姿勢になる程度のものです。
ハンドルの短いものでは、アールズフォークを装着するなりして前輪のトレールを小さくしないとハンドルがとても重くて扱えないという事になります。

 サイドカーカーは高価な物ですから、一度取り付けたらできるだけ車両の寿命は長くあって欲しいものです。
そうした意味で、お金の有効な使い方といった面からは、できれば本車には新車を用いるというのがベターだと思います。
もっとも、SR500に乗っている人で、エンジンがだめになったらどこかから代わりのエンジンを持ってきて自分で乗せ換える、という人もいますが。

 またアールズフォークを付ける場合、本車に付いているブレーキキャリパーを前後左右を逆にして使うのが普通ですが、異径2ポットの物やホンダ車に付いてるハンガーピンブレーキは使えませんから新たにブレーキキャリパーを求める必要があります。
キャリパーサポートの形状をを工夫して使えるようにしている所もありますが・・・格好がどうも・・・。

 ST1100とGL1500の場合は、バンクアングルセンサーといって、車体に横Gが掛かったときに(つまりソロで転倒したときに)エンジンが自動的に停止する装置が入ってますから、これをカットしないと片輪走行のときにエンジンストップします。
普通に走っている時でも、路面のちょっとした凹凸で車体が横揺れした時にエンジンストップすることもあります。
聞くところによるとソロで走っている時でも作動する事があるみたいで、文明の利器も過ぎ足れば及ばざるが如しと言うところでしょうか。

側車

 側車を決めるということは、事実上サイドカーショップを決める事と同じ場合が多いようです。
側車には大きく分けて日本製の物と外国製の物がありますが、私の経験では(あくまでも一般論として)日本製の物の方が品質は良い傾向にあるようです。(ある外国製の物で側輪が外れ易いという事を聞いた事もあります)

 サイドカーに関しては昔から「デザインよりもメカのしっかりした物を」と言われてきました。
確かにメカがしっかりしていないとまずい事は事実ですが、しかしデザインも重要な問題です。
日本製サイドカーの中で最も多いのは太陸モータースのOHTA BMW GTU(1975年)を模した、いわゆる
GTUスタイルの物です。

 このGTUスタイルの物はサイドカーの高速化に合わせたデザインとなっており、前面投影面積を小さくして空気抵抗を少なくするためにスクリーンをかなり寝かせてあります。
そのため中に座るとあごの辺りにスクリーンの先端がきますから、ちょっと窮屈な感じがします。
従って、側車のほうに常に同乗者がいる、という場合にはスクリーンの立ったタイプのほうが良いかもしれません。最初に乗った
アベSSでは全く問題ありませんでした。

 側車の重心はできるだけ後ろにある物のほうがサイドカーのハンドリングには良い影響を与えます。
ハンドルしミーが出にくくなり、また本車側コーナリングで最悪の事態である
前転(ハイサイド)も起こりにくくなります。
ただこれはデザインとの兼ね合いで決める事でしょう。
デザインの上ではロングノーズの方がカッコいいでしょう。したがって私見としてはロングノーズのものでトランクに錘を乗せるのが良いように思います。

側輪にはたいした荷重は掛かりませんから、必要なキャパシティーだけから言えばホイールは10インチでも大丈夫ですが、路面の凹凸に対しては12インチよりも敏感になるようです。
また横から眺めたときに10インチと12インチでは違った印象になります。
私は12インチのほうがスポーティーな印象を受けると思いますますが、この辺は好みの問題でしょう。
側輪ブレーキは少しでも元気良く走ろうとした場合には絶対に必要だと思います。

 サイドカーで夜間に走る時は周囲からサイドカーである事を良く認識してもらう必要があります。
そのためには側車のランプは明るい物が付いていて、しかも
知らない内に消えていた、という事があっては困りますから、まずカプラーなどの配線がしっかりしていて、さらにドライバーから点灯している事が確認できるのが良いのですが、この確認できるというのは大抵のサイドカーでは無理なようです。

 CBX750FBサイドカーの時に紀伊半島の山中で夜間に側車のランプが消えていて大変往生したことがあり、ST1100サイドカーでは55Wのロードランプを見える場所に後付けで付けていました。
このランプは独立したスイッチで点くようにしており、昼間でも点けっぱなしです。
さらに夜間にもしテールが点かなくなった時には配線のチェックなどせずにロードのコードと直結すれば点くようにしていました。

 テールランプは昔はよく、夜間に後ろから見たときに自動車に見えたほうが良い、という事で本車と側車のランプの高さを合わせるという事をしていました。
GTUスタイル車のテールランプがフェンダーの上にあるのもこうした事の名残です。
しかし現在では本車のテールランプが高い位置に付くようになったので、高さを合わせるという事は出来なくなっており、しかも、私の経験ではサイドカーだという事はすぐに分かるようですから高さを合わせる事よりも絶対に消えない事のほうがずっと重要だと思います。
テールランプは低い位置にあった方が後続車から見た時に車間が詰まって見えるから安全だという考えもあるくらいですから高さを合わせる事にはさほどこだわる必要はないと思います。

 側車にはトランクというものがあり、トランクリッドは注文による取り付けになる場合があります。トランクはアウトドアライフを楽しむ人にはうってつけですが、そうでない人であってもトランクリッドは是非付けた方が良いと思います。

トランクリッドがない場合はシートを前に倒して荷物の出し入れをしなければならず不便ですが、それ以上に、トランクの中に本車に付いてるバッテリーを移したり、それ以外に錘を入れたりする場合があり、こうした作業はトランクリッドがあった方がずっと楽です。

トランクは大きな物の方が荷物がたくさん入って便利ですが、本車側があまり膨らんでいる物では本車のサイドバッグが開けられないという事もあります。
もっともトランクの大きい物はそれだけ重心が後ろにあるという事ですから、サイドバッグひとつを犠牲にしても良いかもしれません。

 トノカバーはフロントスクリーンを剥き出しにして側車ボディーの開口部だけを覆うタイプと、スクリーン上縁部にホックを付けて全体を覆うタイプとがありますが、青空駐車の場合には前者ではトノカバーの上に水が溜まるようになりますから、全体を覆うタイプが良いと思います。

 
NSU マックス + スタイブ
   
1/43 Schuco PICCOLO
(独)

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